第121話 出発前夜

 1週間という長い期間を不在にするので、その間の冒険クエストの事はカイトに任せると伝えた。


 ユニオン宛に依頼が来た場合を想定して、ライと相談して進めるように指示を出して欲しいことも、一緒に伝える。


 子供たちの事をしっかり見ていて欲しいことも伝えた。

 今回も置いていくことになるので、その間に無茶な行動に出ないように頼むことも忘れない。


「わかったわかった。事情が事情だけに誰も文句は言わないさ。ゼフやメイアもいるし、普段の事なら俺らに任せておけ。しかし、過保護なやつだなお前は。あとよ、戻ってこれない様な事だけするんじゃないぞ?たまに無茶するからなお前は」


「ああ、分かっているよ。俺だって、ここで過ごす日々が一番だからな。さっさと終わらせてくるさ」

 

 湯船からあがり、体をメイド達に拭いて貰ってから(前に断ろうとしたが、仕事ですのでと押し切られてからは抵抗するのを諦めた。)、身を整えて食堂へ向かった。


 リンとニケはまだ戻ってきてないようだったので、俺は先に飲み物を貰って寛ぐ。


 まだ大事な話をしていないので、ビールは我慢した。

 そんな横で、うめー、仕事の後のビールは最高だなとかガントが言うので恨めしい視線を送ったがスルーされた。


 それから、冷めますので先にお食事をどうぞと夕食を出されたので食べながら待っていると、ライ達とシュウが入ってきた。

 今日は、どうやら一緒に冒険に出掛けていたみたいだ。


 帰ってきてからも色々話をしていたようで、明日のクエストはここがいいとか言いながら入ってきた。


「ああ、ユートさんお帰りなさい。先ほど、ゼフさんから聞きました。話があるという事ですが」


「おかえり、ユートさん!早かったね。もう終わったの?」


「ああ、まずは飯を食べながらゆっくりしてくれ。話は全員揃ってからにしよう」


 そう言うと、わかりましたと二人とも席について食事を出して貰っていた。

 サナティ、ミレオ、マッド、ベン、ケイルも同じく席について食事についた。

 

 しばらくすると、リンとニケも食堂にやってきた。

 二人は、お風呂でより親密になったらしく仲のいい姉妹のようだった。

 

 全員食卓についたので話を始めた。


「食事中にすまない。ちょっとだけ話をさせてもらうな」


 そう言って、全員の顔を見た。

 特に異論は無いようだ。


「ニケを嵐の神殿で力を解放を終わって、さらにパワーアップさせてきた。ちなみにそこにいるのはニケだ。精霊の力を解放するとその姿になるらしい」


 既に正体を知っていたリン以外は、おおっ!と感嘆の声を上げる。


 サナティが『なぜか、また美人が増えてる!ユートさんの周りってなんで…』とか珍しい反応をしながら言っていたが、君もまたその一人だけどね、と心の中で返しておいた。


「そして、そのまま王都でランクアップクエストを受けたが、目的地が東の大陸【イーガス】の中心に広がる森の【幻夢の森】だった。LBO出身者なら知っているかもしれないが、あそこは凶悪な魔物が棲みつく場所でかなり高難易度のフィールドだ。」


 この森にはユニコーンなどの珍しい生き物が生息している。

 その一方で、凶悪なフィールドボスやレア魔物が生息する事でも有名だ。


 更に霧の様なものが立ち込めたりし、視界が急に悪くなったりする。

 そんなところなので、無策で突入すると彷徨った挙句に強敵に遭遇し死亡したという逸話が多く残っている。


「さらに期限が1週間なんだ。かなり急がないと間に合わないので、残念だけど俺とニケ、カルマ、ディアナ、ヘカティアの5人だけで行く。その間は、皆に留守を預かって欲しい」


 単なる冒険なら、全員とまで言わないでもそれなりの人数を連れていきたいところだが、今回はそういうわけにはいかない。

 なのでこのメンバーで行くと付け加えて説明をした。


「では、ユートさんはすぐ行かれてしまうのですね。しかし、魔族領ですか…。私は行ったことも無いですが、大陸を渡るだけでも大変な事なんでしょう?私に出来る事は無事を祈るくらいですが、必ず帰ってきてくださいね」


 サナティが心配そうにしつつも、無事を祈ってくれた。

 美人にそんなことを言われるなんて冒険者明利に尽きる。


「パパ、またすぐに行っちゃうんだね。悔しいけど、あそこについて行くにはまだ全然力が足りないから、待っている間にスキルとステータス上げしておく。必ず帰ってきてね」


「俺も、帰ってくるまでにクエストこなしてもっと強くなってるからね。俺らの心配はいいからササッと行ってクリアしてきてよ!」


 子供たちは、また留守番な事に悔しさを感じながらも俺に追いつこうと頑張ってくれている。

 期待に応えて必ずクリアして帰ってこようと、更に気を引き締めた。


 そのあとも、みんなから激励を貰い出発前の夜に皆に会えて良かったと本当に感じた。

 ゼフやメイアも、旦那様のお留守の間、家の事は問題ありませんのでお気兼ねなくと言われた。


 その後、食事を終えてから酒盛りをしてかなり楽しんだ。

 忘れていたけど、とカイト達のランクアップも順調だと伝えたらシュウとリンが負けてられないと更に息巻いてた。


 酒盛りが終わった後、ニケは別室に寝かせて俺は自分の部屋に来ていた。


 久々に行く魔族領なので、事前確認をしていた。

 ルート的には、南側を回るのが安全だがそれだと時間が掛かりすぎる。

 だとすると、北の大陸経由が良さそうだった。

 

 極寒の北の大陸【ノーセリア】も魔族領だが、その環境ゆえに住んでいる魔族も少ない。

 また魔物も結構強いため、一般人と遭遇する確率自体が低い。

 それに、今回連れて行くのは飛行が出来る者たちばかりなので、距離的に近道の北側の方が早そうだな。


 カルマとニケは大丈夫だろうが、双子の竜姫は寒さに耐性あるんだろうか?

 最悪ニケに乗せるしかないかもしれない。


 そんな事をあれこれ考えていると部屋をノックする音がした。

 ん、ニケか?今日も一緒に寝るとか言い出すと面倒なので別部屋にしたんだが…。


「…パパまだ起きてる?」


「ああ、起きているよ。どうぞお入り」


 ガチャッと開いた先には、寝間着に着替えたリンが立っていた。

 左脇には枕を抱えている。


 そのまま中に招き入れた。


「どうした…って聞くまでもないか。寝れないのか?」


「ううん。でもしばらく会えないから一緒に寝たいと思って」


「…そうか。確かに、期限ギリギリまであっちにいる事になりそうだからな。いいよ、まだ少し掛かるけど先にベッド入ってな」


「うん!ありがとう!パパ大好き!」


 と言って抱きついてきたリンを抱き上げた。

 所謂、お姫様だっこというやつ。


 きゃっきゃ言って喜ぶリンを、そのままベッドに運んで寝かせる。

 掛けシーツをかけて『お休み』と言うと、素直に『うん、お休みなさい』と返ってきた。


 そういえば、王都ではこの子達のような子供の冒険者は見つけれなかったな。

 滞在期間を考えたら見つけれないのは当たり前だが、少なくともギルドが把握している中にはいないと思うんだけど。

 他の街にいるんだろうか?


 …さて、進行ルートはほぼ決めた。

 【ノーセリア】の海沿いは、今の時期はまだ寒気も弱く進みやすい。

 その分人に発見されることもあるが、殆どが一般人なのですぐに襲われる心配も少ない。


 いざとなれば、カルマにと言わせれば通じるだろう。

 そんな計画を考えて、地図にルートを書き込むのだった。


 その外にも、カイト達が戻ってきたときにやってもらう事とか、ガントへ装備の制作依頼とか、ゼフとメイアへの指示とかを纏めて記した指示書を書いた。


「こんなものかな。あとは自己判断でやってくれるだろう。みんな優秀だしな」


 そんな独り言を言いながらロウソクの灯を消して、リンの隣へ入り込んだ。

 リンの体温で少し温まって、心地よい。


「ん…。終わったの?」


「ああ、終わった。起こしたか?」


「ううん、うとうとしてただけ。…おやすみパパ」


「ああ、おやすみリン」


 リンの髪を優しく撫でる。

 それに反応するように、きゅっと俺の胸元を掴み顔を寄せるリン。


 すぐにリンの寝息が聞こえてきて、そのまま俺も眠りに就くのだった。

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