第84話 テイマーの本分

 ───翌早朝。


 交代で見張りをしていたので、特に問題は起きなかった。

 色んな意味で。


 ぶっちゃけ、命知らずな野党以外はドラゴン並の気配を出しているニケとカルマがいるので、近寄る魔物もいない。


 来るとしたら本物のドラゴンくらいだろう。


 朝飯をしっかり取ってから出立の準備をした。

 ドーラは、朝からテキパキと働いてくれている。


 本日の朝食は、魔物肉で作ってあったベーコンを焼いて、レタスやトマトと一緒に挟んだサンドイッチと芋の入ったスープだった。

 芋は腹持ちがいいので重宝するね。

  


「ドーラ、慣れない外での仕事なのに流石だな。ありがとう」


「い、いえ、だ、旦那様のお役に立てるなら本望です」


 ちょっと内気なところがあるが、常に一生懸命なのが微笑ましい。


 仕事ぶりは、完全なプロだ。

 全て高速で作業するので、目で追いつけないくらい早い。

 そのギャップが男性陣の中でファンを作っているようだが。


 準備が整ったので、全員出発した。

 まだ夜が明けてすぐなので、薄暗いくらいだが全員元気な様子。

 馬車の馬たちも、疲労をしっかり回復したので好調な走り出しだ。


「主。このスピードなら5時間ほどで着くかと」


 と、カルマが計測した結果を教えてくれた。


「そうだな、一旦休憩を入れるとしても6時間あれば十分だろう。そうしたら昼前には着きそうだな」


 そのくらいに着けば、予定通りだ。

 あとは魔物の襲撃とか受けなければ大丈夫だな。


 ──2時間ほど移動した頃


 クワアアアア!!

 と、上空から鳴き声が聞こえる。

 あれは…


「ユートさん!ワイバーンの群れです!!」


 ライ達がいち早く声を上げる。


 ワイバーンはライダー用の飛竜としても重宝されるが、野生でもBランクの強さの上かなり凶暴な性格で、冒険者にとっても危険な存在だ。


「こっちを狙っています!どうしますか!?」


 馬車の周りを群れが旋回しだした。

 大方山へ移動中の群れなんだろう。

 かなりお腹を空かせた顔をしている。


 おもむろに俺はストレージから新調した弓矢を取り出した。

 矢を矢筒に補充して、3つがい、狙いを定めて射った。


 ビュウン…ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ!!


 3頭のワイバーンの頭を射抜き、一撃で仕留める。

 落ちてきたワイバーンを見て、ライ達が慌てていたがお構いなしに続ける。


 まだまだ!


 ビュウン…ズダンッ、ズダンッ、ズガッ!!

 ギュアアアアア!!

 更に2頭のワイバーンの頭を射抜いたが、1頭は翼に当たったようだ。


「ありゃ、外したか。腕が落ちたか?」


 瞬時に仲間を6頭も落とされて、ワイバーン達は危険な相手と判断して上空へ逃げていく。


『主様、私が仕留めますか?』


「いや、その必要は無い。あの方向なら町へ被害は出ないだろう」


 北の山脈方面へ逃げていくワイバーンを確認して、追撃はさせなかった。


 ライたちは馬車を止めて、仕留め損なったワイバーンを囲んでいた。

 あの人数なら問題なく仕留めれるだろうが、すぐにやめさせた。


「お前ら!手を出すなよっ!」


 烈火の如く怒り狂うワイバーンから全員を遠ざけた。

 俺は真っ向から対峙して双剣を構えた。


 グルルルァァァ!!


 大きな口を開けて鋭い牙で噛み付いてくるが、ヒラリと交わし双剣で斬り刻む。

 

 それだけで、ワイバーンは既に動けないほど弱った。

 ステータスをスキルで確認し、HPが規定以下になっているのを確認する。

 これなら…。


「俺に従え!スキル〈調伏の波動〉!」


 すると、ワイバーンがパーッっと光に包まれた。

 暫くするとピコンと、目の前のワイバーンに従属のマークが出た。


 よし、テイム成功だ。

 丁度飛行生物が欲しかったし、一匹くらいなら問題ないだろう。


 すぐに刺さっていた矢を抜いて、治療を始める。


「よーしよし、今治療してやるからな。水の精霊よ、この者を癒せ!アクアヒール!」


 ポーションを振り掛けながら魔法による治療でみるみる傷が癒えていく。

 本当はペット用の治療アイテムでもいいが、結構傷が深いのですぐ直るペットポーションと魔法を使った。


 効果は抜群でHPは全快し、傷も見えないくらいまで塞がった。

 他にも空から落ちた時に足を骨折したりしていたようだけど、それも完治している。


「これで良し。お前は、今日から俺のペットだよ」


 さっきまでの殺気が嘘のように、ワイバーンが懐いている姿を見て一同が唖然としていた。


「こうやって、間近で見ると冗談のようなスキルだな」


 と、LBO出身のガントすら唸っていた。

 まあ、地球の現実ではあり得ない光景だからなぁ。


 その気持ちは分からないでもない。

 だけど…。

 

「これがテイマーの本分だろう?」


 と満面の笑みで俺は言うのだった。


 ミラとサナティがそれを見て、『わー流石ですね!目の前で見れるなんて感動です!』とはしゃいでいたり、リンとシュウが『あーやって捕まえるんだね、テイマーもいいよねって!』と話をしているのが聞こえた。


 だが、実際ここまでやれるようになるには血のにじむような努力と労力を掛けないといけない。


 まぁ、俺の場合は時間とお金(課金)を掛けたのだけど。


「さーて、仕留めた方は解体してくれ!終わり次第に出発するぞ!」


 そう言うとガントが中心となって皆で解体を始め、素材と肉に分けるとゲンブの中にしまっていった。


 新しい足と食料と素材をゲット出来て、一石三鳥ってやつだね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る