第203話 移動時の過ごし方

 昨日はデンジャーだったが、この【カルデリアの町】もしばらくお別れだ。


 このホムラ亭での暮らしは、間違いなく快適だった。

 この世界に来て、やっと寛ぐことが出来たと思う。


 チェックアウトの際に、宿屋の店主と話を少ししたのだが、その時にかなり感謝された。

 実は、あのロイヤルスイートに泊まる客は滅多に居ないらしい。

 いや、客が殆どいない。


 あの超高級ルームに泊まるのは王族くらいらしく、かなりの上客と思われてしまったようだ。

 是非ともまた来てくださいと、何度も言われたほどだ。


 温泉も良かったし、部屋もかなり良かったので(ロイヤルスイートなので当然だが)、またお金が貯まったら来ますと約束をした。


 打ち上げを毎回ここにしたいくらいだなぁ。

 ただ、ここに来るのにかなりの労力がいるので、そのうちポータルとかで繋がってくれないかなー。

 とちょっと他力本願な事を考える。


 今回もユニオンメンバー全員で移動するので、当然"ゴンドラ"にて移動する。


 今回この町の住人にとって問題だった"溶岩窟の主"と"火の鳥"をかなり討伐したことによって、ある程度従来通りの生活が出来る目途が立ったみたいで、出発するときに手の空いている住人達が総出で見送りをしてくれた。


 この町のギルド長からもかなり感謝されて、いくらか報酬を上乗せしてくれたくらいだ。

 さらに、今後も何かあればユニオン【ウィンクルム】を指名させてもらうと言っていた。


 この世界で生きていく上で、ギルドとその町の住人からの信用は高い方が断然にいいので、今回の遠征はかなり上手くいっていると言える。

 俺らが来なかったら、溶岩窟の主も、フェニックスも討伐する者は現れなかったであろう。


 その場合の被害は、日に日に増えていくのでその事を考えると今回の報酬でもお釣りが来ますよとはギルド職員の話だ。


「このまま取引出来る可能な場所が増えたら、交易商をやるのにも良さそうだ。この先も困っている人達がいたら率先して手助けして、信用を得ていこう」


「ええ、私もそれがいいと思います。西大陸ウルガイアにはいくつも村や町がありますが、栄えているサニアや王都ハイセリアと比べると治安が不安定なんです。そこから冒険者ギルドへの応援要請は、ギルドの手に余るくらいひっきりなしに来るといいます。向こうでもその状態ですから、王都から離れたこの南大陸サウサリスの村や町だと、王都の救援は見込めない分困っている人たちが多いはずです」


 そう哀し気な表情で語るサナティは、この世界の住人だ。

 この世界の悲惨な事件や知らせを、幾度と無く見聞きしてきたのだろう。

 だからこそ、その言葉には哀しさや祈りにも似た訴える力があった。


「全てを救うなんて大層な事は出来ないけど、目の前の人を救うくらいは出来るさ。…まあ、俺は英雄でもなければ、慈善家でもない。それによって得られる利益を考えてから行動するから、あんまり大きな期待はしないでくれよ?」


 そう言って、ニヤッとちょっと悪そうに笑ってみるが…


「ふふ、そう言って目の前の人を見捨てれずに、つい助けてしまうのがユートさんの性格ですもんね」


 苦笑いするアイナに言葉を返されてしまった。


「確かに…、俺らも結局助けて貰ったしなぁ。…あ、でも報酬はキッチリ取られましたね」


 カイトも苦笑いしながらそう言って、俺に茶々を入れてきた。

 

「利益だけが優先の人であれば、こんな大人数が楽しそうに冒険なんてしてないと思いますよ。そんなユートさんを皆信頼しているって、ここにいる全員が分かっているんです」


 とてもむず痒いことを言われてかなり気恥ずかしいが、それでもみんながそう思ってくれていると分かって素直に嬉しく思った。


 だとしたなら、この関係をずっと崩さないようにこの先も頑張らないとだなぁ。

 ただ、俺一人で出来る事はただが知れている。

 だから、この先も皆には協力してもらうつもりだ。

 それよりも…。


「ったく、みんなお世辞がうまいなぁ。あ、そうだ。あんな高級宿はそうそう泊まれないからな?今回は特別だからそのつもりでな」


「「ええ~っ」」


 と一部のキッズから声が上がったが、大体が『そりゃそうでしょ』って顔だった。

 どうやら、俺が思っていた以上にあの宿に泊まるのは贅沢だったと感じてくれてたらしい。


「ただ、ユニオンの収入がもっと増えてお金が溜まったら、またあの贅沢な宿で療養しに来ような?」


 おおーっ!と今度はほぼ全員から歓声が上がった。

 貸し切りまでしていたので、二度とこんな事は出来ないかもと思っていた人もいたみたいだ。


 あの宿は俺もかなり気に入ったので、また来たいと思ったし頑張って稼がないとだね。

 宝飾品や財宝に興味があるわけじゃないし、この世界で高い地位を求めているわけじゃ無い。

 だから、お金はそういう贅沢と感じ事に使っていかないとね。


 それに生活するのにメリハリは大事だ。

 だから、『頑張ればいい事がある』って分かっている方が人間頑張れるもんだからね。


 そうして次の楽しみも作っておき、次の目的の為に俺達は空へ飛び発った。


 今現在、既にゴンドラに乗り込んで俺達は空の上にいる。

 2回目ともなれば、空の旅も慣れてきたようだ。

 皆ゴンドラ内で、思い思いの時間を過ごしている。


 ガントは意外ほどに(?)職人気質をここでも見せて、新しい鉱石を使って皆の武器を補修したり研磨したりしていた。


 なんだかんだでガントが居るおかげで、全員の武器はいつも新品かのようにピカピカになっている。


 耐久が落ちすぎてこれ以上は研磨してもダメな武器や、ボロボロになった防具があると必ずと言っていいほど新調したものを用意してくれていた。

 

 さすがに全員に毎回新品を渡すことは出来ないようだが、それでも十分に戦力増強に貢献してくれている。

 かくいう俺も、双剣を何度か素材強化や錬成をしてもらったりしている。

 あの双剣はお気に入りの武器なので、修理出来るのは本当にありがたい。

 

 幾度となく激しい戦いを途中で武器破損しないで戦えるのは、ひとえにガントのおかげなのだ。


 そう言えば、メイアは最近裁縫スキルに目覚めたらしい。

 なんでも、サニアの服飾職人のおばちゃんから色々聞いているうちに伝授されたらしく、今では簡単な普段着や各自の下着などを作ってくれている。

 もちろん、服のほつれ等の修繕もメイアがやってくれているのだ。


 そんなわけで、各自暇な時間を内職に費やしたり、運動しないで上げれるスキルの修練に使っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る