第25話 白羊の洞窟

 町の南側には、川が流れていて、小さな畑とか水車とかがある。その一画には大きな厩舎があった。


「ここかな。すみませーん。誰か居ますかー?」


 そう、大声で呼び掛けると中から人が出て来た。

 タンクトップ一枚に、下はだぼっとしたワークパンツを履いた女性が出て来た。

 よく日に焼け露出した肌と、強調されている胸が中々に凶悪だ。


「はいはーい。何か用ですかー?」


 美人と言うわけではないが、快活そうで人懐っこい顔がこちらを覗き込んだ。


「パドの村でこっちにペットの転送を頼んだユートと言うんだが、届いてるかい?」


 はいはい、ちょっと待って下さいねー。と言って奥に何かを取りに行った。


 戻ってくると、手に水晶玉が台座に乗っている物を持ってきた。

 ペット転送クリスタルだ。


「じゃ、本人確認とるので、これに手を当ててー」


 言われるままに、クリスタルの上に手を置いた。

 すると、中に青い光が灯る。


「はい、確認おっけーです。このまま、ここの厩舎に預けます?」

「ああ、しばらく町に滞在するから、頼むよ。時々、連れ出したりするから、これを付けておいてくれ」


 そう言うと、ギルドで発行されたペット用のプレートを渡した。


「分かりました〜!料金は前払いで1週間毎にお支払いです。返金は有りませんので宜しくでーす」


 前金で、1週間で1頭銀貨一枚と言われたので、4頭分を2週間だと言って金貨一枚渡す。

 釣りはチップだよと言うのも忘れない。

 これで、良く面倒を見てくれるだろう。


「わあ、有難うございまーす!あ!パドにいる叔父さんがよく言ってたお得意様って、ユートさんだね。こちらでもご贔屓に〜!」


 あぁ、こちらこそな。と言って別れた。

 しかし、あの厩舎の主人の姪っこか、世間は狭いんだな。


「ただいま〜、みんな準備できたか?」


 帰ってみると、みんな装備をしているとこだった。


「あぁ、武器はバッチリだ。嬢ちゃんとシュウも装備すれば出れるぞ。ユートも早く鎧を着て来な」


 ガントは、武器を渡しつつそう言った。

 ガント製のキマイラの鎧を着用し、双剣とボーガン、矢筒を装備してから、皆を集める。


「今回だが、行くのは一番近くのダンジョンの白羊はくようの洞窟だ。ここから、ニケとカルマで1時間も掛からない距離にある」


 そう言うと、地図を広げて町の北東を指した。


「ここは、比較的大人しめな魔獣が多く生息していて、楽に攻略出来ると思う。そこでだ、リンとシュウのスキル熟練度上げのため、二人に基本戦って貰う。いいかい?」


 そう言って、二人に目線を合わせた。


「はい!」「分かった!」


 二人ともいい返事だ。


「俺とガントは、後ろに控えているし、危なくなったらサポートするから安心しな。但し、無茶は絶対するなよ?昨日説明した通り、死んだら終わりだ。何より、怪我したら痛いぞ〜?まぁ、経験済みだから分かっていると思うけど。」


 そう、脅しながら先走りも厳禁と念を押した。

 二人とも昨日の気を失うほどの激痛を思い出し、ウンウンと首を縦に振った。


 町の門に向かい、衛兵にプレート見せてから外に出た。

 ご武運を!とか真面目な顔で言われてびっくりした。


「よーし、ガントとシュウはニケに乗ってくれ。俺とリンはカルマに乗っていく。かなり速度あげるから、あんまり顔を上げるなよ?」

「了解!」「「はーい」」


 いい返事を貰えたとこで、カルマに出発を促した。


「承知した。ニケよ我と勝負だ!」

「おい、勝手に勝負とかおわあああああああああっ!」


 クアアアアアッ!

 二匹は、超高速で走り出した。



 ───40分後、4人は目的地前に到着した。


 時速100km以上で走った結果、予想よりも早く着いたが、全員ちょっとグロッキーだった。


「お、お前ら、手加減という言葉をしらないのか…?」


 ニケとカルマに対し、爆走しすぎと言うと。


「主よ、これでも半分くらいですよ」


 は?お前等は跳ね馬のスポーツカーか何か?


 気を取り直して、白羊の洞窟へ。

 但し、カルマとニケはここでお留守番だ。


 例のごとく腕章と、今回はギルドから貰ったペット用のプレートも付ける。

 流石にSランクのプレート付けてて、いちゃもんつける奴はいないと思うが、襲って来るやつがいたら反撃していいと伝えた。


 また、ぼーっとさせるのも勿体無いので、どうせならと2匹に戦闘訓練させる事にした。

 魔法無し、スキル無しでやる事!殺さない事!洞窟を壊さない事!と付け加えて。


「じゃ、行ってくるな。ふたりもここで頑張れよ!」

「承知」「クアッ!」


 返事したのを確認し、中に入った。


「じゃ、リンとシュウ。武器をとってから前に出て。訓練だからな、指示通りにやれよ?」

「「はいっ!」」


 お、いい気合いの入り方だな。


 このダンジョンは、地下へ向かって階層が出来ていて、最初の洞窟入口から細い道が続き、その先に数カ所のフロアが有るらしい。


 一番奥には下っていく坂があり、そこを降りると次のフロアとなる。

 そこから先は、蟻の巣のような構造になっている。


 一応、最深部まで攻略が終わっているらしいので、真下に降りる部屋とかは丈夫なロープなり、梯子なりが有るらしい。


「さて、行くぞ!」


 早速、ダンジョンに入っていく。

 最初のフロアは、魔獣は少ない。

 出てきたのは、ランクD魔獣のジャイアントスネークだけだ。


 シャアァァッと、飛び付いてきたがシュウが大剣で、でやぁっ!っと薙ぎ払い体を真っ二つにし、リンも負けじとていっ、やあっ!と細いロングソードでバラバラにしていった。


「まだまだ序盤だからな、この位は楽勝だな」


 そう言いつつ、先に進ませる。


 道中の材料集めは、非戦闘員のガントに任せる。


 何の問題もなく2階層目に到達。

 ここから4層までは、D〜Cランクの魔獣が出るが、相手として低すぎるのでサクサクと進ませる。


 さすがに、Bランクだけあって苦労せずにほとんどが一撃ないし、1ターンで倒す。

 二人を見ながら分析してたが、シュウは一撃必殺が真髄のパワーファイターだと分かった。大剣だからそうとは思っていたが、子供の体から発せられるとは思えない力で一刀両断していく。


 リンは、高速で剣を繰り出しかつ、命中重視に舞い踊る様に戦う、正確無比のスピード型剣士。攻撃も受け流すことも無く全て回避している。


 二人とも、自己スタイルがしっかりハマってて、強いと勘違いしていたのも分かる気がする。

 たが、お互いに相手と連携した動きは見せていない所をみると、そこに穴が有りそうである。


 順調に進む事1時間。今現在は5層にちょうど到達したところで、休憩にした。

 持ってきておいた水筒を皆に渡す。


「なかなか、順調そうだなぁ。おかげで材料がたんまりだぜ」


 ワハハと言いながら、バックパックを指差す。


「ガントが全部持ってくれるから、俺も集中出来て助かるよ」


 まだ、補助魔法すら使ってないが、たまに指示出したり、指摘したりしていたので、神経は使っている。


 俺は、ふうっと一息ついてから、ここからが本番だと二人に伝えた。

 ここからは、C〜Bランクの魔獣が出る。


 つまりは、二人の同格ということだ。

 場合によっては、危険を伴うので気を引き締めさせないとな。


「よしっ、きたぞ。シュウは、前面に立って薙ぎ払いでけん制!リンは、体制崩した魔物の隙きを狙え!」


 相手は、ランクCのケイブリザード数匹だ。

 すばしっこく、何処にでも張り付ける厄介な奴だ。


「うおりゃあー!」


 ぶんっと大剣一閃、当たったケイブリザードが真っ二つになる。

 仲間がやられて、後方に構えてた数匹を見つけて、リンが踏み込む。


「たぁっ!えい、やーーっ!」


 下段から斜めに切り上げて、反動を使って半回転しつつ横薙ぎ、そこからの袈裟懸けに斬り込む。


 なかなかの胆力と技量だ。

 攻撃開始から剣がので、あれは剣技スキルだろうな。


 俺は通常攻撃を底上げするのと、派生スキルのために戦闘術タクティクスを取っているが、戦闘職の場合には更に武技アーツとか、空間支配ゾーンや、空中戦闘術エアリアルとか、物理戦特化スキルを覚えていく。


 Bランクなら、9つスキル習得出来るので、戦闘の幅がかなり広いはず。


「とどめー!!」


 ズバーーッと、シュウが気合い一閃、残ってた2匹を両断した。


「こんなもんかなー。…っと、邪魔だよっと」


 二人の戦闘を指示しながら見守ってたが、上からトカゲが飛んできたので双剣の片方で首を落としておいた。

 戦闘を終えた二人は、そんな蚊を払うかの仕草で倒したユートを見て一言。


「「Sランクってズルい」」


 そんな事を言われる始末であった。

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