第153話 夜襲

 10人以上ここに拘束していたのに、残ったのはたった5人だけだった。

 しかも、みな若い…というか子供の様だった。

 

「はぁ、最後まで私に面倒を押し付けていくのね…」


「…というと?」


 セツナがため息交じりに説明してくれた。

 今いる5人は全員、グラムが手を焼いていた子供たちだという。


「この子達は中学生くらいの子供たちで、グラムの言う事を碌に聞かなかったの。それくらい、とてもヤンチャな子達なのよ」


 それで正直困っていたというより、面倒になったんでしょうねと。


「はぁ…次会ったらグラムのヤツ、絶対シメてやる」


 俺はため息交じりに、そう言う事しか出来なかったのだった。



 ヒョウには、色々と想定外の事が起きたので一旦【ウルガイア】に戻ると告げた。

 感謝しつつ、『絶対、必ず戻ってきてよね!』と涙目ですごい念押しされたので『必ず来るよ』と言いながら頭を撫でてやった。


 きっと父親もいなくて心細いのであろうが、事態は収まったしそのうち帰ってくるだろうから心配は無いだろう。

 食料も渡してあるし。


 取り残された5人とセツナは、そのままにもしておけないので再度拘束だけして”わが家”に連れて帰る事にした。


 最初は5人がブーブー文句を言いだしたので、カルマにナイトメアロードの姿になり、パカっと口を大きく開けてから、『今その頭を砕かれて死ぬのと、大人しく黙って付いてくるのと好きな方を選べ』と優しく語りかけたら大人しくなった。


 大人げない?

 いいえ、これが大人の対応です。


「もう早く帰って、風呂に入りたいよ…。よっし、最速で帰るぞ!」


「「承知!!」」

「「はぁーい!」」

「え、お風呂!?」


 一人素っ頓狂な声をあげてる人がいたがスルーだ。

 俺の仲間ペットがちゃんと返事してくれているので問題ない。


 ニケもファルコニアロードになってもらい俺はニケに乗った。


 子供5人は竜化したヘカティアとディアナに、セツナはカルマに乗せて、全速力で【ウルガイア】への帰路へと旅立つのだった。


 あのロペとの遭遇が、悪い方向にならないのを祈りばかりであった。


───


 西大陸【ウルガイア】に帰ってきたユート達は、そのまま真っすぐ屋敷のあるサニアに向かった。


 大陸に入って、ハーピーの山に差し掛かったので例の角笛を吹いたら本当にハーピーの長が出てきた。


 大勢のハーピーに取り囲まれている姿を他の冒険者が見たら襲われているようにしか見えないだろうが、空を飛んで移動している冒険者は数える程しかいないだろうから、特に心配はいらない。


 取り囲まれた時にセツナが慌てていたくらいで、空の移動はおおむね順調だった。

 (ちなみに子供たちは、ドラゴンに乗れたのと近くでハーピーの群れを見れて興奮気味だった)


 数時間掛けてサニアの町に着く頃には、すっかり夜となっていた。

 神殿の攻略やらグラムとの戦闘やらで随分と時間を取られてしまった。


 ふと、自分の屋敷の方を見るとやけに明るい灯がついている。


「うちの屋敷って、あんなに明るかったか?・・いや、あれは?」


 よくよく見ると煙も上がっているように見える。


「なんだ?何かを燃やしているのか?」


「主よ、どうやら敵襲を受けているようです。急いだほうが良いかと」


「なんだとっ!!全員、全速力だ、急げ!!」


「「「了解!」」」



 ───およそ1時間前


「はぁ、今日もパパ帰ってこなかったな」


「10日くらいって言ってたろ、リン。まだ1週間も経ってないぜ?カイト兄ちゃん達も明日の朝には帰ってくるらしいから、明日出迎えるのにそろそろ寝よう」


「うん、分かったよシュウ。…ねえ、きっと大丈夫だよね?」


「え?…ははっ、誰の心配しているんだよ。あのユートさんだよ?今頃、もうクエストクリアしているんじゃない?」


「そっか、うん、きっとそうだね!じゃあ、寝る準備する。いつでも笑顔で出迎え出来るようにしっかり寝ないと!」


 シュウは、カイト兄ちゃん達の事をすっかり忘れているリンに苦笑いしながら、自分も寝ようと自分の部屋に戻ろうとした。


 ──その時だった。


 ドーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!


 突然爆発音が屋敷の門の方から聞こえた。

 慌てて窓を開くと、そこには何かで爆破されて炎上している門と、なだれ込んでくる大勢の何者かが見えた。


「なんだあれ!?くっそ、こんな時に夜襲だなんて!」


 慌てて寝間着を脱ぎ、冒険用の服を着る。

 防具を付けている暇はなさそうだった。


 すぐに廊下に出ると、同じく服だけ着替えたリンが居た。


「リン!」


「シュウ!一体何が!?」


「分からない。でも、いっぱい武器を持った大人が見えた!俺たちだけじゃ危ない、ガントさん達と合流しよう」


「うん、分かった!」


 そういうと、床からメイドのヴァイがふっと現れた。


「うわあっ!って、ヴァイさん。急に出てきたらびっくりするから!」


「今は緊急時ですのでご容赦ください。すでに他のメイド達が皆様を呼びに向かっています。屋敷の入口はゼフ様とメイア様が構えていますので、お二人はロビーへ。ついてきてください」


 そう言われたリンとシュウは、ヴァイについて行って最短ルートでロビーにたどり着いた。

 外から既に戦闘音が聞こえてくる。


「シュウ!リン!来たか。さっき偵察したドーラが言うには、冒険者らしき者達が俺らを襲ってきたみたいだ。数は30~40人だとよ」


 今来た二人に説明をするガント。

 彼にしては珍しく、装備を付けていた。


 ロビーには、ユートが発ってから毎日来ているライとサナティの兄妹二人と、その仲間メンバー4人。

 そして、ガントとシュウとリンの計9人の冒険者達とメイド達5人。

 

 幸いな事に戦う事が全く出来ないマイニャは、まだ自宅から通って来ているので、すでに自宅に帰っていた。


「ここが俺たちの拠点だと知っててやってるとしたら、ユートやカイト達が居ないのを知っててわざと今を狙った可能性がある。全員、相手は人間だが躊躇はするなよ!油断したら俺らの命の方が危ない」


 敵はこちらのランクも分かっていて襲ってきている可能性が高い。


 メイアとゼフの存在は想定外だろうが、それでも二人だけでひっくり返せる数ではない。


 ここは、自分たちがなんとかするしかないのだ。

 皆分かっているのか、お互いの顔を見合わせて頷くのであった。

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