第191話 温泉宿②

 俺が嫌な予感を募らせていると、再び声が聞こえてきた。


「あっ、いたっ!」


「ちょっと、ほんとに行くつもりなの?!」


 なぜかかなり近くにリンとレーナな声がする。

 もはや、気のせいではなさそうだな…。


「レーナちゃん、リン〜、そっちまでいったら殿方が…」


 ええと…あの声はアーヤか?

 いつも二人に巻き込まれているが、決して断らないんだよな。

 人がいいのか、肝が据わっているのか…。


「こらっ、そんな格好で行くなんて駄目だ、待ちなさーい!」


 …ちょっと遠くからセツナの声がする。

 いや、まさかな。


「ふふ、皆さんあちらにいらっしゃるんですね」


「うん、そうみたい。ちょっと面白そうだからからかいに行きましょ!」


 サナティとアイナの声までする。

 ちょ、まてまて、一体何が起きているんだ?!


「おや、主様。皆様もこちらに来るみたいですね」


 これから起こるであろう事に頭を混乱させていると、なぜか真後ろからニケの声が聞こえた。


「ニケ!?お前いつからそこにいた」


「あら、気づいていなかったんですか?


「旦那様も、意外とそういう所は守備が甘いといいますか、気にされていらっしゃらないですよね」


「メイアッ!?いや、確かに脱衣所で一緒だったけども、あそこでそのまま着替えて来たのか?」


「はい?ええ、そうですよ旦那様。どちらにしろ、ご一緒した方が効率も宜しいですから」


「いやまぁ、そうなんだけども…」


 今、目の前には白く美しい髪をたなびかせ女神のような美しさ持つ女性と、凛としていて艶のある顔付きの妖艶の美女が薄い布を纏っただけの姿でいる。

 既に薄い布は濡れているため、やや透けて肌の色も見えそうだ。

 そこから目線を少しでも落とそうものなら、視界に入れては宜しくないものまで見えてしまうだろう!


 というか、良く考えると俺も見られてる事になるんだが、…この歳になると見られる事にはあまり抵抗感がないんだよなぁ。

 ましてや、メイド達には風呂上がりには服を着るまでなすがままにされるので、ほぼ

 そのせいか、体を見られることにはすっかり慣れてしまった。


「はぁ…。まぁ、いっか。深く考えるのはやめよう…」


 早々に諦めた俺の言葉で、ふたりがここにいる事に気がついた男子たちは自分の股間を防御しつつ驚いたり、興奮しそうになった瞬間に仲間に湯に沈められたりして楽しそうだ。


 メイアが人間じゃないのは皆知っているが、それでも結構なファンがいるので隠し切れない喜びが溢れているな。

 『見てはいけませんとは言いませんが、凝視しても許されるのは旦那様だけですよ?』と、その視線だけで凍り付くんじゃないかと言う程の冷たい目の笑顔を向けていた。


 ははは、若いっていいねー。

 ガントと俺は既に苦笑いだ。


 そんな時だった。

 空中を高速回転しながら飛んでくる物体がっ!


 それは空中でピタッと静止すると、チャポンッと湯の中に入った。


「やぁーっと見つけたっ!来たよ、パパー!」


 えええええええええぇ…

 一人の娘があられも無い恰好で宙を飛んできたんだけど。


「リン、湯着を着てるとはいえその格好で飛んでくるのはどうかと思うぞ?」


「だって、ここって広いからなかなか見つけれなかったから〜。こういう時じゃないと中々一緒には入れないでしょ?」


 周りの男子の目線も気にせずに、あられも無い姿で飛び込んできたリン。


 更にそれを追いかけて来たレーナとアーヤは…


「リン、そんなに急いで何処まで行くの…って、きゃあああああっ!」


「レーナちゃん、どうしたの…わわわわわっ!!」


 俺らに気が付き、前を隠して慌ててザブンと首まで湯に浸かるふたり。


「…リン、あれが正しい女の子の姿だと思うんだ、俺は」


「えへへへ。でも、パパになら見られても恥ずかしくないし!あ、皆も居るんだった」


 てへへと言いながら、俺の横に隠れるようにして座るリン。


 その仕草は可愛いが故に、歳が近い男子達に止めを刺したようで、男子達は恥ずかしさに耐えきれずにすすーっと奥の方へフェードアウトしていった。


 うん、もはや何も言うまい。

 鼻血とかで湯を汚されないで良かったわ。


 まさかの逆襲撃に驚いたが、まだこのメンツなら子供だしいいか…と思った矢先。


「あらあら、リンちゃん早いのね」


「本当にユートさん大好きなのね。カイトも覗きにくるくらいの甲斐性があったらなぁ」


 なんとサナティとアイナまでやってきた。


 サナティのその浅黒い肌を覆う白い湯着が逆に艶めかしさを増し、ハッキリと主張する女性らしい部分についつい目が奪われそうになる。


 対するアイナは、白磁のような透き通る肌に滴る水滴が神々しさを放ちつつも、薄い布を押し上げる大きな膨らみが大人の女性で有ることを証明している。


 うん、ご馳走様です。

 いやいや、流石に駄目だろっ?!


 うら若き乙女がそんな格好で男の前に出ては駄目だとおじさんは思うんだ…。

 

 ふと、となりのガントを見ると目が血走っている!

 ドゴウッ!と見えないように水中でコークスクリューで脇腹を殴っておく。


 ぐはぁっ!と呻くも、なんと耐えきった。

 なんて奴だ、ここに来てコレを耐えるとは!


「うおいっ!普通にいてーよ!何してんだっ!」


「いや~、その顔はアウトだろっ!」


 俺に抗議してくるが、煩悩に負けたお前が悪いのだ…


「むっ、なんだ。もっと騒ぎなってるかと思ったが、存外みな肝が座っているようだな」


 その言葉、君にそのまま返すよセツナさん…。


 一体この後どうなるんだっ!?

 というわけで、次回に続く!!

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