第156話 主人の帰還
「お前たち。ひとんちで、なーにしてくれてるんだ?うちの家族にも手を出しやがって、覚悟は出来ているんだろうな?」
自分がいない間に屋敷を燃やし、よりによって家族同然の仲間達を傷付けようなど、到底許せるものでは無かった。
その時点で、彼等の運命は決まっていた。
「カルマ、指揮している奴以外の魂を奪え!」
「承知!後ろのやつらは、すべて喰らいましょう。 抗って見せよ、…〈吸魂〉」
カルマが後方に構える男たちの中に飛び込み、静かに言葉を発した。
その後直ぐに、夜盗達およそ20名が一斉にその場に倒れた。
彼等から抜け出た魂がカルマに集まり、吸収された。
「ふん、誰も
カルマはそう言うと、静かにこちらに戻ってきた。
それを見届けると、ニケとユートも地面に降り立った。
「なんだ、何が起きている!?くそっ、話が違うじゃないか。ぐあぁっ!?」
ただひとり取り残され混乱している男を、竜化したヘカティアが踏みつけて地に伏せさせた。
逆に踏みつぶさないようにしているあたり、絶妙な力加減だな。
さらに竜化したディアナも男の目の前に立ち、逃げる気力を奪うように睨みつけた。
「旦那様、申し訳ございません。お屋敷をお守りする筈がこのような事に…」
「ああ、本当に酷い話だよな。俺の大切な家族と使用人達と屋敷を狙うだなんて、…奴等は万死に値するな。そこの冒険者達!お前等がどういう経緯でここに来たか知らないが、後できっちり落とし前付けてもらうからな!!」
火だるまになって負傷した冒険者たちは、現在サナティが回復にあたっている。
皆目の前にいるドラゴンや魔獣達が現れたことでこの世の終わりのような顔になっている。
「あ、あの旦那様…。私達は…」
「おおっ、済まない!無事で何よりだ!メイアも慣れない戦いでご苦労様だったな。あとは、俺らに任せて休んでろ」
そう言うと、指揮を執っていた男の所へ向かった。
「ああメイア…。我等の旦那様は、なんとも心が広いのだな」
「ええ…。お屋敷を守り切れなかった事、お咎めの言葉が一つも無かったですねゼフ殿」
ゼフとメイアは、ここまで襲撃を許してしまった自分たちを責めるような顔をしていたが、俺は彼らに怒りなど無い。
むしろ、自分の留守を死守しようとしてくれた事に感謝さえしていた。
「お前が
「は、はは。どうせ助からないんだろ?口を割ると思うのか?」
「勘違いしていないか?楽に死にたいか、地獄の苦しみを味わって死にたいか、どちらかと聞いているんだぞ?」
もちろん、嘘だ。
ここで殺してしまっては、誰が共謀したのか分からなくなる。
生きた状態で相手に突き出さないと、何度も同じことをしてくる可能性があるだろう。
「そんな脅し、素人がするもんじゃないぜ?全然、様になってない。無理をするんじゃないよ、おっさん」
「おっさんって、大して変わらんだろ…」
よくもドラゴンに踏みつぶされている状態でここまで言えるもんだ。
だが確かに素人の俺がやっても成果は出ないだろうな。
だったら…。
「じゃあ、プロにお任せするよ。カルマ、こいつの事頼んだよ」
「承知しました、主。さて、一生分の恐怖を今ここでお前に味わってもらおうか。生きている事を後悔するがいい。〈ホラーナイト〉!」
魔力を抑えてダメージを最小限にし、恐怖効果だけを向上させたスペシャル版を男にお見舞いするカルマ。
うわー、あれは俺もくらいたくないな。
───結果、男はものの数分で音を上げた。
「ひい、ひい。た、たのむ。頼みます、もう許してくれっ!!うあ、うああああああっ!!」
「さあ言え。お前をここに寄こしたのは誰だ?」
見てるこっちが怖くなるほどの形相で叫ぶ男に淡々と話しかけるカルマ。
この調子なら、すぐに口を割るだろう。
子供には刺激が強いので、リンとシュウも冒険者たちの介抱にあたらせた。
さすがに屋敷の中には入れれないので、離れた場所に集まらせ回復を行っている。
ついでにメイド達に言づけて、全員のギルドタグを確認し名前をメモさせておいた。
この件は当然ギルドに報告する予定だ。
「お、俺の雇い主は、元領主の息子の”デイブ”様だ。お前にコケにされた事を相当根に持ってたらしい。お前がギルドのクエストで遠方に向かうと聞いて、その間に屋敷が焼失してしまえば管理不行届きでの没収することも可能だと息巻いてたんだ。お前の部下や使用人たちも始末すれば暫くは活動も出来まいと、
───時が遡る事数日前
ユート達が北の大陸【ノーセリア】に到着した頃。
とある貴族の屋敷で密談が行われていた。
密談しているのは、デイブと黒いローブを着た謎の男だ。
「くそっ!、あのテイマーめ。まんまと私を嵌めやがったな。あの後は悪霊なんて出てないらしいじゃないか!」
「そのようですね。あの時に襲ってきた悪霊どもは、既に祓われた可能性が高いかと」
「ゼオスも、あのテイマーとグルだったに違いない。奴め、私を舐めるとどうなるか思い知らせてやる。おいっ、何か策はあるか?」
「それでしたら…。例のテイマーは、今はちょうど外の大陸に出掛けているようですよ。その隙をついて、野盗に襲撃を受ければひとたまりもないかと」
「はっはっは。なるほどな。例の手を使うんだな。よし、分かった。お前に任せよう」
「仰せのままに」
その男は、20年前には英雄と言われた者たちとパーティーを組んでいた程の実力者だった。
だが嗜虐性が強い性格だったためにパーティーを外されてしまい、その身を闇に墜としたのだった。
その後、その実力を聞きつけた前領主が子飼いにして自身のボディーガードに付けていたが、野心の強い長男のデイブに懐柔されて、前領主を裏切り暗殺したのだ。
領主暗殺計画の中には、あの屋敷の襲撃も入っていた。
あれは、領主が野盗に狙われているという演出をしたものの一環であり、また『領主は人質を助けない非道な人間』であると宣伝する為のものでもあった。
そうすればスムーズに、次の当主の座に付けると考えての行動だった。
そして、ほぼ計画通り事は進んだ。
今回の計画も、そのままうまくいくはずだった。
この屋敷の噂をそのまま利用して、冒険者たちを誑かしてここに向かわせるだけ。
冒険者たちが、相手が人間だと気が付いた時には屋敷は燃え果て、仲間もそこで力尽きて死ぬ。
そういう筋書きだったのだ…。
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