第155話 屋敷炎上

 その男が言うには、こういう話だった。


 三日くらい前に、身なりのいい男が酒場に現れた。

 そこで、身内の話なので内密にしたいという貴族からの依頼があるので協力して欲しいと言われたんだ。


 その男曰く、ギルドを通さない非公式な依頼な分、かなり良い報酬を出せると言われたと。

 また、すでに他にも同じランクの冒険者にも声を掛けているので、規定人数揃ったら打ち切るとも。


「それで、俺と他のメンバーも常に金欠だったしよ、すぐにやるって返事したんだ」


「そうか…。ちなみにここが【ウィンクルム】の拠点で、俺の家でもあるって知っていたか?」


「は?え?!いや、嘘でしょ。ここはお化け屋敷になった貴族の家で…、前から結構有名だったんだぞ?」


「それをユートが買い取って、今じゃ俺らが普通に住む屋敷なんだよ」


「いや、知らない!知らなかったんだっ!!」


 そう言いながら、地面に伏しながら平謝りする男を見てガントは、こりゃあ誰かに騙されているなと確信したのだった。


 確かに【ウィンクルム】結成前に買ったし、わざわざ家を買っただの、拠点はどこですだのは公表しないので、まだ知らなかったとしても不思議はない。


 だが、敢えてそこを隠したまま依頼を出したもの、すなわち今回の首謀者の狙いは…。


「怨恨か?逆恨みの線もあるか。あ、ここ売った貴族とか怪しいよな…」


 ほぼ、確信しつつも証拠は無いので一旦ソレは置いておく。

 まずは、この窮地をどうやって脱するのかが最優先だ。


「おい、あんた。仲間に言ってやめさせてきてくれ。これ以上やり続けるなら、命の保証はしないぞ?」


 騙されていたとしても、元々襲撃を仕掛けた時点で命を取られてもしょうがないが、無駄に同じ冒険者である彼らの命を取りたくはない。


「わ、分かったよ!すぐに伝える!」


 そういうと、ダッシュで仲間の方へ駆けていった。

 そこから僅かながらにどよめきと同様が広がっていくのが分かった。


「よし、チャンスだな。前に出ている奴らはこれで大人しくなってくれるといいが…」


 そういうと、ガントは真ん中に立ち大声をあげて戦う者たちに言った。


「おまえらあああああっ!いい加減にしおおっ!!ここは、俺らのユニオン【ウィンクルム】の屋敷だぞっ!これ以上やるのであれば、俺らに戦争を吹っ掛けた事になるぞ!俺らと命の遣り取りする、覚悟は出来てるのかっ!!?」


 いくら拠点を知らなくても、最近の【ウィンクルム】の動向はどの冒険者も注目している。

 しかも、つい先日にSランク冒険者を5人も生み出したのだ。

 そのユニオンと戦争をするという事は、余程の力がない限り自殺行為も甚だしい。


「お、おいっ!あれ、!”鍛冶師”のガントじゃねーか」


「確かにそうだ。マジで【ウィンクルム】の拠点なのかっ?!」


「や、やべーぞ。こんなのギルドマスターに知られたら、どやされるじゃ済まねーぞ!!」


 ガントを見て、皆口々にマズイだのヤバイだのと言い出した。

 それと同時に、みな武器をしまい降参のポーズを取るのだった。


 その時だった…。


「ちっ、つかえねー奴らだな!…よし、時間稼ぎは出来たな。お前らご苦労だったな。じゃあ、…そのまま!一斉射撃開始!」


 男がそういうと、後方から極大火炎魔法が敷地内にどんどんと撃ち込まれていく。

 それに合わせて火矢も雨のように降り注いできた。


「ぐああああああ!!」


「あああ、あちいいいいい!!!」


 前線にいた冒険者たちがいるのも構わずに、どんどんと撃ち込まれていく魔法と弓矢。

 20人程はいる冒険者達は、すぐに火の海に包まれてしまった。


 そして、前線に立つリンとシュウも。


「あああああ!!くうぅ。シュウ、下がろう!」


「こんな火じゃ、前に進めない。分かった、下がってガントさんと合流しよう」


 二人も避けきれずに、火傷を負ってしまう。

 HPだけはサナティの回復魔法で回復したが、火傷の痛みと傷跡は癒えていない。

 そしてそれは、回復するサナティも一緒だった。


「!!三人とも、大丈夫か!」


「大丈夫!!それより、屋敷が!」


 呆然と見上げると屋敷に火がどんどん放たれていくのが見えた。

 敷地には、炎に焼かれて呻く冒険者が多数転がっている状態。

 まさに地獄絵図だった。


「あーっはっは。しっかし、2度もこんな事させられるとは愉快なもんだ。あの豚野郎に報酬弾んでもらわねーとな」


 さっきの男がそんな事を口走りながら前に進んでくる。


「お前、何をしているのか分かっているのか??」


「おー、警備隊長の息子さんじゃないですか。まぁ、俺の事知らないでしょうけど。まぁ、何も知らずにそのまま焼け死んでくださいね。あっはっはっは」


 気が付くと、あたり一面火の海となっており、ガント達も逃げ場がない状態となっていた。


「こりゃあ、やべーな」


 額に汗を垂らしながらも、なんとか火を消そうとするが狙ったように火矢が飛んできて思うように動けない。

 サナティも水魔法を使ってみるが、焼け石に水だった。


「無駄無駄、どんどん火は追加するからな。明日には、丸焦げになったあんたらが転がるだけだよ」


 そんな事を言っている時だった。


 パキパキパキッパキパキパキッ!!

 と、辺りが一瞬で凍りついていく。


「な、なんだ!?なにが起きた!?」


 男は突然の事に混乱した。

 気が付くと、建物までが凍りついていた。


 さらに辺りに暴風と冷気が吹き荒れて、残りの火も一瞬で吹き飛んで消えた。


「お前たち。ひとんちで、なーにしてくれてるんだ?うちの家族にも手を出しやがって、覚悟は出来ているんだろうな?」


 そこに現れたのは、ニケに跨って相当ご立腹な顔のユートだった。

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