第154話 反撃開始

「あれ、リンとシュウ防具はどうした?」


「ごめんガントさん、寝る前だったから時間が無くて」


「私も、ごめんなさい」


「ったく、いくらなんでも無謀だぞ。だが、丁度良かったぜ。お前ら用に新調したものが出来た上がったんだ。これを装備するんだ。フィーとヒュン。装備するのを手伝ってやってくれ」


 畏まりました、というと二人が高速で二人に装備を付けていく。

 その手さばきは、もはや神業と言える。


「リンとシュウの二人が戦力の要になる。回復サポートが重要だ。サナティさんは、リンとシュウをサポートしてくれ」


「はい、分かりました!」


「頼んだ!残りの野郎どもは、両脇を固めるぞ。魔法に気を付けろよ?」


 おおー!と雄たけびが上がる。



「あ、そうだ!ドーラ」


「はい、ここにいます」


「俺らが戦っている隙に、厩舎のペットを外に出しておいてくれ。あいつらが戦ってくれれば、百人力だ」


「畏まりました」


 そう言うと、ドーラは地面にすーっと消えた。

 この屋敷内ならどこにでも移動出来るとゼフが前言ってたなと、ガントは思い出した。


「装備出来ました!」


「俺もオッケーだよ!」


 リンとシュウが新品の防具を付け終わった。


 リンの装備は黒い魔獣の皮をなめして作られた革のドレスで、可動部がぶつからないように作られている。

 金色の刺繍も入っており、一見するとチャイナドレスのようだ。


 シュウはミスリルで編みこまれたチェインアーマーで、軽い割にかなりの防御力がある優れものだ。

 リンの鎧ほど動きやすいわけではないが、大技が多いシュウにはぴったりの鎧だ。


「よし、【ウィンクルム】の名を汚さないように返り討ちにしてやろうぜ!行くぞ!!」


 おーー!と、雄たけびを上げて全員戦場となった敷地へ繰り出していった。


「おお、皆様!私達だけで抑えきれず面目ございません!」


「すみません!この状態での私達では、彼等を抑えるのが精いっぱいです!」


 二人は、複数の男たちを素手と短剣だけでいなし続けている。

 それだけでも驚愕なのだが、まだ傷ひとつ負っていない。


「ゼフさん、メイアさん!私とシュウも前線に加わります!援護よろしくお願いします!」


「「承知いたしました!」」


 リンとシュウが加わったことで、均衡していた前線のバランスが崩れていく。

 最近修練を欠かさない二人は、力に頼らない戦い方を覚えたおかげで、並みの大人では太刀打ち出来ないほど攻撃の精度が上がっていた。


「せいっ、とあっ、とりゃあー!!」


「だああああああ!!だああっ!!」


 リンとシュウが一たび剣を振るえば、大人たちがあちこちに吹き飛んでいく。

 そのお陰で襲撃者達を中庭まで押し返す事に成功する。


 さらに広がった戦域をカバーするのに、ライ達とガントが左右に分かれてカバーしていく。


「ち、一人一人は大したこと無いが、こいつらいくら倒しても起き上がってくる。キリがないぜ!」


「後ろの回復魔導士達が回復をしているようですね。この組織的な動き、やはり傭兵ですか?」


「くっ!だろうなっ!っとあぶね。弓兵も攻撃魔導士もいるのか!」


 そんな中、少し余裕が出来たおかげで相手の戦力を確認しに潜伏したゼフが帰ってくる。


「どうやら、今前線にいるのはBランククラスの冒険者のようです。金で雇われた者たちのようですね」


「なんだって?じゃあ、サニアの冒険者がいるのか。殺してしまうと後が厄介だな」


「ええ、でもそれだけではありません。後ろに控えている冒険者が10名いましたが、こちらはAランクの冒険者たちの様です」


「は?なんだって!」


 さすがに、いくらなんでもAランク10人は多すぎる。

 サニアの町にいるAランク冒険者の半数にあたる。


 それがこの襲撃に賛同するだなんて、いくらなんでもおかしすぎる。


「ただ、その者たちは最近はここらでは見かけない者たちばかりでした。というより…、数年前にここを襲いに来た者たちと顔が酷似しておりました…」


 そういうゼフの顔はかなり険しくなっている。

 ここで鬼の姿を晒すということは、ユートの屋敷には鬼が棲んでいると公表するのと同義。

 ユートには止められていないが、主に迷惑が掛かる事などしたくないと考えていた。


「てか、なんでこいつら手を貸しているんだ?…聞いてみるのが早いか。ゼフ、一人を捕えよう」


「承知しました」


 そう言うとゼフは闇に溶け込み、一人の男の背後に現れて渾身の一撃を込めて昏倒させ、そのまま闇に引きずり込んだ。

 傍にいた仲間の冒険者が、急に消えた仲間を探して狼狽えていたが、その後すぐにシュウに倒されていた。


「おい…おい、起きろ!」


「ん…、うあっ!っと…あれ、ガントさんじゃねーか!あんたもこの話に乗ってきたのかい?」


「はぁ?!お前、ここが何処だか分かっているのか?」


「え?悪霊と盗賊が根城にしている屋敷だろ?あのじーさんと、可愛いメイドさんが幽霊っていうんだから、びっくりだよな!しかも、超つえーし」


 そういいつつ、周りを見るとそのじーさんことゼフが傍にいることに気が付いた。

 なななんで!?と狼狽え始めたがゼフに一歩下がらせてガントは話を続けた。


「その依頼の話を詳しく聞かせろ」

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