第59話 新たな主人と元の主人

 ───全ての者が天の門に昇っていくのを見届けたユート達は、応接間に集まり自己紹介をすることにした。


「その前に…ミルバ!起きろミルバ!」


 応接間のソファーに寝かされたミルバを揺すって起こす。


「う…あっ!ユートさん!…と、ひいいいい!」


「落ち着け、もう大丈夫だ。襲っては来ないよ」


「ほ、本当ですか?」


『先程は申し訳ございませんでした。少し脅かせてしまったようで。ですがユート様と正式に契約を交わしましたので、我々はユート様の配下…いえ、使用人となりました。これから宜しくお願いします』


 と、ゼフが挨拶する。


『私は、メイド長メイアです。これからは正式にここで働かせて頂きます。宜しくお願いします』


 そう言いながら、メイアも恭しく挨拶した。


『ワシは、コック長のルガーだ。宜しくな。死んでしまったがまだまだ腕は衰えていないぞ?』


 そうガッツポーズして、言った。


『アイです。宜しくお願いします』

『ヴァイです。宜しくお願いします』

『ドーラです。宜しくお願いします』

『フィーです。宜しくお願いします』

『ヒュンです。宜しくお願いします』


 5人が同時に挨拶した、お辞儀した。


 ゼフとメイア以外は、種族が人霊だった。

 ようは、ただの幽霊ってことだ。


 但し、ちゃんと物を掴めるらしい。


「みんな宜しくな。さて、ミルバ君?」


「は、はひ!何でしょうか?」


「こんな、事故物件をギルドが紹介したとなれば、ギルドの評判どうなるかなー?」


「あわわわっ!駄目です!そんな事言いふらしてはっっっ!!」


「浄化も俺がやったし、当然売値は変わるよね?」


「私には何とも…分かりました!これから交渉してきます!」


 シャキッと敬礼して、ミルバはダッシュで帰っていった。


「まぁ、そういう訳で俺がここを買い終えるまで守っててくれ」


『畏まりました。御任せください旦那様』


 取り敢えずゼフに任せておけば他で買い手が着くことは無いだろう。

 あとはミルバがいい値段を持ってきてくれれば大成功だ。

 と、若干悪い顔している自覚が有りながらも特に憚らなかった。


 しかしまさかこんなとこでお化け退治する事になるとは。

 どこで何があるのか、世の中分からないものだ。


 取り敢えず、ガントに荷物を届ける約束もあったので、一旦町に帰ることにした。


『行ってらっしゃいませ旦那様』


 一同に見送りされて屋敷を出てきた。

 幽霊たちに見送られるのは微妙な気分だな…。



 ───30分くらい歩いて、金庫に寄ってからガントに指定された工房についた。


「こんばんわー」


 扉を開けて中に声をかける。

 しばらくすると誰かが出てきた。


「おう!来たか!早速だが素材を見せてくれ!」


 出てきたのはガント。

 奥から出てくると汗だくの額を拭いながら、素材を広げる為の台を用意して、そこに置いてくれと促してきた。


「取り敢えずAランクまでの素材を一通り持ってきたぞ。中にはレアもあるはずだ」


 ユニコーンの角や、ワイバーンやヘルハウンド等の魔獣の革や、ヘルモスの糸、マーマンロードのキバなど十数種類の素材を渡した。

 

「中々凄いな!さすがSランクテイマー様だせ!で、家の方はどうだ?決まったか?」


「ああ、面白い屋敷があったぞ。見たらビックリするぞ?」


「へぇ、それは、楽しみだ!期待しているぞ!」


 なかなかいい笑顔を浮かべているが、見たら驚く顔が目に浮かぶ。 

 それを見る俺の方が楽しみだよ…ふふふ。


「じゃ、渡したからな」


 そう言って、手でサヨナラして工房を出た。


 町の中央まで戻ってきたのでついでにギルドへ寄ってみた。

 扉を開けた瞬間に声を掛けられた。


「あっ!来た!」


「なぬ、あの者がそうかっ!」


 言うが早いか恰幅のいい男がミルバを引き連れて駆け寄ってきた。


「えっと…どちら様?」


「お主がユートか?私は前領主の次男、デイブだ。あの屋敷の持ち主だ。なんでもあの屋敷の悪霊どもを追い払ってくれたみたいだな。感謝する」


「ああ、あの屋敷のオーナーか。今まであそこで死人出なかったのか?ヤバイやついたぞ?俺が祓ったけどさ」


「耳が痛い話だ。しかし、追い払ってくれたならこれで他の貴族に売れる。ほら、お主には礼金として100金貨くれてやろう?」


「そんな端金いらんな。それよりも、あの屋敷をもっと値引いて俺に売ってくれ」


「お主…勘違いしておらんか?あんな悪霊の住処に金出す奴がいないから売りに出してたのだ。それが居なくなったなら平民に売るわけ無いだろう?」


「いや、バカはお前だろ?誰がもう悪霊はいないと言った?」


「は?」


「あそこにはまだ悪霊はいるよ。だが、俺に屈伏したからもう襲ってこないが、他のやつだと普通に襲われるぞ?試しに行ってこいよ」


 高慢な態度にイラッと来て、つい強めに言ってしまったが、言っていることは正しい。


「なっ、な、なんだその態度は!?私は貴族だそ?貴様、その態度を取ったこと後悔させてやる!」


「はいはい。屋敷行って死ななかったら話を聞いてやるよ。まずは行って自分の目で見てこい」


「くそ、覚えてろよ。おい、視察しに行くぞ。馬車を回せ!」


 部下らしいお付きの者たちがあわあわと掛けていった。

 可哀想なやつら。


「ミルバ、金額の件は明日に聞く。分かったら宿屋へ来てくれ」


「分かりましたユートさん。あ、そうだギルドマスターが奥でお待ちです。どうぞ、こちらへ!」


 バツが悪そうにしていたが、ギルマスの事を思い出し慌てて案内をしてくれた。



「ギルマス!ユート様をお連れしました」


 扉の向こうから入れと一言だけ聞こえた。


「失礼しまーす」


 と、ミルバが扉を開けて。


「お邪魔しまーす」


 と、俺も中に入った。


「ああ、よく来てくれたな。何か揉めてたみたいだが平気か?」


「ああ、俺の方は問題ない。で、彼らは帰ってきたか?」


 朝の件だろう事は明白だ。

 果たして彼らは無事なのか?


「まずは、彼らだが…」


 ──俺はその話をやっぱり聞かなければ良かったと、後で後悔する事になるのだった。

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