第30話 人型はペットじゃないっ!

 6層でやっと新しい天使が出るも、やる気に満ちたニケとカルマの前では、モグラ叩きのもぐら程度にしか感じられなかった。

 

 ダッダダッダダッダッと、走る足音のあとに聞こえるのは、ドーンッ!というカルマが蹴飛ばす音。


 飛来する魔法や槍や、打ち付けられる剣撃など歯牙にも掛けずに相手を蹴散らす!

 ニケがグッと力を溜め込んでから咆哮をあげる度に、体を麻痺させて地面に天使たちがポトポトと落ちていく。


 遠目で見ると、蚊取り線香で落ちる蚊のようだ。

 そこを透かさず、大きな前足で踏み抜く。

 後には、舞い散る羽と、灰になった天使たちの残骸が残るだけだった。


「ここらでもこんな感じか。まるで魔王と勇者がパーティーにいるみたいに、冗談みたいな光景だな」

 ガントが呆れ顔でそんな事を呟いた。


「勇者様…、そう言えば居るんですか?リン達がいた世界はもう居ないって設定でしたよね?」

 リンが、そう言えばと話を振る。


「うんうん、俺も気になってた!こっちの…アストラ?の勇者様見てみたい!」

 かっけぇーだろうなーと、目を輝かせてシュウが言った。


「どうだろうなぁ。いた事は間違いないみたいだし、生きているかは聞いてみないとだな」


 と、ケルベロス討伐報告した時の事を思い出しながら話す。

 掩護する必要すらないので、流れ弾だけ気を付けながら雑談する具合だった。


「6層から、天使しか出なくなったな。通常ならもっと違う種類がいるとおもうんだがなぁ」


 俺がそんな事を呟くとガントはおや意外だなという顔をした。

 なんだ?俺とお前で来てからの日数は変わらんぞ?


「ここに来るのは初めてなのか?テイマーなら、天使とか捕まえに来そうなのにな」

「いや、LBOの時には来てるよ?その時には結構天使以外も出現してたんだよ。てか、ガント勘違いしているぞ。テイマーはカッコいい魔獣やドラゴンにこそ憧れるが、天使とか人型っぽいのは邪道だ!!」


 それからテイマーのロマンを熱くガントに語ってやった!

 人型悪魔とか天使とか連れてたら、召喚師か亜種族を連れて歩いているヤツだと思われるだろ!とか、カッコいい魔獣を連れてるのはテイマーだけだし、それがシンボルになるし、カッコいいし!


 つか天使とか乗れないじゃん!………うんぬんを延々と。


「わかったわかった、わかーーーーった!すまん、ごめんなさい、俺が間違ってました!!」


 ぜぇぜぇと大声で謝って途中で止められた。

 ちっ、あと2時間は語れるのに。


 最後にボソッと、いつか鍛冶屋のロマンについて倒れるまで聞かせてやるっ!と言っていたがスルーしておく。


 少し気分がすっきりしたところで、あたりの素材回収をする。


 今日の目標は10階層だ。


 そこにはゲームで良くある安全地帯セーフスポットがあるので、野営するなら最適なのだ。


 ちなみに外にニケとカルマを置いて、俺等はゲンブの中に籠もる予定だ。


 今回は中でアイテム精製出来る程度の道具類も積んできてある。

 素材だけで保管していくと数日でも満杯になる可能性があるので、持ってきたのだった。


 6階もスムーズに制覇し、7階への階段を登っていく。


 7階はたまに、レアモンスターの上級天使が現れる事がある。

 ランクA天使”ハニエル”というやつだ。


 手に持つラッパと弓で相手を混乱や魅了させる厄介なやつで、力はないのだが魔法がなかなか痛いのもあり、LBO時代は初見だと全滅するパーティーが後を絶たなかった。


 階段を上ってすぐ天使たちの群れに迎えられる。

 ニケとカルマは気配を感じていたらしく、相手が反応する前に突撃した。


 よく見ると、ふたりとも魔力を纏って攻撃力を上げているようだ。

 〈闘気法〉とかいう、ふたりのオリジナルスキルだ。


 攻撃する際の衝撃をキッチリ相手にだけ与えてるので、地形に影響を及ぼしてはいない。


「器用だよなぁ…」

「お褒めに預り光栄です!」

『主様にお褒めいただくとは、光悦の極みだ』


 カルマとニケだけで、30体くらい居た天使が半分以下になっていた。

 だが数が多いので数体がこちらに流れてくる。


「やっと出番だなぁ。あ、リン、シュウ、練習相手に丁度いいからお前達とフィアで連携して倒すんだ。クロは後ろ警戒な」

「「うん、わかった!」」ニャーン。

「ショウチイタシマシタ」


 それぞれ返事をして陣形を組み直す。

 ゲンブとガントを守る形で天使たちを迎撃する体制だ。


 俺はカルマとニケの方を観察しつつ、こちらに来る天使の量を調整する。

 こいつらなら正直言って1ターンで倒せる。


 カルマとニケは、1ターンで複数まとめて倒してるけど。

 …あいつら悪魔か!

 あ、悪魔と大精霊か。


 リンとシュウがアークエンジェルに切り込んだ、まだ強化スキルは使っていないが充分ダメージが通ってるようだ。


「おりゃあっ!」


 シュウが上段からの袈裟斬りで相手を一閃する。


「さぁっ、やっ!とぅ!」


 リンが中段の横一閃からの左右に斜めに切り裂く。


 にゃーーー!と、フィアが通常状態のまま、飛びついてから炎を纏った爪で何度も引っ掻いた。

 それだけで一体を倒した。


 俺も、双剣でザクザク切り刻んで一体づつ倒していく。

 天使は耐久力低めで倒しやすいので楽勝だ。


 奥の方でもカルマとニケの残党狩りが終わり、この場を制圧した。


 ふうっと一息つくと部屋の奥で光が集まっていくのが見える。


 なぜか数体分の灰が勝手に集まっていく。

 …嫌な予感がする。


「全員警戒!何か!」


 俺は声を張り上げて全員に警戒を促すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る