第123話 3人のランクアップ
───
ここは、大教会。
一人の女性が祈りを捧げている。
彼女の名前は、アリアネル・ハイセリア。
この国の王女であり、聖女でもある。
この国で唯一神と交信出来るとされ、神の残滓を使う普通のランクアップでは到達できない領域へ引き上げる事が出来る唯一の人物…とされている。
実際には、Sランク神官は他にもいるし、候補生なら何人も控えている。
それを表に出さないのは、当然王家の威厳を保つ為だ。
それを分かっているだけに、彼女も今回の儀式はかなりのプレッシャーだった。
今は、その緊張を落ち着かせるために先に教会に来て神に祈りを捧げていた。
「姫様、もうこちらにいらしたんですね?」
「ここでは聖女と呼んでくれないかしら、アマンダ」
侍女らしき女性がアリアネルを探していたらしく、やっと見つけたという顔をしていた。
「…では聖女様。ギルドとの打ち合わせがありますので別室に行きましょう」
「分かりました。では行きましょう」
二人は、グランドマスターのいる部屋に向かうのだった。
───あれから二時間後。
カイト達は、やっとギルドよりお呼びが掛かった。
ユート達が去ってからは、なんとなく訓練もやめて宿屋の食堂でティータイムをしていた。
陽射しが暖かいのもあり、完全にだれきった姿にギルド職員の顔も引き攣っていたが、カイト達はお構いなしだった。
しょうが無しに椅子から立ち上がり、身だしなみを整えて出発した。
酒場から出ると、まってましたとばかりに街のあちこちから『おめでとう!!』と声が掛かけられた。
カイト達が今日全員ランクアップするのは既に周知されており、娯楽の少ないこの街ではお祭り騒ぎをするのに丁度いい機会になったようだ。
「こりゃ、えらい騒ぎだな」
「ですねぇ。ただでさえ気が重いのに、余計に憂鬱になるのです」
「そーね。これは私も想像していなかったわ。明日中に帰れるのかしら」
ダンが額に汗を浮かべながら辟易し、ミラはがっくりしている。
アイナも終わったらさっさと帰って、屋敷のお風呂に入りたいのになと残念そうだった。
「みんな、理由はどうあれ俺らを祝ってくれているんだ。せめて今日くらいは応えてあげよう」
ザインも若干顔が引き攣っていたが、それでも愛想笑いを浮かべて手を振り返していた。
まるで凱旋のような大歓迎を受けつつ、教会へ向かうカイト達。
入口には、教会のシスターらしき女性が待っていて、5人を確認すると扉を開けて招き入れた。
前回と同様に、一般人は中には入れないので外から祝福の声がずっと続いていた。
中には、既に来賓として呼ばれている有力貴族達がずらりと並んでいる。
前回カイト達に声を掛けてきた貴族もちらほら見える。
一番奥の祭壇側には、聖女アリアネルと大司教ゼーフェンがいた。
大司教の顔は、以前に住んでた時に顔を見たことがある。
今回儀式を受ける三人を先頭に、カイトとダンも一緒に付いて行った。
「冒険者ザイン、アイナ、ミラよ祭壇へ。供している者は、そこでお待ちなさい」
そう言われて、3人だけ祭壇に上がる。
「前回は私達が下で見ていましたが、こうやって立ってみるといつもの祭壇より大きいのです」
「そうだな。しかも、鈍い俺でも分かるくらい魔力は集まってくる場所のようだな」
「しっ、二人とも静かにね」
そんな3人を余所に、聖女の演説のような宣言が始まる。
前回同様に貴族たちの万歳合唱の中、儀式が始まる。
「これが、カイトの言ってた力の奔流?うう…ああああっ!!」
「ぐうぅ、結構くるな…。叫ぶ気持ちも分かる。た、耐えきれん…ぐううおおおおおっ!!」
「ああああああっ!!体の底からぁああぁっ!!」
3人はカイト達も味わった、ランクアップの際の細胞一つ一つが生まれ変わり、体の奥底から生まれてくる力に翻弄されそうになるが、なんとか耐えていた。
『一つの壁を超えし者たちよ。汝らに、我が祝福を与えましょう…』
3人はどこからかの声を聞いた気がした。
しばらくすると、体がすっと軽くなる感じがした3人は目を開けた。
アリアネルは、正気に戻った3人に向かって、手を平を下向きにして指し示した。
「これであなた達も人の壁を一つ越えました。おめでとう、ザイン、アイナ、ミラ。…さあっ!宣託は降りた!これよりこの者たちはSランク冒険者である!」
その言葉を皮切りに、再び教会内は歓声に包まれるのだった。
神官らしきものが持ってきた台には3つの金色のネックレスが用意されていた。
そう、Sランクを表すプレートだ。
アリアネルにより、今までのAランクプレートを回収され、それぞれの首にSランクのプレートを掛けられのであった。
これで儀式は終了のハズだが…。
「これで本日、冒険者カイトが率いるチームは、全員がSランク冒険者へと上り詰めた。これは近年まれに見る快挙である。よって、この者たちを祝う祝祭を王城にて執り行う。既に会場は用意してあるので本日正午よりそちらにお集まりいただきたい。では、儀式はこれで終了である!」
ワアッー!っと歓声が沸き起こる。
何がなんだが分からないままに、ギルド職員に先導されてギルド本部へと連れていかれるカイト達であった。
だが、やっと終わった儀式にどこかホッとしていた。
これから行われることの方がより疲れる事であろうとは、この時は思ってもいなかったのであったが…。
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