第152話 逃亡者

 呪術師シャーマンは、ニンジャ同様にレア職で、最初から適正がある者しか成れない職業だ。


呪術師シャーマンだぁ?そんなレア職なやつ見たことないぜ?」


「ええ、私も知りませんね。少なくともクランメンバーの中にはいませんよ」


 うーん、嘘をついている感じではないかなぁ。

 そうなると、やっぱり犯人が別にいるのか?


 それはそれで、かなり問題なんだが…。


「カルマ、どう思う?」


「今のところ、あ奴が嘘を言っている可能性は低いです」


「だよなぁ。俺もそう思う。だとすると…」


 可能性で一番高いのは、グラム達が到着した頃には誰かが大精霊を倒していたことになる。

 しかも、去っていった後に呪術を仕掛けて暴走させた奴が。


「一応聞くが、大精霊イグニスが言うには冒険者たちが襲ってきたと言ってたけど、お前たちじゃないのか?」


「ああ?俺だってどうせなら戦ってみたかったぜ?久々のボス戦だと思ったのによ、戦えたんだったらやりたかったぜ」


 どんだけ好戦的なんだ。

 だが逆に隠す理由が無いって意味では言っている事を信用できるか。


「うーん。どういうことだ?」


「主様、もしかしたら呪術を受けたときに偽りの記憶を埋め込まれたのかも知れません」


「え!?そんなこと可能なのか?」


 大精霊にそんな事が簡単に出来たら、色々と不味くないか?

 簡単に世界中に厄災をばら撒けることになる。


「私も詳しくはわかりませんが、古の呪術にそういう類のがあると聞いたことがあります」


「そうなのか。カルマは何か知っているか?」


「…主、確かに魔族の中にはそういうのに長けた者が居ますが、それが出来る奴だとしたら…」


「だれなんだ?」


「それは、【魔王】の一人です」


「!!?」


 魔王?魔王ってカルマ達を配下にしてたやつか?

 そんなやつがこんな所まで来て何を…?


「あぁ、魔王と言っても魔都にいる大魔王ではありません。魔族…つまり、ニンゲン以外の種族の王が魔王と言われているのですが、その中の一人の事です」


 魔王っていっぱい居るのか?

 そういや、ディアナとへカティアもそんなような事言っていたか。


「なるほど、そうだとしても何の為に…」


「それは、本人に聞かないと分からないでしょうね」


「出来れば、そんな危なそうなヤツに会いたく無いんだが…」


「まぁまぁ、そう言わずにお話しましょうね?」


 ん?

 今、だれが喋った?


「おや、やっと気が付きましたか?」


「貴様、いつからそこに…」


 いつの間にか真っ黒なピエロ服を着た男が焚火にあたって座っている。

 いきなりの事に反応しきれずに、唖然としたままその男の方を見た。


 何より、察知能力の高いカルマとニケが気が付かなかったというのは、異常事態だ。


「本当に余計なことをしてくれたもんです。”魔王様”がその男たちを引き入れるために立てた計画が台無しですよ。本当、私の労力を返して欲しいものです」


 そういうと、男がゆっくりと立ち上がる。

 それに反応し、カルマとニケが俺の前に立ち攻撃態勢をとる。


「ああ、今日は挨拶しに来ただけです。グラムというんですね、そこの者は。…私は【呪詛王カーズ】様の配下で、ロペと申します。以後お見知り置きを」


 黒ピエロのロペは、大仰にあいさつをしニヤリと笑いこちらをみた。


「本当はそこのグラムに、今回の騒動を解決させて手柄を立てさせて、少し有名になってからスカウトするという手筈だったのですが、まさか関係ないテイマー如きに先にやられるとは私も些か面を食らいましたよ。でも、もう終わったことはいいのです。さあ、グラムさん。私たちの国に来ませんか?あなたの好きな事やり放題な国ですよ?役職も”将軍職”を用意しています。どうです、悪い話じゃないでしょう?」


 魔王の配下が仕組んだことだったと自ら暴露してるよこの人(?)。

 しかし、その気配から只ならぬものを感じる。


 現に、いつもならすぐに手を出すカルマが手を出していない。

 少なくとも、注意しなければならないようだ。


「へぇ、あんた相当な自信を持っているようだな?あんたは俺よりも強いのか?」


「おや、面白いことを聞く人間ですね。ですが、私は優しいのでちゃんと教えてあげましょう。ええ、もちろん私は貴方よりもはるかに強いですよ」


 そういうが早いか、一瞬にてグラムに前に現れて片手で顔面を掴み地面にひれ伏しさせた。

 ギリギリと今にも音がしそうな勢いで掴まれているグラムは苦悶の表情を浮かべているようだ。


「息をするのと同じくらい簡単に倒せるくらいにはね。で、何をご所望ですか?」


「うぐぐ…。話が早くて助かるぜ。そっちに付けば、俺は更に強くなることが出来るかい?」


「ああ、そういうことですか?もちろんです。私どもに付いてこれば、すぐに強くなれますよ!!」


 それを聞くと今度は、グラムがにやりとする番だった。

 その様子を見てロペはグラムをぱっと放した。


「よし、その話乗った。すぐに俺を連れていけ!」


「!?グラムさん、俺も付いていくぞ!」


「わ、私も!」


「…セツナ、お前はダメだ。そこのユートについて行きな。そこにお前が強くなる鍵があるはずだ。頼んだぜユートのおっさん!」


 すでに、拘束を解かれて立ち上がっているグラムは、ロペに色々と条件を出している。

 連れていくメンバーを指示しているようだ。


 おいおい、俺について行けとか勝手に決めないでいただきたいんだが。

 というか、勝手にどこに行く気なんだ?


「分かりました、いいでしょう。連れていくものはその者たちだけで?」


「ああ、若い奴以外は連れて行こう。はっはっは、これから楽しくなるぜぇ!」


 遠く、テントの方からヘカティアの『あれ!?人が消えたっ!?』って叫び声が聞こえる。

 一体何がなにやら…。


「ユート、若いやつらの面倒を見てやってくれ。俺は魔族側に行く。もっと強くなったら、またリベンジさせてもらうからな!またな。よし、ロペ。頼んだ」


「はいはい~。どっちが上か分かってるんだか。…面白いニンゲンだ。じゃあ、いきますよ~」


 そういうと、アイテムをひとつ使い巨大な転送門ゲートを出した。

 そこに次々と吸い込まれていく。


 セツナも飛び込もうとしたが、すり抜けてしまい中には入れなかった。


「あー、ダメダメ。これは私が指定した者しか通れませんよぉ?じゃあ、またどこかでお会いしましょう~!」


「グラム!!」


 セツナが叫ぶも、もうそこには誰もいなかった。


 ディアナがその後に慌てて走って報告しにきた。

 監視していた人間が急に大勢消えてしまったと。


 そこで今起きたことを掻い摘んで話した。


「ええっ!あの男、都合のいい事言って逃げたのですかっ?!」


「まぁ、そうとも言うのかな。ちなみにヘカティア達は、ロペって知っているか?」


「ん~。私たちは会ったこと無い…と思うよ。カルマは?」


「我もあの男は知らぬな。だが、あの魔王の名前は聞いたことある。本当なら、なんとも厄介なやつに遭遇したものだ。ただ、この場にいつまでも居ても危険なだけだろうな。…主よ、一度人間領に戻った方が良いかと」


 確かにそうかもしれないな。

 どちらにせよ戻る予定だったのだし、取引の件はまた今度ゆっくりでいいだろう。


 まずは、テントの方を見に行かなくては。


「ええと、…5人だけ?」


「うん、5人だけ」


 たった一瞬で大人数を連れ去っていった魔族に唖然とするのだった。

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