第190話 温泉宿①

 素材をギルドで換金し討伐報酬以外にもお金が手に入った俺は、奮発して宿の貸し切りをした。


 幸いな事に、最近ここらの特産品のひとつの”火焔鉱石”が入荷未定となっていたため、お金を持っている商人が全く来ていないので、ここのような高級な宿屋ホテルはガラ空きのようだった。


「いや~、お客さん方が来てくれて助かったよ。しかも、王国の噂でもちきりの【ウィンクルム】の盟主ともなれば、うちも箔が付くってもんです」


「そう言われると照れるけど、こちらとしてもトラブルにならずに貸し切りに出来るのはありがたい。とりあえず3日間くらいをこれで借りたいがいいか?」


 そう言って、ぎっしり金貨が入った袋を渡す。

 中身を見て、満面の笑みでうんうんと頷くと。


「はい、これで問題ありません。"ホムラ亭"へようこそ。ここでは一番の宿と自負しておりますので、どうぞごゆるりとおくつろぎください」


 店主が恭しく礼をしながらそう言うと、係の者が数名現れて俺らを部屋まで案内してくれた。


 通常はペットは入れないらしいが、かなり多めに渡したので『問題ありません』とのことだった。

 この世界の普通の家を一軒は買える金額を渡しているので、足りないとか言われると困る。


 ちなみにいくら渡したかは、推して知るべしだ。

 


 案内された部屋はロイヤルスイートルーム1つ、スイートルーム3つとなった。


 俺はロイヤルスイートになったのだが(最初は女性陣に譲ろうとしたのだが、俺がお金を払うのだからと断られた)、一緒に泊まるのを誰にするかで一悶着あった。


 結果は、俺とガントとシュウとリンの4人に加えて、サナティ、メイア、マイニャの3人、カルマ、ニケ、ヘカティア、ディアナ4人となった。


 多いように思うかもしれないが、これでもかなり余裕だ。

 ベッドルームが6つあり、それぞれがツインベッドになっている。


 ちなみに俺だけ一人でベッドルームをひとつ占領している。


 シャワールームやトイレも3つづつあった。

 これは、王国の宿よりも設備がいいな。


 なんでも富豪の商人が新しい設備を考案するたびに導入されていった結果らしく、お客様に合わせて日々進化しているんですと自慢げに説明された。


 スイートルームの方もベッドルームは4部屋あり、ここもトイレ、シャワー付きだ。


 最初は男女に分けようかと思ったが、

 あまり無粋な真似は止めようと、チームメンバーごとに分ける事にした。


 部屋内のベットの割り振りは自分たちで決めるだろう。

  

 なんか【地球】のリゾート地に来た気分だ。

 正直、そこまで高級なホテルに泊まったことがないので、もしかしたらそれ以上かも知れない。


 ここの温泉が良かったら、別荘を買ってもいいかもしれないな。

 いくらかかるか分からんから、もっと稼げるようになったらという感じだけど。


 さーて、まずは温泉だな。


 この世界の温泉は、丸裸で入るものではない。

 湯着と言われる専用の服を着て入るようだ。


 なので、基本混浴になるのだそうで…。


「くぅー、やっぱ温泉気持ちいいな。しっかし広いなここの大浴場。はじっこ見えないし」


「確かにな、大浴場とは言えこんな広いところ入ったことないぜ」


 取り敢えず、湯着があるし大丈夫だろうと先に俺らが入っているのだが、この湯着というやつが思ったよりも薄い。


 男性用は腰から下だけのもので、女性用は肩からひざ下までの薄い着物みたいなのだ。

 湯に濡れると透けて見えるので、色々とよろしくない。

 これで混浴普通ですとか、この世界の人々は結構オープンなのかな。


 一応着替える場所は別々になっているし、入る場所も分かれているのでそっち側に行かなければ会う事もないので女性達がこっち側にこない限り気にする必要性もないだろう。


「お前ら、いくら混浴だからって向こう側に行ったらセツナに絞られるからな?覚悟していけよ?」


 と、思春期真っ盛りの少年達に向かって言っておいた。

 別に煽ってるわけじゃないよ?

 本当に命賭ける事になりそうだから、注意しただけだ。


 正直ガントあたり、偶然を装って行くのでは!?とか思ってたが、案外そういう事をするタイプじゃなかったようだ。

 ほっとするような、残念なような複雑な気分だ。


 折角だから、ギャグマンガ並みに吹っ飛ばされて、キラーンと星になったとか言いたかった。


「ユートさん、【ムスペル】でレアボスに会ったそうですね。どんなヤツでした?」


 久々に一緒に行動するカイトは、色々と聞きたい事があったようだがまずは今日の出来事を聞きたいようだ。

 町でもその話題で持ちきりだから、気にならない方がおかしいか。


「あー、かなり厄介なヤツだったよ。Sランク相当なのに、防御力がめちゃくちゃ高くて普通の攻撃は全部弾いてしまう鱗に守られててさ。あの天然の鎧を突破出来ない奴は、やられちまうだろうなぁ」


「ユートさんがそう言うくらいだから、かなりの高防御力でしょうね。私達なら危なかったかもしない」


 俺の話を聞いて、ザインが真剣に考えている。

 相変わらず真面目なやつだ。


「へ~、おっちゃんが手こずる相手かぁ。俺らも行きたかったなぁ」


 ショウタが温泉にぷかぷかと浮かびながら、そんな事を言っている。

 尻と顔だけ出して浮くとか、結構器用なやつだな。


「確かにね。セツナさんと修行がてらに火山の方に行って来たけど、歯ごたえなかったもんなぁ」


「えー、ユウマ。あれって、氷魔法があったからあんなものだけど、あのワニも相当硬いんだよ」


「えー。でもさ、ユートさんが戦ったのはその親玉みたいなのだろ?きっと段違いに強かったに違いないぜ?そっちの方がわくわくするじゃんか」


 そんな時、遠くの方からキャッキャする声が聞こえてきた。

 何を言っているかまでは聞こえないが楽しそうなのは分かる。


「お、リン達も入って来たのかな?これだけ広くても声くらいは聞こえるっぽいな」


「ははっ、それってなんか銭湯みたいだな」


「あーっ、確かに。俺等が小さい頃はまだそんなとこあったよな。懐かしいなぁ」


 昔の銭湯は壁一枚隔てて男女に分かれていて、上が空いているからそこから家族同士で出る時間を確認したり、時にはシャンプー・リンスの投げ渡しもしていたとか。


 しかし時代のせいか、今は完全に分離した所しか残っていない。

 なので子供達にはピンとこないだろう。


 そんな事をぼやーっと考えている時だった。

 何故だかリン達の声が近づいて来る気がして、嫌な予感がする俺であった。

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