第60話 救出依頼

「で、彼らは帰ってきたか?」


「まずは、彼らだが…生きていた事が分かった」


 お、じゃあ行かなくて良くなったな。

 良かった良かったと、ほっとしたのも束の間。


「だが、途中の罠にハマってしまい、二人だけしか帰還出来なかったようだ」


 すぐさま、そんな期待は打ち砕かれた。


「なっ、じゃあ残った仲間は死んだのか?」


 とても嫌な予感がする。

 というか、前にもこんな話あった気がするな…。


「いやまだわからない。安全圏にまでは後退したようだが、そこで帰れなくなったようだ」


 安全圏とセーフティールームは意味が違う。

 全くその場で敵が出現しないのがセーフティールームなら、安全圏はあくまで出現する数が少ない部屋の入口とかを指す。

 

「それならどうやってその二人は帰ってきたんだ?」


 素朴な疑問をゼオスに投げかけた。


「彼等のパーティーで一人づつ外に離脱させる魔法”ゲート”を使える者がいるようだ。しかし、既に瀕死になってた為に二人しか外に送れなかったようだ」


「じゃあ残りのメンバーはダンジョンの奥に取り残された訳か」


「そうなるな。既にポーションは殆ど尽きている状態だったし、魔力を回復するにも安全圏とはいえ難しいだろう。まして瀕死の状態だ、一刻も争う状態と言えるだろう」


「うーん、なるほどなぁ。で、二人はどうしてるんだ?」


「今、ギルドの治療院で治療を受けている。町に着いたときはかなり危険な状態だったからな。脱出したその足ですぐ町に戻ってきたみたいだ」


 状況はかなり悪い。

 今から助けに行ったとしても生きている保証はないし、行くにも負傷中の二人を連れて行かないといけない。


 二人の治療は俺の方で、どうにかなると思う。

 しかしダンジョンまでの道のり自体がかなりある上に、中に入ってからも結構潜らないといけない。


 焦って急げばミイラ取りがミイラになる状況だが、時間が掛かれば助かったかもしれない命が消えてしまう。


「で、俺にどうして欲しいんだ?」


「そこは治療中の二人に聞こう。俺が決める内容ではないからな」


「聞かなくても要望は分かるけどなぁ。…取り敢えず二人に会おう。案内してくれ」


「感謝する。こっちだ、ついて来てくれ」


 ギルマスに案内されてギルド内の治療院に来た。

 専門のヒーラーが常駐しているらしく、結構な数の冒険者が治療を受けていた。


「失礼するぞ」


 ギルマスが奥の一角で治療受けていた冒険者に声を掛けた。


「ああ!ゼオスさん!一緒に救出行ってくれる方見つかりましたかっ?」


 ギルマスことゼオスを見るなり食い気味に聞いてきた。

 よっぽど焦っているのが分かる。


「まぁ待て。あんなとこにすぐ行ける奴なんて、そうそういないんだよ。だが、そんな中でも唯一行けそうな冒険者を連れてきた。まずは彼と話をしてくれ」


 そういうと俺を呼び寄せた。


「やぁ、俺はユート。テイマーだ」


「俺はカイト、ドラゴンライダーです。テイマーのユート?…ああっ、もしや、貴方があのSランクテイマーですか?!あのケルベロスも倒したという」


「そんな話まで出回っているのか?まぁそれも事実だ。…それでそっちの女性は?」


 カイトの隣で顔色悪くしながらも、身を起してこちらの話を聞いている女性に目を向けた。


「私はアイナ、職業はプリーストです。ユートさんお願いします、私たちの仲間を…」


「ああ、まてまて。その話はカイトと話をしてからな」


「ああっ、すみません!でも仲間が心配で…早くしないと…」


 アイナという女性は今にも泣きだしそうな顔をしていた。


「とりあえずカイト。君のパーティーがどこまで攻略したのかを教えてくれ」


 まずは状況を正確に確認しないといけない。


「…わかりました。自分たちは【迷宮ラビリンス】の地下3階にある中央部分まで攻略しました。そこまでは順調だったのですが、地下4階への入口を見つけたときにリッチ数体とバンシー数体の集団に囲まれてしまいまして。なんとかリッチを一体倒したのですが、バンシーが錯乱スキルを使ってきて、その時にパラディンのダンが行動不能になり囲まれてしまいました」


「そこで戦線が崩れたか」


「はい。壁役兼前衛として自分と二人で担っていましたが、彼が倒れた瞬間に後衛にまで被害が及んでしまい、ソーサラーのミラが重傷を負ってしまいました。そこで自分も焦ってしまい、それ以上は抑え込めなくなりました。そこからは撤退を余儀なくされ敵の少ない安全圏まで後退したのです」


 そこまで苦労無く来たせいで、余計に焦りが出たか。

 それよりも…


「なぁ、お前たちはLBOプレイヤーか?」


「えっ!貴方もですか?」


「ああ、そうだよ。俺らのパーティーも


 そう言うと途端に反応が変わった。

 

「ああ!俺らだけじゃ無かったんだ!と言う事は、貴方が噂の奇人テイマーのユートさんですか!?貴方に出会えるなんてなんて幸運なんだ。良かった、助かった!」


 泣き出しそうな顔で喜んでいるカイトだが、まだ行くとは言ってないぞ。

 つか、何気に今ディスられてなかったか?


「おい、勝手に決めるな。まだ行くとは言ってないぞ?お前たちも分かっていると思うがココは現実だ。死ねば本当に死ぬ。な。だから、わざわざ危険しか無いところには行けない。俺がお前らを助けた場合の報酬を示してくれ」


 厳しい言い方だが、本当の命が懸かるこの世界では甘さは命取りになる。


「う、それは…そうですよね。つい突っ走った事を言ってしまいました。報酬は…俺の金庫にある全額出します!」


「えっ!?カイト、大丈夫なの?」


「あいつらの命と比べたら、このくらい出しても惜しくなんかない」


 なかなか思い切ったな。

 しかし、それほど真剣だということか。


 まぁ、持っている額にもよるだろうが…。


「で、それはいくらになるんだ?端金なら命懸けれないぞ?」


「はい、俺の金庫には1000金貨と少しあります。それが全てです。お願いできませんか!?」


 真剣な目で訴えてくる。


 そこまで貯めるのには、相当みんなで頑張ったんであろう事がわかる。

 装備も一般的な装備の様だし、今まで無駄遣いなんかしてなかったんじゃないか?


「分かった。その代わりに一つ追加させてもらう」


「ま、まだ何か必要ですかっ?!」


 さすがにこれ以上は出したくても出せるものが…と言いかけてたのを抑えて。


「大した事じゃない。カイト。お前はドラゴンライダーだと言ったな?」


「はい、そうですが?」


「じゃあ、『騎乗戦闘』と、『竜騎士』持ってるな?」


「ええ、それはもちろんありますよ」


「そこでだ。戻ってきたら、うちのメンバーにスキル伝授をやってもらいたいんだ。それが追加条件だ」


「え?そんなことでいいんですか? はい、それならいくらでもやりますよ!」


 思わぬところで狙っていたスキルを手に入りそうだと、心の中でガッツポーズし、すぐに承諾の意思を示した。


「よし、決まったな。お前達の依頼は俺が受けよう。すぐ準備に取り掛かる。お前達も案内に必要だから、ついて来てもらうぞ。最低限の回復アイテム等を用意してギルドロビーに集まろう」


「はい、ありがとうございます!すぐ準備しま…す!?」


 カイトは顔をぱっと明るくして起き上がろうとしたが、体がまだ思うように動かないようで苦痛に顔を顰めた。


「うーん、そのままじゃ向かうのすら無理だな。…ちょっと待ってろ。…水の精霊よ、この者に治癒の加護を。アクア・ヒール!」


 精霊魔法で、カイトを回復する。

 ついでに隣にいるアイナも治療した。


 驚いている二人を置いといてさらに魔法を掛ける。


神聖術セイクリッドスキル、〈天啓〉!」


 疲労回復と気力回復効果のスキルを二人に掛けた。


「これで、すぐ動けるな?」


 そう言いながらぽかんとした二人を立たせた。


「なんというか…テイマーですよね?なんで神聖術セイクリッドなんか持ってるんですか?」


 アイナがプリーストである自分のお株を取られたのもあり、疑問を投げかけてきた。


「そこは話せば長くなるから、必要になったら教えてやる。今は準備を急げよ?」


「あ、はい!そうでした。私達は金庫からポーション類を取ってきます。ユートさんよろしくお願いします!」


 そういってゼオスに一礼してから足早に出ていった。


 ゼオスは俺の方を見ながら、何か言いたげに笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る