第170話 救われた心

 結構遅い時間になったので、夜ご飯もご馳走する事になった。


 移動も面倒くさいので酒場に来ていると、見慣れた人間がやって来た。


「あ、ユートさんこちらでしたか」


「おお、ライか。留守の間、特に問題ないか?」


「ええ、流石に例の一件以来はうちにちょっかい掛けてくる輩もいませんし、問題は起こっていないです。むしろ、あの時の冒険者たちが修繕工事の手伝いを申し出てくれて、早く終わりそうですよ」


 巡回だけという話だったが、資材運びやら廃材処理やら素人でも手伝えそうな事は率先してやってくれているようだ。


「そうか。じゃあ、修繕工事終わったらこの子達を先に住まわせてもいいかもな」


「おや、この子達は?」


「例のノーセリアでの戦いで残された子達だ。首領のグラムがお尋ね者だったから、王都には連れていけなかったのさ」


「ああ、それでサニアに居るんですね」


 ほら、お前達挨拶しなさいとセツナが言うと子供達はライに挨拶した。

 人の良いイケメンが優しく『これから宜しくね』と言うと、女の子二人は顔を赤らめてた。


「ライと言うのか、私はセツナ。ユート殿の配下に負けて軍門に下ったのだが、曲がりなりにもSSランク冒険者だ、戦闘の際は使ってくれて構わない」


 ユート配下のペット達に負けてプライドも打ち砕かれたセツナは、自称気味にそう言った。


「ええっ、SSランク?!英雄クラスじゃないですか。そんな、畏れ多いですよ…。それはそれとして、【ウィンクルム】にようこそセツナさん!そのうち分かると思いますが、ユートさんに出会えた貴女は幸運です」


 ライが恥ずかしげもなくそう言ったので、言い過ぎなのでは?と思ったが、この世界にしては贅沢しているので、あながち間違いでは無いかと思い直した。


「ランクやステータスだけが強さではないと、あの戦いで学んだからな。グラムはユート殿を見ていれば、私が求めている強さが分かると言い残して消えたからな。それがなんなのか、この目で確かめてみたいと思っている。しかし、幸運か…。本当にそうなら嬉しいね、期待させてもらうわよ?」


 こっちの世界に来てから散々な目に遭ってきたセツナは、いい加減自分にもいい事があっていいのでは?と思っていた。


 少なくともユートが、この目の前のイケメンの好青年が慕う程の人格者ではあるんだろうと理解は出来たので、期待する事にした。


「ねぇねぇ、リン。修繕工事って何かしら?」


「あ、うんとね。町の外れにパパ…ユートさんが買ったお屋敷があるんだ。そこにみんなで住んでいたのよ。おっかない人達が大勢押しかけて色々壊されちゃったから、今は直す工事をしているの」


 リンは、レーナの質問に困り顔で答えた。

 あの時ユート達がタイミング良く帰ってきていなければ、どちらかに死人が出ていただろう。

 そんな説明をレーナにしていた。


「え、おじ様ってこっちの世界のお屋敷をお持ちなの?しかも、そこに夜盗が大勢襲撃してきた!?」


「うん、でも騙されてた人たち以外はみんな捕まえられたから、もう大丈夫だって言ってたよ」


「まぁ、そんな事が…。リンも大変でしたのね」


 あはは、そんな事ないよ~?と苦笑いしながら襲撃について話を続けていた。

 男の子たちも、そんなリン達の話を聞いて色々と感心していた。


「そういや、リンはランクいくつになったんだ?」


「私は、このあいだAランクになったよ」


「おー、じゃあ俺らと一緒だね。俺らもAランクになったばかりだから、セツナねーちゃんに鍛えて貰いながらステータスを上げてるところなんだ。リンも一緒にやらないか?」


 

「うん、いいよ!でも、パパに聞いてみないと」


「パパ…?ねぇ、リン?貴女のお父様は、ユートさんとは違いますよね。一体どういう関係なの?」


 不思議に思ってたレーナがストレートに聞いてきた。


 重要なイベントがある時は、親が参観したりする。

 進学校でもあるリン達の学校は、授業参観に父親が来るのも珍しくない。


 同じクラスのレーナは、鈴の父親に会ったことがあるのだ。

 気難しそうな、それでいてどこか落ち着きのない感じの人だった事を覚えている。


 だがユートは、その父親に顔も雰囲気も全く似ていないので、どう考えても同一人物には見えなかった。


 まして、こんなゲームの世界に来るなど


「パパは…ユートさんはね、こっちの世界で死に掛けてた私達を助けて、この世界で家族として守ってくれるって言ってくれたの。まだ優しかった頃のお父さんの様に、とっても優しい笑顔で」


 嬉しそうに言うリンの顔は、学校に通ってた頃には見せないとても明るい笑顔だった。

 リンもまたあの学校では、少し寂しそうな、どこか諦めたような笑顔しか見せたことがない。

 そんなリンがここまで心を許しているだなんて、少し驚いた。


「そう…、そうだったのね。あのおじ様が貴女を救ってくれたのね。そして、こっちでの保護者として貴女を守ってくれているのね」


「うん、パパはね。この世界では本当のパパなんだよ。厳しいときもあるんだけど、とっても優しいんだ。だからね…、一緒にいるだけで幸せになるの」


「あの超真面目優等生がそこまで言うんだもの、おじ様の事は信頼出来るわね。でも良かったわ、貴女が良い人に出会えて。今の貴女は、すごく素敵な笑顔だもの!」


「うん!レーナも一緒に居ればすぐ分かるよ」


「リンちゃん、良かったねぇぇ」


「あ、アーヤ!?」


 ふとリンの方を見ると、二人の話を真剣な顔で聞いていたアーヤがなぜか涙目でリンに抱き着いていた。

 そのあとレーナもリンと抱きしめ合っているのが見えた。


「本当に仲が良い友達だったんだな、良かったなリン」


 そう独り言のように呟いて、こっちであの二人に再会出来たのは、リンにとって良かったかもしれないと思うのだった。




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