第204話 新たな発見

 カルデリアの街から2時間くらい経った頃、ひとつの村が見えてきた。


「お、やっと目的地かな?」


「ええ、そうでしょうね。位置的にはあの村が神殿に一番近いと思います」


「おっけー、じゃああそこに降りよう。各自に通達!すぐ降りれるように支度してくれ」


『『了解!』』


 通信機越しに承諾する声が伝えられてきた。

 本当に魔道具というのは便利だな。


 村を降りると、車輪を取り出して大きな馬車に組み替える。

 魔獣タイプの仲間ペットたちにゴンドラを引いて貰い、村の入口まで移動した。


 空から大きなドラゴンや魔獣が近づいてきた事に気が付いた村の戦士たちが、戦々恐々としながらも果敢にも武器を構えてこちらを警戒している。


 飛竜以外の成竜のドラゴンはすべてSランク以上なので、確実に格上なのに良くも逃げ出さないもんだな。


「おーい!警戒しないで大丈夫だぞ~!俺はユート、SSランクテイマーだ!こいつら全部俺のペットだから、安心してくれ~!」


 と、遠目でも分かる様にギルドタグを見せつつ大声で呼びかけた。

 そうすると、戦士たちの中から代表者らしきものが中心に立ち、俺達が目の前に来るのをじっと見ていた。


「ほう、王国の人間か? ここまで来るのは珍しいな。一体何用でこの村にやって来た?」


 代表者らしき者が、貫禄ある声でそう問いかけてきた。

 他の戦士達は構えは解いたものの油断はしていないようだ。


「俺達は、西大陸ウルガイアからやってきた冒険者だ。俺はユニオン【ウィンクルム】の盟主ユートだ。よろしくな」


「ほう、西大陸からわざわざここまで来たのか、それはご苦労な事だ。私はバサマ。この"サラマンドラ"が住む村の長である。…ふむ、そのタグは確かにハイセリアのギルドタグだな。よかろう、お主たちを客として迎い入れよう。付いてまいれ」


 バサマはそう言うと、手で俺らを招き入れる。

 それを見た戦士たちは、やっとほっとした顔になり村の中に戻っていった。


 村の中は町と違って舗装されたりしていないが、その分広い道が広がっているため"ゴンドラ"馬車も悠々と通ることが出来た。


 俺らのゴンドラ馬車をみんな物珍しそうに見ているが、その中に一人も人間らしい者はいない。

 ここはさっき言っていたサラマンドラくらいしか住んでいないみたいだな。


 正直、言葉が通じて良かった。

  

 サラマンドラは、リザードマンの亜種で見た目はリザードマンに近いが、ワニみたいな顔で全員の鱗が赤系で統一されていた。

 どうやら、火山地帯に適応した種族らしく熱にかなり強いらしい。


 長の誘導で中央まで進んできた。

 そこには、長の家があった。

 

「ユートよ、お主だけ中に来るがいい。付き添いは認めない」


「…そうか、了解だ。じゃあ皆、話が終わるまでここで待機していてくれ。それで敵意が無いと示す事も出切るだろう」


「「了解!」」

「「承知しました」」


 全員から承諾を貰い、長の家に入っていく。

 普通ならひとりで見知らぬ家に入っていくなど無謀もいいとこだが、正直言って相手のランクを見る限り俺に勝てる要素は無い。


 村の長バサマ ランクB 種族:サラマンドラ HP:550


 …まあ、ぶっちゃけ瞬殺出来るだろうな。

 なのでここに招き入れたのは、逆に俺の事を信用していると言うことなのだろうな。


「よく来たユート殿。最初にドラゴンの群れを見た時には肝を冷やしたものだが、お主達で良かった。こんな小さな村など、ドラゴン一匹で壊滅してしまう。なので必要以上に警戒する必要があるのだ、先程の非礼は許して欲しい」


 そういうとバサマは深々とお辞儀をした。

 こういうのは、こっちの世界でもあるんだな。

 

「いえいえ、誰だってドラゴンやら大型魔獣やらがいきなり沢山来たらそうなると思うし気にしないでくれ。こっちこそ、驚かせて済まなかったな」


「そう言ってもらえるとこちらも気が楽になる。なにせ、お主からはドラゴン以上に恐ろしい気配がするのでな。…では、ユート達を村に歓迎しよう」


 ドラゴンより恐ろしいとか言われた事にちょっと引っかかるが、やはりランクが高いと相手に分かるんだなと再認識した。

 特に亜人種であるサラマンドラならば、より感覚が鋭いのかもしれない。


「有難う、感謝するよ」


「ところで、ここには何をしに来たんだ?」


「ああ、近くに【火の神殿】があるだろう?あそこに用事があるんだ」


「…なるほど、フレイヤ様に用があるのか。ユート殿はもしや【勇者】様なのか?」


「まさか!ただ、加護が受けられるといいな〜と思って来ただけだよ」


「いや、そんな気軽に受けられるものではないんだがな…」


 ちょっと呆れたような、困ったような顔をして(ワニ顔だから分かり難いが)そんな風に言われてしまった。


 真正直に『覇王』ですと言ったら、何が起こるか分からないのでそこは伏せておくことにしている。


 バサマの案内でキャンプを張れる一角を貸して貰えた。

 流石にこの人数を泊めれるような宿泊施設は無いという事だった。


 その代わりに共同施設の井戸やトイレや炊事場を好きに使って良いと言う事になった。


「ユート。ここには何日いる予定だ?」


「ん〜、今日一日かなー。すぐ終わればだけどね」


「分かった。じゃあ、無理に風呂作る必要はないか」


「え、作れんの?」


「おうよ、組み立て式の簡易型を用意しておいたんだ。一回に数人しか入れないけど、何日も入れないよりもマシだろう?」


「そりゃあ有り難いな。時間がありそうなら用意してくれると嬉しいな」


「おっけ、じゃあ用意しておくわ」


 ガントはそう言うと、キャンプ設営している他のメンバーの方へ向かい場所を確保しに行った。

 相変わらず行動の早い男だ。


 一日とはいえ、風呂があるかないかでは気分は違うものだ。

 

 キャンプの設営をしている間にニケとカルマを連れて、村を一通り見て回る事にした。


 村人の服装は、比較的暑い地域なのでかなり薄着が多いようだ。

 男は腰巻程度で、女性も胸を隠す以外は男とさして変わらない。


「ここにはサラマンドラしかいないのかな?」


「村の中には他の種族は見かけないですね」


 そんなことをニケと話していると、服屋を見つけた。

 主に村人の服と、その服の修繕や染め物をやってるようだ。


 主婦らしい村人がひっきり無しに出たり入ったりしている。

 案外繁盛しているようだ。


「おや、さっき騒ぎになった冒険者かい?大したものは無いが、気に入ったものがあれば買っていってくれよ」


 おばちゃん風のガタイのいい女主人に、何でもいいから買ってくれと声を掛けられた。

 何か変わった物はないかと物色していると、端っこの方に反物のようなのがいくつか置いてある。


「お?それは生地かい?」


「ああ、これかい?これは…お勧めはしないよ。涼しいしさらさらで手触りがいいのはいいんだけど、生地が弱くてね。私らじゃ一日ともたないから全然売れなくてねぇ」


「ちょっと失礼。…主様、この生地はとてもツヤツヤしてて触り心地が良いですよ」


「どれどれ」


 店主に断ってから、俺も手に取って触ってみる。

 やはり綿ではない。


 もしや、これは…。

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