第157話 制裁
「───屋敷と冒険者が燃えた後は、俺らは撤退する予定だった。そうすれば、襲撃したのも冒険者達だけになり俺らの存在が明るみに出ないで済むからな」
一瞬怒りがこみ上げすぎて、頭が真っ白になった。
その拍子にこの男の首を跳ね飛ばしそうになる。
こんなに怒りが込み上げてきたのはいつ以来だろうか。
今回、他の大陸に渡って分かったことがある。
人間だからとか、魔族だからとか関係ない。
結局は、そいつがイイ奴かどうかだけなのだ。
ガガノアや、ヒョウはいいやつだったし今後も仲良くしていきたいと思った。
逆に、あの黒騎士みたいなやつとは絶対に仲良くなれない。
というか嫌いだ、ウザイし。
あそこの村長や村人たちは仲良くやっていけそうだ。
逆に王都の貴族達などの中には、一瞥しただけでも嫌になる奴もいた。
なんだろう、生理的に受け付けないやつね。
だから、俺は人間の味方となったわけじゃ無い。
俺と仲良く出来るかどうか、そこが分かれ目になるだろう。
だから俺は、
「お前には証人になって貰う。覚悟しておくんだな。あんた、名前は?」
「俺の名前は…グレアスだ」
「グレアス、デイブの所に案内しろ」
「!!くっ、分かったよ、もう好きにしてくれ…」
グレアスは、全てを諦めた顔をして頷いた。
「ゼフ、帰ってきたばかりで済まないが出掛けてくるぞ。カルマ、外の奴等は?」
「ええ、虫の息だが、瀕死状態で寸止めしてありますよ。殺すのはいつでも出来ますが、どうする主よ」
「いい判断だ。メイア、奴等を動けないように縛り上げておいてくれ。それとギルドに報告してきて欲しい」
「畏まりました。では、直ぐに取り掛かります。みんな、手伝ってくれる?」
「「「はい、分かりました」」」
メイアに言われて他のメイド達が素早く対応する。
みるみる瀕死で気を失っている者達を縛り上げていった。
「ニケは念の為ここを守っていてくれ。頼んだぞ?では、行ってくる」
「畏まりました主様。お気をつけて」
カルマに乗ろうとしたら、子供達が戻ってきた。
「パパ!」
「ユートさん!」
抱きついてきた二人の頭を撫でてやる。
いくら戦闘には慣れてきたとはいえ、今回の相手は人間だった。
さらに屋敷も燃やされたし、かなり心に負荷が掛かった事だろう。
「怖い思いをさせたな。これから悪いおじさんを懲らしめてくるから、もう少し待っててくれな」
二人とも緊張が解けたのか涙目だったが、ぐっと我慢して頷いた。
うん、強い子達だ。
「旦那様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「「行ってらっしゃい!」」
ゼフとメイア、シュウとリンに見送られ、カルマに乗り双子の竜姫を引き連れて空に飛び立った。
グレアスは簀巻きにして一緒に載せてある。
目指すはサニアにあるデイブの別邸だ。
俺を本気で怒らせた事を、後悔させてやるとしよう。
───
デイブの別邸までは屋敷から十分というところだった。
高速移動したため、あっという間だ。
グレアスの話では、今日の計画結果を聞くために別邸で待っているらしい。
グレアスを降ろして、先に歩かせる。
逃げたりしたら命は無いとカルマに念を押された上に、召喚した"アークデーモン"を取り憑かせた。
「ははは、なんでも有りなんだなお前のペットは」
「そんなのは序の口さ。さぁ、早く行きな」
俺は隠蔽効果のある仮面を被って後に着いていく。
カルマとへカティアとディアナは、カルマの闇魔法"ブラインドネス"で姿を隠した。
屋敷の中に入り、立派な扉の前に来た。
コンコンとノックをすると中から『だれだ?』と声が聞こえてきた。
「俺です、報告に戻りました」
『入れ』
ギーっと扉を開けて中に入る。
「おおっ!早かったではないか!で、首尾よくやれたか?」
「はい。既に作戦は完了しています」
グレアスは淡々と答える。
上手くいった割に抑揚の無い声を出している目の前の男を一瞬訝しむが、元々そんなやつかと気に留めずに話し続ける。
「はっはっは、あのテイマーめ。帰ってきたら屋敷が無くなってさぞやびっくりする事だろうな!悔しがるその顔が目に浮かぶようだぞっ!」
「ほう、それはどんな顔だ?」
デイブは、グレアスの後に誰かがが立っている事に今気が付いた。
「グレアス、その者は誰だ?」
「この者ですか?そのユートですよ」
俺は前に出て仮面を外した。
「なぜ、貴様がここにいる!はっ、グレアス!貴様裏切ったな!?」
「裏切るとは…、なんの事でしょうか?」
グレアスはの目は虚ろ。
分かる人間が見たら、それが正常状態では無いと気がついたかもしれない。
しかし、デイブには分からなかった。
「
思ったよりもバカで助かった。
興奮しすぎて、自分が自白している事に気がついていないようだ。
「自分から話してくれて助かったよ。じゃ、覚悟は出来ているんだよな?」
グレアスは、その場で事が切れたように倒れる。
そこで自分が嵌められた事に初めて気が付く。
「ちが、違う!私じゃない!私は何もしていない!?」
「カルマ、やれ」
「承知。〈吸魂〉!」
魔法を解いて現れたカルマは、ガバっと口を開いてデイブの頭に齧りついた。
そして、そのままスキルで魂を吸い出していく。
ぎぁぁぁぁっ!と悲鳴を上げるが時既に遅し。
そのまま事が切れたように、デイブも倒れるのだった。
「お前たちは、そのまま一生牢屋で反省してろ」
俺はそう言うと、カルマに二人を運ばせてギルドに向かうのであった。
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