第120話 自分の帰る場所

 カイト達とカルマはすぐに王都戻った。


 すっかり夜も更けて、街には夜の灯りがあちこちに灯っている。


 ギルドも既に閉まっていたので、取り敢えず宿屋へ向かった。

 一泊の手続きをしてから食事を取るために近くの酒場へやってきたところ、カイト達を迎える者達がいた。


「やっと来たわね。もう待ちくたびれたよ。ねぇ?ヘカティア」


「本当ねディアナ。マスターの指示じゃ無かったら帰ってるよ~」


 金髪と銀髪の双子の美少女、ディアナとへカティアだ。


「主は、もう旅立ったのか?」


 そんな中、カルマが開口一番に二人にそう聞いた。


「ええとね、ニケの力の解放が出来たからランクアップクエストを受けたんだけど、場所が遠くだからって屋敷に一旦お帰りになったわ。詳しくは食事をしながらにしましょう」


「マスターも急いでるみたいだから、すれ違わないようにあなた達を待っていたのよ。もう、お陰で腹ペコだよ!あっちでご飯にしよう、ご飯に!」


 二人の勢いに気圧されて、カイト達は一言も喋る暇なく移動を余儀なくされる。

 席に着いて店員に手早く注文を終えると、二人は再び説明をしてくれた。


 まず、クエストの場所は【幻夢の森】という東大陸の真ん中にある森である事。

 そして、東大陸【イーガス】は魔族領であるのと、期間が一週間しか無いのでの高ランクペット以外は連れて行かないという事。

 しばらく屋敷を空けるので、その間はカイト達とライ達にユニオンの事を任せたいと言ってた事を伝えた。


「もちろん、私達はついて行くよ。一緒に行けるのは私達とニケとカルマだけ。他は、移動時間もあるから連れていけないって」


「だから、カルマをピックアップするために残っていたのよ。カイト達はここで儀式と王族パーティ終わったら一旦サニアに帰ってくれですって」


 やっとユートのランクに追いついて、この先も一緒に旅が出来ると思っていただけに、カイトはかなりのショックを受けたようだった。


 俺だけでもついていけないのかと聞いてみるも、『マスターの決定は絶対だよ』とだけしか返ってこなかった。


「仕方ないさ。お前はともかく、相棒は連日の移動でヘバッてるんだ。ついて行っても、置いていかれるのがオチだぞ」


「く、それもそうだけど…」


「最速で行く以上、お前達では足手まといだ。主に与えられた事を全うすることを考えよ」


 それでも何とかしたいと思っていたカイトだったが、カルマの一言でバッサリ斬り捨てられてしまい、ぐうの音も出なかった。


「なんか勘違いしてるみたいだから教えてあげますけど、マスターは留守を預かって欲しいと言っているのですよ?名誉な事だと思いますが?ねぇ、へカティア」


「ほんと、その通り!大体、SS《ダブルエス》クラスの私達のスピードにBランク飛竜がついてこれる訳?無理に決まってるじゃない。それにダンジョン攻略の時には連れ出されるんだから、今のうちにステータスをさっさと上げおく方がいいんじゃないの~?」


 と、双子に真っ当な理由で考えを正されてしまい、その通りだなとしか言いようが無かった。


 それどころか、ユートが信頼して任してくれるのだと分かり、少し嬉しく思うカイトだった。


「明日にはマスターはここに戻ってくるわ。あなた達も、ちゃんと儀式を成功させるのよ?」


「そうだよ~。万が一にも儀式を失敗させたら、タダではおかないんだからね!」


 と二人はからかい半分、本気半分に脅してきた。

 

「アイナとミラよ、男どもが主の顔に泥を塗らないようにしっかりと見張っていてくれ」


「あら、カルマからお願いだなんて珍しい。もちろんよ、私達もユートさんにはお世話になりっぱなしだし、ユニオンの一員としてしっかりやるわ」


「任せてくれなのです!」


 カルマが珍しく人に頼むことをした。

 そんなカルマに面を食らうも、お願いされた二人はやる気に満ちた返答をした。

 それを見て、これなら問題は無いだろうとカルマは思うのだった。


「さ~て、ごはん来たよ!あとは、いっぱい食べてお互い明日に備えよ〜!」


「そうね。私達も長旅になるし、体力お化けの二人について行くとなると私達こそ気合いれないとね」


「じゃあ、このお肉はいっただき~。ははは!早いもん勝ちだからねっ!」


 とへカティアの号令のもと、テーブルではお肉争奪戦という熾烈な戦いが繰り広げられたとか無かったとか。



 ───

 夜になりユートはやっと屋敷にたどり着いた。

 流石のニケでも王都からだとノンストップで3時間ほど掛かっていた。

 それでもまだスピードは抑えてるらしいが…。


「お帰りなさいませ、旦那様」


「ただいま、ゼフ。帰ってきてすぐで悪いが全員を集めてくれ」


 中庭に降りると、すぐにゼフが

 いつも思うが、一体どこから出てくるんだ?と思いつつも、みんなを集めるように指示を出す。


「承知しました旦那様。…すぐに出掛けられるのですか?」


「ああ、そのつもりだ。しばらく空ける予定になるので、みんなに話しておきたい」


 時間が無いのですぐに出たいところだが、ニケにも休憩させないとここから数日は掛かる長旅だ。

 俺も飯くらいは食べたいと思っていた。


「畏まりました。しかし、皆さまが集まるまでに少し時間が掛かると思いますので、一度汗を流されてはいかがでしょう?」


「ん?ああ、そうだな。しばらくは我慢しないといけないし、風呂に入っとくか。そうだ、ニケ。お前も人型になれるようになったから、風呂に入っていいぞ」


 そう言うと、ニケはすぐに鳥獣の姿から人形に変化した。


「宜しいのですか!?前にカルマが入ってるのが、とってもとっても羨ましかったので嬉しいです!」


 いいよという前に人型になっている辺り、前回のことはよほど堪えていた様だ。

 そのままユートの手を取り急ぎ足で大浴場へ向かうのだった。


「おいおい、そんなにはしゃぐなって…」


 呆れた顔をしながらもそのまま風呂に向かう俺とニケ。

 そんな時、俺を見つけた少女が駆け寄ってくる。


「パパ!お帰りなさい!今帰ってきたの?…あれ、その人は誰?」


「ふふふ、こんばんわリン。分かりませんか?ニケです。

 私もカルマと同じく人の姿に成れる様になったのですよ」


 ニケが若干どや顔でリンにそう言うと合いの手を打つかのように驚くリン。


「えええっ!凄いね!じゃあ、これからは一緒にご飯とかも食べれるね」


「ふふふ、リンは反応がいつも純真ピュアですね。ええ、是非ともご一緒させてくださいね。大丈夫ですよ、食事代分はしっかりと稼ぎますから」


 二人の微笑ましい姿を見て、俺も嬉しくなった。

 やっぱり、ここが今の俺の家だな。


 帰る場所があるっていうのは、本当に安心する。


「じゃあ、俺は風呂に入ってくるから。そうだ、リンはもう入ったのか?」


「ううん、まだだよ。これから入ろうと思ってた所」


「じゃあ、ニケは初めてここの風呂に入るから、色々と教えてあげてくれ」


「うん、分ったよパパ。じゃあ、行こうよニケさん?」


 そういうと、信じられないという顔をしながら驚くニケ。

 え、なぜそんな顔をする?


「ええっ!?私は主様とお風呂をご一緒出来ないのですか!?」


「…いや、当たり前だろ。一応は、女性なんだし」


「そんな!カルマとは一緒に入ったのに私とはダメなんですか!?」


「いや、アイツはどうみても男だから。人間の世界ではそれが当たり前なんだよっ!」


 ニケは目の端に涙を浮かべて懇願したが、色んな意味でまずいのでお断りした。

 そのまま男湯と女湯に分かれてそれぞれ風呂に向かった。


 途中でどこで知ったのか、『世の中には混浴と言うのが~』と聞こえてきたけどスルーしておく。


 ちなみに、『ニケさんが一緒に入るなら私も一緒に入る!』とかリンが言いだし、話がさらにおかしな方向に行きそうだったので、メイアを呼び出して二人を連行してもらったのだった。


 色んな意味で危なかった。

 断らなかったら、メイアから極寒のスマイルをいただいた事だろう。


「ふいー、やっぱ風呂はいいな。最高に癒される」


 そんな事もすっかり忘れて、俺は石鹸で体を綺麗に洗ってから湯船に浸かってゆっくりしていた。


 やはり、風呂は最高だ。

 これがあるとないとでは、気持ちの潤い方が違う。


 しばらくすると、誰かが風呂に入ってきたようだ。

 洗い場に向かおうとして、俺に気が付いたようだった。


「お?…おお、なんだ帰ってきてたのか。まさか、もうランクアップ終わったのか?」


 ガントだった。

 いつも通り、鍛冶の仕事を終えてさっき帰って来たらしい。


 ガントは、ささっと体を洗い終えると湯船に入ってきた。


 丁度いいと思い、後で皆にも話すが東の大陸【イーガス】に行かないといけないことを話す。


「なるほどな。東の大陸へ行かないといけないのか。しかも期限が7日間かよ。…なかなか厳しいな」


「ああ、だから先にニケのパワーアップをしておいたのは、結果的に良かったよ。それに双子の竜姫が仲間になったのも幸運だった。カルマのお陰で、予想よりは楽は出来そうだよ」


 お世辞抜きでも、カルマがしてくれた事は大きい。


 もちろん、カルマとニケだけでも十分な戦力なのだが、さらにSSランクが二人も追加になった事で、かなりの余裕が出来る。

 これなら、どんな事態に陥っても抜け出すことが可能だろう。


 そう例えあの”アモン”が来たとしても…。


 ──出来れば、もう二度と会いたくないけどね。

 そう呟きながら、熱い湯に深く浸かっていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る