第49話 リンの休暇(1)

 【天使の塔】から帰ってきてから次の日。


 私は、久々の休みを貰いました。


 別に無理して冒険に出てたわけでも、嫌だったわけでもないけど、でもこうやって一日のんびりしていいよって言われると、なんだかホッとします。


 この世界に来て、もうが経ちました。

 世界が暗転して、身動きが取れなくなったときは、本当に怖かったです。


 でも光が戻った時、すぐ目の前にシュウが居たときは、正直にホッとして泣いちゃいました。

 

 そんな私をシュウは、大丈夫だよ、俺が一緒に居るから。

 と言ってくれて、本当に安心したのを今でも覚えてます。


 そこからユートさん達と会うまでは、町の場所を探したり素材集めてお金稼いだりしました。


 金庫にお金があんまり無くてがっかりしたり。

 ライさん達と討伐に行ったり。

 そこで、魔物に囲まれて倒れちゃったりと、ゆっくり休む暇がお互い無かったと思う。


 白羊の洞窟は、練習とはいえずっと戦ってたし、天使の塔は結構色んな事があって大変だったし、冒険しない1日があるだなんて考えてもみなかった。


 そんな今日は、シュウとお買い物。


 自分の物とかもあるけど、やっぱり『パパ』ことユートさんに感謝の気持ちを伝えたいので、何か良い物がないか物色してるとこです。


 ユートさんには言えないですが、実は自分の父をパパとは呼んでませんでした。


 確か、パパと呼んでいたのは小学校上がる前まだったかな。



 ───私の本名は、草壁 鈴(くさかべ りん)。

 とある都内私立大学初等部5年生。

 年齢は11歳、女子です。


 ここ、アストラに来るまでは普通の小学生だったと思います。


 兄が、父にねだって買ってもらったLBOロストブレイブオンラインを、飽きたという兄から譲り受けたのがきっかけで始めたのですが、いつの間にか異世界へ来てしまったようです。


 習い事でバレエと新体操を習っていたので、体の柔らかさと空中での姿勢とかには自信あったので、身軽な剣士を選んだのは今でも良いチョイスだったと思います。


 あの初等部にお受験する迄は、比較的みんな優しかったんです。


 末っ子だったのもあり、家族に良く甘えていたのを今でも思い出します。


 当時は、パパとママだったのだけど、いつの間にかお父様とお母様と言わなければならなくて、そこから急に色々と家の中のルールが増えていきました。


 なぜ、こんなにやらなければいけないのか、何度も聞きましたが、『あなたの将来の為よ』と言われるだけでした。


 とっても窮屈で、つまらなくて、休まらない日々。


 母も父も、昔のような優しい笑顔を徐々に見せてくれなくなりました。


 ここ2、3年は、毎日のように忙しいからと言って、私の話はまともに聞いてくれなくなりました。


 自分の中で鬱憤が溜まっていたのか、一ヶ月前にはついカッとなって口論になってしまい挙げ句に、


「私のパパとママは、何処に行っちゃったの!?もういないの!?」


 とつい口から出てしまい、母から平手打ちされてしました。


 その日から、殆ど両親と口を聞いていません。


 勿論、その事に後悔は有るのだけど。


 でも…


 こっちに来たとき、正直に言うと開放された!と思いました。


 アストラでなら、まだ11歳の私が自分で生活出来るので、困る事も無かったです。


 この世界で手に入れた力で、モンスターを倒したりするとお金が入るし、そのお金でご飯も食べれたし、寝るところも借りれた。


 クエストに行けばもっとお金手に入るからと言われたとき、特に心配もしてなかったです。


 地獄の塔へ行くと言ったとき、私は反対しなかった。

 正直なんとかなると思っていたし、シュウも結構強かったので、何も心配はしていなかった。


 今まで、二人で倒せなかった敵は居なかったのも原因かもしれません。


 それは、倒せない敵がいる所に連れていってもらって無かったと、後でわかるのだけど。

 

 そもそもLBOのときには、あんなトラップ有るなんて聞いたことが無かった。


 自分でも結構調べてたけど、モンスター部屋なんて聞いたこと無かったです。

 あくまで、LBOではだけど。


 あとでユートさんに聞いたら、そういうトラップは良くあると聞いて赤面しましたが。


 そんなわけで、あの時は凄い恐怖を感じました。


 だって、死ぬなんて想像もして無かったし、他の大人たちよりも自分達の方が強かったから、負けることを全く想像もしていなかったし。


 気を失う前、目の前が真っ暗になる寸前に見たあの優しい笑顔。


 あのユートさんの顔を見た時に、咄嗟に昔のパパを思い出した。


 ああ、と本当に思った。


 そんなの有り得る筈がないのに…。


 助けてもらいサニアに帰ってきて、いつも食事に使っている酒場でユートさんが、私達をファミリーにしてくれると言ってくれた。


 その時、『ああ、本当のパパになってくれたんだ』って思って、とっても嬉しかったのを覚えてる。


 あれからの毎日が本当に楽しい。


 まだ、一週間くらいだけど、みんなでワイワイ冒険するのも、修行するのも、お互い助け合ったり、自分よりも遥かに強い人達の戦闘を見るのも、どれも新鮮な体験です。


 途中、結構なスパルタだったりしたけど。


 だから…


「この感謝の気持ちは、形で示さないとね!」


 と、今私はウキウキで買い物をしているのです。 

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