第131話 上陸、東の大陸【イーガス】

 北の大陸【ノーセリア】から東の大陸【イーガス】に渡る海で、魔族軍の警戒に掛かるかと思ったが、全く遭遇しなかった。


 『北の大陸経由で渡る酔狂な人間なんて、滅多にいないからでは?』とディアナが言っていたので、きっとそうなのだろう。


 自分が考えているよりも、本来は渡航する難易度は高いようだ。

 改めて、テイマー最高!と思ったが、口には出さなかった。


『主様、何やら機嫌が良いようですね?』


「あ、マスターニヤけてる!や〜らしー」


 と思ったのに、どうやら顔に出ていたらしい。


「違うわっ!何が違うのか分からないけど、いやらしくはないっ!」


「慌てて否定する所が余計怪しいですよね、へカティア」


「ふふふ、やせ我慢は良くないよ~?」


 ニケなんか、『そんな我慢されているのですか!?主様が仰っていただければ、私はいつでも!』とか言い出す次第だ。


 あらぬ方向に話が向っていくので困りつつも、今度は喜びを隠さない。


「ソッチの話じゃなくてさ、お前たちとこうしていられるのも、空を飛んで冒険出来るのも、『調教師テイマー』取ったおかげだなと。本当に良かったと思っているよ」


 そう言うと、さっきまでからかってきた双子も満面の笑顔になった。


「本当ですね。主が居なければ我もニケもココにはいなかったでしょう。貴方がいて、我らが居る。今もこの先もこの関係だけは変わらないのですからね」


「カルマって、そんな殊勝な事言えるんだ?!ビックリだねディアナ!」


「私も耳が壊れたのかと思いましたわ、へカティア」


 双子の標的は、カルマに移った様だ。


 カチンと来たカルマが"プチグラビティボール"を二人の間に作り出し、頭をゴチンとさせていた。

 相変わらず器用な事をするもんだ…。


「いったーい!てか普通こんなことに、そんな高等技術を使う?!」


「うう…カルマは相変わらず容赦が無い…。しかし、相変わらず闇精霊くらいしか使えないと言われる重力魔法は強力ですね。私も使えたらいいのに」


 あれ、重力魔法って闇精霊の魔法だったのか?

 しかも、種族特性ないと使えないとか、けっこう高位魔法だったのな…。


 なるほど、通りで強力な訳だ。


「この魔法は、闇精霊の上位種か我が眷属くらいしか使えないのです。もしくは、我と契約したものだけです。なので、過去の勇者で数人は重力魔法が使えたものがいるようです」


「勇者で闇の精霊と契約したものがいるのか」


「意外と多いですよ。光と対をなす闇の魔法は強力なものが多いですからね」


 勇者というと光魔法だけかと思いきや、闇魔法を使うのだそうだ。

 万能に魔法を扱えるものが多いため、基本はすべての属性を扱うのだという。

 

「ちなみに光の魔法だと、何があるんだ?」


「光は、天空魔法というのが有名ですね」

 

 天空魔法?聞いたことがないな。

 スキルとして覚えれる物の中で、該当するものは無い。

 重力魔法と一緒で、習得条件付きの魔法ということだろう。


「それはどんな魔法なんだ?」


「天空魔法というのは、重力魔法と対をなす魔法で、魔力を消費する代わりにがメインです。効果は仲間にも発揮できるので、MPが多い者が使えば、自在に空を飛べますよ」


「なるほど、それは凄いな。まぁ、俺はニケとカルマ達がいるから必要無いだろうけどな」


「ああっ!私達もいるよー!?」


「そうです、私達だってマスターの羽になりますからね!!」


 そう文句を言ってくるヘカティアとディアナ。

 それを見て、もうすっかりこの二人も俺の仲間なんだなと感じた。


「そうだな。二人とも頼りにしているよ」


 そう言って頭をわしわしすると、もう子供じゃないんです(だから)!といいながらも、気持ちよさそうにしている二人は振り払う素振りも見せなかった。

 ニケが『わ、私も!!』と主張したので背中をなでなでしてあげた。

 元気出ました!といって、更にスピード上げたおかげで重力が掛かりすぎて窒息しそうになった。


「主、もうすぐで海を抜けます。この先をまっすぐ行けば村に着くはずです」


『そうですね。ここは、我らファルコニアの生息地に近い故に、土地勘は多少あります。”幻龍”もすぐに見付けて見せますよ』


 今時点で、三日目の朝だ。

 ここまでで既に丸二日使ってしまっている。


 今日含めてあと五日のうちに幻龍を探して捕まえないといけないので、結構時間が無い。

 かといって、当てずっぽうに探しても見つからないので、ニケとカルマの探知能力と、ディアナとヘカティアの同族検知能力に期待している。


 さらに、的を絞るためにこれから寄る村で情報を仕入れるのだ。

 但し、あんまり人間の俺が出歩くのも問題があるので、とりあえず宿を取って俺は仮眠を取る予定だ。


 夜になれば、暗くなるので酒場とかに出入りしても顔を隠す魔族が多いのであまり目立たない。

 それまでは、ニケとカルマと双子達に情報収集してもらう手筈になっていた。



 そして、ついに東の大陸【イーガス】に到着した。

 ここからは、カルマとニケが人型になり、ヘカティアとディアナに乗る。


 二人が高貴な魔族であると思わせるためと、逆だと舐められるのが目に見えているからだ。


 それに姿が以前より成長しているとは言え、ヘカティアとディアナの顔を覚えている者がいたら困るからだ。


 もちろん、人化中はフードで顔を隠す予定である。

 竜族の証である角はわざと隠さないでいることにより、龍人族≪ドラゴニア》だと思わせる狙いもある。


 そんな打ち合わせも終わり、予定通りに村に到着した。

 村人や、魔族の冒険者らしき者たちが二人を見ておおーっ!と、歓声を上げていた。

 やはり、ドラゴンロードを従わせている者は格が違うらしい。


 そんな群衆の中から、魔力を秘めた老人が出てくる。

 こそっと鑑定してみた。


 老魔シャール ランクS 種族:魔人族 HP:2800


 うん、俺と同格くらいがいる。

 これで老人って、やっぱ魔族側はやべーな。

 

「これはこれは、高貴なる方とお見受けします。この村になんのようですかな?」


 シャールという老人は、カルマを見て話しかけた。

 気配を隠さないカルマがリーダーだと感じたようだ。


「我は、バイス(偽名)。近くでクエストをしていたんでな。少し立ち寄らせてもらった」


「なるほど、バイス様ですか。こんな辺鄙な村にようこそお越しくださいました。荒くれ者たちが多いので、突っかかるものがいますでしょうが、寛大な対応をおねがいしますね。フォッフォッフォ」


 なんか、怖い笑顔をするじーさんだな。

 一瞬、こちらを見てドキッとしたが、なんとかスルーして切り抜けれた。


 シャールの紹介という事で、良い宿を教えてもらった。

 魔族のお金が無かったので、フロストドラゴンの肉と鱗をいくつか素材屋に買い取ってもらい、お金に換えておいた。


 ひとまずは宿屋で部屋を取り、俺は先に寝させてもらう事になった。


 『ではその間に、近くの魔物を狩って路銀を少し稼いでおきます』と言って、カルマ達は出掛けて行った。


 ようやく東の大陸【イーガス】に到着してから、探索をする拠点を確保することが出来たのだった。

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