第61話 出発準備

「結局受けるんだな?」


 ゼオスがやっぱりな、というような顔で言ってきた。


「そりゃあ、対価が合えばね。それに、自分にとってはお金よりもいい収穫がある事が分かったからな。これは本当に大きいんだよ」


「ほう、それは一体なんだ?」


 ゼオスは方眉を上げて聞いてくる。


「スキルだよ。有るか無いかで大きく変わるスキルを持っていた。うちの子に適正がある子がいるんだ。まぁ、実際に使えるかは取得してからのお楽しみだね」


 と、満面の笑みで答えたら若干引かれた。

 まぁ、おっさんの笑顔なんて見せられても嬉しいことはないか。


「じゃあ、俺も準備するために一旦宿屋に戻る。それまでに正式依頼としてクエスト発行手続きをしておいてくれ。そういうのはちゃんとしたい」


「了解だ。ミルバに伝えておくから戻ってきたら彼女のとこに来てくれ」


「ああ、分かったよ。じゃあよろしく頼んだな」


「はっはっは!それはこっちのセリフだよ。じゃあ頼んだな」


 そう言うと、豪快な歩き方で治療院を去っていった。

 自分もすぐに準備しないとだな。


 ギルドのロビーに戻ってくると、ガントが丁度来たようだった。


「おう、探してたぜ。 お前から預かった素材で早速防具が出来たんだ。工房まで来てくれ」


「分かった。俺も丁度防具が欲しかったんだ。じゃあ一緒に行こう」


 そう言って二人でギルドを出た。


 道中で、この後にまた冒険者を救出しに行くことを話した。


「じゃあタイミング的にはバッチリだな。急ぎで行くとは言え俺らも行くんだろ?」


「いや、今回は相性が悪すぎる。ガントはまだしも、リンとシュウでは耐えきれないだろう。それに速度が重要になる。今回は俺だけのほうがいいな。当然だがニケとカルマは連れていくがな」


「うーん、そうか。俺らのリーダーはお前だし、そう決めたなら何も言わないさ。待っている間はどうする?」


「ああ、そこを丁度話そうと思っていたんだ。天使の塔で思ったんだ。ガントが一緒に居れば近場のダンジョンに二人を行かせてもいいかなと」


「んな、俺は戦闘職じゃないぞ?無理ないか?」


「何言ってるんだ。他のゲームとかではやっていただろ?」


「まー、それは否定出来ないな。ノウハウというよりも、ゲーム上での実践ベースになるから確実とは言えないぞ?」


「それでいいよ。無理してもらうつもりはない。ランクBくらいの相手にスキル上げをしてきて欲しいだけさ」


「わかった。安全マージンはかなり取っていいんだな?」


「そこの塩梅は任せるよ。信頼してるさ。ただ、念のためフィアとゲンブはガードと荷物運びに付けるよ。いざという時に使ってくれ」


「それはありがたいな!特にゲンブは荷物運ぶのにいるといないとじゃ雲泥の差だからな。その分の収穫量は期待してくれていいぜ」


「ははは、気張り過ぎるなよ?」


「それは俺よりも、あの二人に言ってくれ」


 がははとガントが笑う。

 だが、次の瞬間に真顔になった。


「同じ世界から来た奴らとは言え、命を懸ける程じゃないハズだ。ぶっちゃけユートが居なくなるのは困る。あの男がうろついてるとも限らないし、無茶はするなよ?」


「ああ、分かっているさ。多少の無理はするが無茶しないさ。彼らにとって仲間が大事なように、俺もお前達三人のほうが大事だからな」


「それを聞いて安心したよ。さ、ついた。入ってくれ!師匠~!連れてきました!」


 ガントはそう言うと扉を開けて入っていった。

 中から、あいよーって声がする。

 若い女性の声だ。


「ああ、いらっしゃい!あんたが噂のテイマーだね。アタシはこの工房やってるマリエルだ。よろしくね!」


 姐御!って言いたくなるような、男前の性格してそうな女性が現れた。


 短めに切った青い髪にオレンジの瞳、女性にしてはしっかりついた筋肉とそれに負けずに主張している胸が皮ジャケットを押し上げていた。


 歳は20後半から30前半と言ったところか。


「ああ、ユートだ。よろしく頼む。それで師匠ってのはこの人か?」


「ああ、そうさ!この人はこの町唯一のSランク鍛冶屋なのさ。俺も一昨日知り合ったばかりだが鍛冶屋トークで意気投合してな。工房を貸してくれているんだ」


 ガントがそう言うとマリエルもガントを持ち上げた。


「ガントは腕がいいし、センスも中々なもんだよ。壊しちまったキマイラの鎧も見せてもらったが、バランスがいいね。アタシが見ても参考になるくらいデキが良かったし、ギブアンドテイクさ!」


 そういうと、師匠のあの防具なんかは…とか、昨日作ったグローブなんかはとか、話が盛り上がってきたのでストップしておく。


「済まんが急がないといけない案件があるんで、先に防具見せてもらっていいか?」


 急ぎの件がなければ二人の会話に興味もあるんだが、そうは言ってられない。

 それに、防具が無ければ死にに行くようなもんなので今貰えるなら貰っておきたい。


「ああ、すまんすまん。マリエル師匠と話しているとネタが尽きなくてな。二晩くらい話せると思うよ。さて、本題がこっちだ」


 と、やっと出来上がった防具を見せてくれた。


 今回の防具は、ベースの魔獣の革はSランク素材のケルベロスの皮が使われていた。

 留め具にはミスリルが使われて、装飾の一部にユニコーンの角が使われている。

 また、継ぎ目の革にはヘルハウンドを使ったということだ。


「え、てかどうやってSランク素材使ったんだ?」


「そこは、師匠がやってくれたんだよ。珍しい素材だから触らせろってね。そうそう師匠は一年前からこの町にいるが、ギルドへ登録していなんだ。だからSランクというのも知られていないから、あんまり言いふらすなよ?面倒ごとは嫌いらしいからな」


「ああ。なんでアタシがわざわざギルドへ報告しないといけないんだかね。自分で素材も取れるし、素材は全部武器防具にして売っちまうからギルドなんか通さなくてもやっていけるのさ」


 ニカっと笑ってそう言うマリエル。

 なんとも頼もしい人だなぁ、嫌いじゃない。


「手伝ってくれたなら、俺からマリエルに支払わないとな。うーん、金貨1枚でいいか?」


「はっは、別に金は要らないがくれるなら貰っておくよ。ありがとう」


 言ってる割には躊躇せずに受け取り、あとは勝手にやっといてくれ~と奥に入っていった。


「いろんな意味でいい人だな」


「ああ、俺もこっちでこんな人と会えるとは思っていなかったよ」


 頭をポリポリと掻きながらそんなことを言った。


「なんだ?惚れたのか?」


「ははは!そうとも言うかもな。気が合うし話が合うからな。惚れてないとは言わないぜ」


 そう言いながらも、鎧を装着していく。

 所々の長さとかきつく無いかとかを調べて最終調整をしてくれているようだ。


「素直だなー。イジリ甲斐のないやつめ。…よし、とりあえずこれを早速使わせてくれ。今日の深夜には出発するから、済まないが二人にはお前から言っておいてくれ」


「分かったよ。じゃあ厩舎からゲンブとフィアを出しておいてくれ。明日の朝迎えに行くからさ」


「了解だ。じゃあこの後に出しておくよ。その後宿屋にニケとカルマを迎えに行くから、ガントは先に宿屋に戻ってくれ」


「分かった。じゃあ宿屋で会おう」


 ガントは工房を片付けてから宿屋に戻るという事なので、そこで一旦別れるのだった。

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