第132話 今日は食べ飲み放題

「なるほど、バイス様ですか。こんな辺鄙な村にようこそお越しくださいました。荒くれ者たちが多いので、突っかかるものがいますでしょうが、寛大な対応をおねがいしますね。フォッフォッフォ」


 シャールは、そう言うと宿屋を紹介してくれた。

 おかげで、俺はそこでゆっくり休むことが出来たわけだ。


 ここはアーカニアという村らしく、幻夢の森に一番近い村だ。

 魔物も多く生息しているため、素材を求めて来ている亜人の冒険者が多く集まる村と言う事だった。


 ユートが眠っている間に、ニケとカルマと双子で村での情報収集と夜までの余った時間で狩りをすることになった。


 ここらの森では、”レッサードラゴン”が良く現れるらしく、狩りには丁度いい。

 肉も良質だし、鱗も皮もいい値段で売れる。


 そのため、数日分の滞在費を稼ぐために誰が一番仕留めれるか競争ということになった。

 

 ちなみに、レッサードラゴンと言ってもAランクの強さがあるので、魔族たちでもそんなにポンポン狩れる相手ではない。

 なので、通常は数人でチームを組んで討伐に出掛けて、日に2~3頭倒せれば良い方だという事だった。


 カルマ達はあんなに一杯飛んでいるのに、なぜそれしか倒せないのかが疑問だったみたいだが。


「まずは、情報収集が先だ。約2時間ほど経ったら村の中心にある広場に集合しよう。我は北側、ニケは南、ディアナは東、ヘカティアは西側の聞き込みをしよう。では、解散!」


 そう言って、それぞれ素早く調査に入った。



 ───それから2時間後。

「各自、収穫はあったか?」


「はい、ディアナです!”幻龍”の噂は、この村で最近盛んに話をされているそうで、もうすぐ出現するらしいとのことです」


「はい、ヘカティアです!ここ数日で濃霧が出現する確率が高くなっているらしいです。季節とは関係ない現象なので、これも”幻龍”の出現のせいじゃないかということです!」


 ディアナとへカティアは敬礼をしながらカルマに答えた。

 兵隊ごっこでもしているようだ。

 この町には魔王軍の兵がいるらしく、面白がって真似をしているらしい。

 まだ子供っぽい所が抜けきらないみたいだな…。


「ニケはどうだ?」


「はい、色々と話を聞いてみましたが、なかなか有力な情報は出てきませんでした。ただ、”幻龍”が現れるのはやはり夕方か朝方の霧が出やすい時間帯みたいです」


 それぞれ集めてきた情報を確認し、カルマはユートを夕方には起こさないといけないと考えた。


「我が聞いた所によると、幻夢の森には霧が掛かると現れる祭壇があるらしい。そこを守護するのが幻龍と言う事だ。なので、夕方にその神殿を探すのが得策だな。それまでは、狩りレースだな」


 カルマがそう言うと、全員にピリピリとした空気が流れる。

 この勝負は、結果的にいかに主人の役に立つかを証明するものだ。


 たかが数日の生活だが、それ次第でユートの生活の快適さが変わるのだ。


「勝負は日が落ちるまで。じゃ、スタートだ!」


 合図と共に、暴風の様に走り去った4人は各々の探知スキルを駆使して、レッサードラゴンを探して狩るのだった。



 それから日が落ちる頃、ユートはベットの上で大あくびをかく。

 約一日で大陸一つを横断するという、弾丸ツアーのおかげか結構な疲労が蓄積していた。


 ふわわわと、あくびを再びしながら周りを見渡すと日が落ちて来ているようだ。

 仲間達はまだ戻っていないようだった。


「あいつら、どこに行ったんだ?もう、帰ってきてもいい頃だけどな」


 素早く着替えを済ましてから、顔を隠すローブを羽織る。

 バレたら、カルマが主人と言う事にして合流する事にしているが、そこそこ魔族の冒険者が居るおかげでバレる様子は無かった。


 一先ずお腹が空いたので、下の食堂へ向かう。

 食べれない物だとどうしようかと思っていたが、意外に普通の食べ物が出てきた。

 しかも結構美味しいから、不思議な気分だ。

 

 この村は、亜人の中でも獣人やホビットの様な人型に近い種族が多いようだな。

 店員なんかは、たれ犬の耳生やした半獣人だし。

 あっちには猫耳の生やした猫の半獣人がいる。


「ここにおりましたか、主」


 店をぼんやり眺めながら飯を食べていたら、カルマ達が帰ってきた。

 手には結構な量の魔族の金貨を持っていた。


「随分稼いできたんだな」


「私達も結構頑張ったんだよ!ね、ディアナ!」


「ええ、でもまさかニケに負けるなんて…」


「ふふふ、私も結構強くなりましたからね、カルマにだって負けませんよ」


 なんだか、全員で稼ぎを競い合ってたようだな。

 にしても、金貨百枚くらいあるんじゃないかこれ。


「一体、何をして稼いでいたんだ?これは凄いな」


「ここらにレッサードラゴンの巣窟がありまして、それを全員で狩りしてたんです。我が1番倒せると思っていましたが、…ニケにしてやられましたよ」


 カルマが珍しく悔しそうにしている。

 他の3人が思ったよりも狩りがうまくて驚いているようだ。


 ゲーム感覚だったのだろうけど、やはり負けるのは悔しいようだ。


 しかし相手がいくらレッサードラゴンとはいえ、相手はAランクモンスターだ。

 それなのに、こいつらだと遊び相手程度のようだな。

 

 でも、そのおかげで滞在中の路銀には困らなくなったので大助かりだ。


「そうか、みんな有難うな!正直助かるよ。あ、そうだ。お前たちもここで飯を食っておけ。これから探索するからな」


 LBOの時は、”幻龍”と言えば霧と共に現れるレアのエリアボスで有名だった。

 霧は、朝方か夕方に出やすいので今からの時間がねらい目だ。


「わーい、やったー!ディアナ何食べよっか!」


「私はやはりお肉がいいですね。さっきのお肉は全部換金してしまったし」


 双子は見た目に反してかなりの量を食べる。

 ニケとカルマと違って、ちゃんと食事をしないとダメらしい(本人談)。


「私もお肉がいいです、主様」


「我もそうしよう。あとは、ワインもいただきますよ、主」


 ニケとカルマは、魔獣の時の名残りで肉を食べる事が多い。

 一応食べるときに、食事からも魔力を吸収出来るらしいので無駄ではないらしいけど。


 どっちかというと、美味しい物を食べたいってだけのようだ。


 それぞれ大量の肉と飲み物を頼んだので、いつもより豪勢な食事がテーブルいっぱいに並んだ。

 周りにいた冒険者らしい亜人たちが羨ましそうにこちらを見ている。


 冒険者が集まるここは、今日の飯を稼ぐのもやっとの者達も多いそうだ。

 なので、その視線がかなり痛い。


「カル…バイス、周りの皆に奢ってあげるといいですよ。協力ししてくれないまでも、邪魔したりはしなくなるでしょうから」


 もし聞かれてもいいように、口調も少し変える。


「なるほど、それは良い考えですね。…おい、そこの猫女よ。これで足りるだけ、ここにいる全員に酒と肉を振る舞ってやれ」


 そう言うと金貨十枚を店員に渡す。

 思わぬ大金に、猫耳娘の店員の尻尾がピィーーンと立っていた。


 このランクの酒場なら、金貨10枚あれば1日貸切に出来るらしい。

 なので店員は興奮気味に酒場にいる冒険者に叫ぶ。


「み、皆さん!こちらの、御仁のご厚意で今日は食べのみ放題ですよ!さあっどんどん食べてくださいっ!」


 あたりから、ウオオオオッと怒号のような歓声が沸き立つ。

 あちこちからカンパイの音頭が聞こえてどんちゃん騒ぎだ。


 そんな中、一人のトカゲ男が俺達に近づいてくるのだった。

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