第138話 開眼

 気がついたら朝になっていた。


 なんか柔らかいものが枕にされているようだ。

 さらに柔らかいものが頭に乗っていて、気持ち良いが重たいな…。


 ………、え?


「あっ、主様!お気が付きになりましたかっ!?全く、カルマも無茶な訓練をさせるものですっ!」


 そう言うニケの声が上から聞こえるが、何かに遮られてその顔は見えない。

 これはまさか…、いや間違いない。


 ガバっと起きて、ニケの膝枕と豊かな胸のクッションから抜け出す。


「あら…、残念」


「何が残念なんだ。普通逆だろ…」


 心地良い感触を名残惜しみながら、辺りを見渡した。


 そこにはニケとディアナとヘカティアがいて、俺の事を看病していたようだ。


「あら、マスター。気が付いたのですね。ニケの膝枕は気持ちよかったでしょう?」


「ね!そうするとマスターが喜ぶよって私達が教えてあげたんだよっ!」


 ニヤニヤしたへカティアと、ディアナがそう言った。

 どうやら、ヘカティアとディアナに唆されたようだな。


 ったく、余計な事を吹き込んで…、まぁ気持ちよかったけどさ!


「もう夜か。あれからどのくらい経ったんだ?」


「もう、無視しないでよっ!…ええっとね、大体2時間くらいかな~」


 2時間か。

 さすがに、中級魔法をあの狭い空間で喰らえば致命傷にもなるか。


 だが確かに、あの時何かを掴みかけた気がする。

 あの時の感覚を思い出そうとしていると、カルマが戻ってきた。


「主、起きましたか。体の方は…すっかり良さそうですね」


「ああ、みんなが治療してくれたおかげでね。…カルマ、あの時何かを掴みかけたんだが、お前は分かるか?」


「なんと!主は流石だな。で、どんな感じでした?」


「なんか、時間がゆっくりになった感覚になって、攻撃がどこに来るのか分かりかけたんだ」


 それを聞いて、カルマは満面の笑みを浮かべた。


「素晴らしい!主よ、ステータスで自分のスキルを確認するのです」


「ん?ちょっと待ってな…。ん??これは、派生スキル欄に『攻撃予測』ってのが増えてる…。あと、『魔導の極致』ってのが増えてるな」


「なるほど。あれだけで”覚醒”するとは、流石は我が主だ。そのスキルは覚醒スキルというもですよ。特定の条件を満たさないと派生しないスキルです。主、おめでとうございます!」


 カルマは更に詳しく説明してくれた。


 なんでも、”覚醒スキル”は誰でも覚えれるスキルではなく、極限状態下で派生元のスキルを使うと習得出来るらしい。


 しかも、どれもパッシブスキルということで、一度覚えれば自動的に常時発動する優れたスキルということだった。


 狙いは、『攻撃予測』の方だったみたいだが、『魔導の極致』まで覚えれたのは運が良かったらしい。

 それぞれのスキル効果は以下の通りだ。


 『攻撃予測」:集中が高まった時に、相手の攻撃の軌道が分かるスキル。パッシブ発動。

 『魔導の極致』:連続魔法発動時、無詠唱およびMP消費減。


「この『攻撃予測』があれば、”幻龍”の攻撃も避ける事が可能です。次の夕方までに使いこなせれるようになれば、かなり優位に立てるでしょう。あとは、精霊をもっと使いこなして貰わないとですね。極めれば、間違いなく勝てるでしょう。それと我らの加護を受ければ完璧です」


 新しいスキルを習得出来たのも束の間、まだまだ修行が必要だということでがっくりしてしまった。

 だが、もう夜だしさすがにドンパチやるわけにもいかない。


「もう、日が落ちております。今日は、この集落で休ませてもらいましょう。特訓再開は明日の朝からがいいですね」


「だね!明日は私達も手伝うよ!」


「そうですね、たまにはそういうお手伝いいいかもしれないですね、マスター?」


「ああ、頼んだよ皆。ここでなんとしても成功させないとな」


 みんな、俺以上にやる気に満ちている。

 なんだかんだ言って、自分の主人がコテンパンにやられたのは悔しかったということだろう。


 しかし、伝説の魔獣たちに修行を付けられて、明日で俺の命が尽きてしまうんじゃないだろうかと心配になってきた俺だった。



 ───翌朝


 朝になると昨日の霧が嘘のように晴れ渡り、森の中なのに日差しを浴びて起きることが出来た。


 朝食は、ガガノア達が川で釣ってきた魚とトウモロコシを潰したような物を焼いたものを用意してくれた。

 どちらも馴染みないものだったが、食べてみると素朴な味で美味しかった。


 お礼にと、フロストドラゴンの肉を一塊あげると皆大喜びしていた。

 これをキッカケにいい関係になれるかも知れないな。


 ヘカティアが、ぼそっとリザードマンの肉って美味しいのかなぁ?と言ったときは場が凍り付いたが、いやー冗談が下手な子なんですよ、と言って誤魔化した。


 あれは本気の目だったけどね…。


 集落から離れた広場で新しく習得したスキルと、精霊を使役する練習を行った。

 どちら訓練も、兎に角集中力が必要だったので苦労した。


 しかし、一日修行したおかげで昼過ぎには自在に使えるようになった。


 特に、『攻撃予測」はやばかった。

 カルマとニケの同時攻撃ですら、躱すことが可能なのだ。

 (但し、肉体が追いつけない速度の攻撃は避ける事が出来ないので、注意が必要だろう)


 さらに、精霊術スピリチュアル指揮者コンダクターの両方の熟練度が100を超えたことにより、新しい派生スキル『妖精使役ファミリア』を覚えた。


 このスキルを使うと、自由に精霊を操ったり視覚を共有したり出来る。

 そして、カルマが必要と考えていたスキルはまさにこれだった。


 ───夕方


 準備は整った。

 あとは、俺がいかにうまく立ち回れるかどうかが鍵となる。


「我が主ユートに、闇の大精霊たるカルマがその加護を与えん」

 

 カルマが。


「我が主ユートに、風と雷を司る嵐の大精霊たるニケがその加護を与えん」


 ニケが。


「「我ら、竜の巫女。その主たるユートに竜姫の加護を与えん!!」」


 ディアナとヘカティアが。


 それぞれの種族の加護を俺に与える。

 不思議な、それでいて暖かな力に包み込まれ、体の底から力が湧いてくる。


「よし、じゃあやってくるよ」


「ああ、俺等リザードマンはここで待っているよ。無事で帰ってくることを祈っている」


 そうして、激励を貰いながら幻龍が待つところへ踏み入るのであった。

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