第27話 何者なのか

 白羊の洞窟からニケとカルマに乗り、高速移動で町に帰ってきた。


 帰りは、試しに「7割で!」って言ったら、シュウとリンは気を失ってた。

 俺とガントは、何かがこみ上げるのを必死に耐えるので精一杯だった。

 

 着いたときには既に夜になろうとしていたが、ギルドはやっていたので換金だけ済ましてきた。


 ガントは、白羊の毛でいい服が作れそうだと言っていたが、設備が無いので、糸車だけ借りて羊毛を紡ぐまでにしてた。


「なぁ、家買ったらよ、工房と鍛冶場だけは頼んだからな!」


 と、要求してきた。

 良いけど、自分で作れよ?と言ったら、マジで何言ってる?みたいな顔になってた。


「だって、お前は大工あるじゃん?」


 って、言ったら本気で言ってるのか!設計図無いと無理だからな!と返された。


 なるほど、それは盲点だった。

 そこは、外注出すかね。

 CADとかあれば描けなくもないけど、流石にフリーハンドじゃ無理だ。


 朝食以外は、頼まないと宿屋ではご飯は出ないので、着替えてから定番の酒場に来る。

 今日の稼ぎは、全員で金貨2枚と銀貨3枚銅貨二十枚だった。

 まだ、金貨100枚以上あるから特に生活に困らないが、家を建てるなら一日金貨十枚は稼がないと、内装とかが作れない。あと工房とかも。


 しかし、今日は訓練を兼ねてだったので、まずまずといったとこだな。

 明日は、ギルドの依頼も合わせて違う所にいこう。


 クラスアップクエストを受けさせるにも、スキルは上げないといけないし、ステータスも上げておきたい。


 そうなると、やはり討伐依頼になるか。

 明日の朝、Aランククエストを中心に探してみようか。


「うん、そうだねっ!」


 と、いきなりリンに言われて読心術でもあるのかと疑ったが、


「パパ、声に出てたよ?」


 と言われて、ああ!いま説明しようと思ってたんだよ!と、微妙なごまかしをしつつ、赤面するだけだった。


「それじゃ、今日はお疲れ様!明日も宜しく頼むな!」

「「はーい!」」「おー!」


 みんなで、ジョッキをカツンとあててゴクゴクと喉を潤した。


 クハー、この一杯に生きてるわーとおっさんのような事を言う。

 いや、オッサンだけどね。


「よーし、飯食おうか」


 今日は、酒場にも卸した羊肉を頼んでみた。怖いものみたさというか、味を知りたかった。

 他にも数種類頼んで各自お腹を満たしていった。


「あの羊肉…意外と上手いな。歯応えが強くなってるけど、味はまんま羊肉なのな」


 ガントが驚いたという顔で、そう言うので自分も早速食べてみる。


「ほぅ、これは美味いな。しかもクセがない。調理にもよるんだろうけど、人気があるのも分かる気がするな」


 あのポーズを取るモンスターと知らなければだが…

 メキメキメキッ…おっといかん、あのムカツク姿を思い出したら、ジョッキを持つ手に力が入りすぎた。


「それで、明日は何処に行くの?」


 シュウは、明日の予定が気になり聞いてきた。顔にはわくわくが張り付いてる。


「明日は…、んー、まだ決めてない」


 ええー?決まってないのー?って、顔をしているから少し訂正しておく。


「正確には、明日の朝にギルドにいって決める。朝に張り出されたクエストを見て、稼ぎのいい依頼を受けてから出ようと思ってるのさ」

「ああ、なるほど。依頼金も貰えて一石二鳥ってわけか」

「そそ、早く家の資金増やしたいしな。金目的だけなら、魔族討伐とかで一攫千金とかもあるけどさ。やろうと思えば、やれる自信はあるけど…。正直、戦争はやりたく無いからな。やっぱ、ダンジョン潜ってこそ冒険者だろ?」


 ウンウンと、リンも頷いている。


「そうだ。明日は早くから出るからな。風呂入ったら早く寝ろよ?」

「うん、分かった、ユートさん」「はーい、分かりました、パパ!」


 うんうん、素直でよろしい。


 素直な二人を眺めてから、ガントがお前違う調教スキルに目覚めたか?…とか口走ったので、ナイフを柄の方向けてシュバッと投げといた。

 グペッ!と怪奇音を出して後ろに倒れた。

 うん、我ながらナイスコントロール。


「さーて、飯も食ったし、そろそろ部屋に帰ろう」


 お金をテーブルで支払い、宿屋に戻った。(ガントは、酒場のお姉さんの往復ビンタで起きた。)

 一番風呂をリンに譲り、二番目は俺ー!とシュウが言っていた。


 ガントは、


 「じゃあその間に整備だけ済ませておくわ。お前らの武器防具も整備必要なら、俺の部屋に持ってきてくれ。朝には終わらせておいてやる」


 と言ってくれたので、武器と防具を預けておいた。


 みんなが風呂に入ってる間に、馬小屋に行きニケとカルマとクロに白羊の肉を与えた。

 3匹とも、基本は肉食なので餌には困らない。


 カルマには、人の魂を食べさせてもらえば1年は大丈夫ですよ?と、真顔で言われて困ったが。

 悪人でもいたら、考えてやるとだけ言った。


 実は、次に行く場所は決めてある。

 但し、2箇所ダンジョンがあるので依頼次第でどっちに行くか決めるだけである。

 その前に、やっておきたいことがあった。

 ギルドに伝言を頼んでおいたのでそろそろ来るはずだ。


「こんばんわー、いらっしゃいますか?」


 褐色の肌に黒髪ロングの美女が、中を覗き込んだ。


「あぁ、ここだよ。済まないなこんなとこに来てもらって」


 訪れたサナティに、謝辞をのべつつニケの前まで来て座ってもらう。


「それで、ギルドからご依頼があるから来て欲しいと聞いて来ましたが…」


 ちょっと、不安そうに、こんなとこで何を…と下から覗き込まれる。

 そんな顔で見られると、ちょっと違う欲求が湧きかけたので、照れ隠しにコホンと咳払いしてから説明を始める。


「サナティには、このニケをどう感じる?具体的には、何に見える?」


 んー?と、ニケを眺めてから


「とっても素敵で大きな魔獣さんでしょうか…?」


 なるほど、外見だけならばそれは正解だ。


「うん、それも正解だ。たが、精霊魔法の”エレメントアイ”を使って観察した場合はどうだ?」

「え?まってくださいね」


 そう言うとサナティは詠唱を始めた。


「我に授かりし精霊の目よ、彼の者の姿を映し出せ!エレメントアイ!!」


 ぱぁっと、かざした手のひらが、光りニケを包み込んだ。

 ニケは、クエッ?と首を傾げた。


「これは…、このニケ様は、精霊王の使いである、大精霊のおひとりと出ています」


 そんな、神獣レベルの存在がなぜここに…と、呆けてしまった。


 エレメントアイ:対象の属性や状態を確認する精霊魔法。相手が精神生命の場合、その正体を見破る。


「そう。そうなんだよ。一応魔獣の存在でもあるから、テイマースキルも魔獣のが効くんだが、本来は精霊なんだ。そこでだ…」

「え?あ、はい」

「サナティに精霊魔法を教えて欲しいんだ」


 なるほど、そういう事ですか、と笑顔になる。


「そういう事なら、喜んで協力致します!」


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