第24話 回想と朝食

酒場で盛り上がったあと、部屋に帰ってきてみんな即寝た。


 特に、リンとシュウは心身共に限界だったらしく、服を着替えるのも忘れて寝てしまった。

 流石に見兼ねて、二人を寝巻に着替えさせて、シーツを掛けてあげた。

 ガントは、もちろん放置だ。

 寝る部屋が違うので、見なければ気にならない。


 俺は、やっぱ風呂入りたいな~と思い浴室に向かう事にした。

 シャワーは無かったが、大きな浴槽に綺麗なお湯が貯められていた。


 桶を使い、お湯を掬ってからタオルを浸し、それで身体の汚れを落としてから、湯船に浸かった。ちなみに浴槽と桶は木製だ。

 この世界に石鹸とかあるのかな?と、素朴な疑問を考えつつ、温まる。


 今日までの事を少し振り返る。


 ──この世界”アストラ”に落とされて、ペットはニケ以外脱走し再度捕まえに行く事になる。


 その後カルマと死闘を繰り広げ、後でそれ本気では無かったと知った時はショックだったが、主と認めてくれているのは確かだと思う。


 この世界の事を、また今の自分の事をカルマから聞いたときは心底驚いたが、…同時に年甲斐もなくワクワクした自分が居た。


 ガントから声をかけられ、防具の材料取りに坑道へ向かいなりゆきでキマイラを倒す。

 そのおかげで、久々に防具を新調出来たのは結構嬉しかったな。


 情報をもっと集めるためにサニアの町へ向かおうとして、ライとサナティ兄妹に出会った。


 サナティが使ってた精霊魔法も使い勝手良さそうだったなぁ。

 まだスキル枠が1枠空いてるから、今度習得してみよう。


 リンとシュウの救出依頼を受けて、特急で塔に向う。

 救出したついでに地獄の番犬ケルベロスを討伐し、地獄の塔を攻略。


 そこから、サニアを再び目指しギルドへ登録完了し、3人にアストラと自分たちに何が起こったか詳細を説明し、仲間になって今に至る。


「怒涛の数日間だった。しかし、まだ1週間経ってないのか…」


 色々とあり過ぎて、かなり前に来た気がするが思ったほど日数が経ってない。

 ある意味で、充実しているとも言えるか?


 ザバーっとお湯を掬い、顔を洗ぐ。

 この心地よい温かさ、お湯の感触、気持ちのよさは、どれも本物だ。

 

 しかしファミリーか…。

 自分で言っててなんだけど、ちょっと小っ恥ずかしいな。


 だけど、そう言って仲間にしておかないと、あの子達が何処かで命を落とすのは目に見えていたので後悔はしていない。


 これから先、もしかしたらそんな奴らが結構出てくるかも知れないな。


 全員を助けるほどお人好しでは無いし慈善家でもない。

 しかし自立出来ないような子達は、一人の大人としてサポートしてあげたいとは思うのだ。


 だから…、


「よし!まずは拠点にできるマイホーム購入だな!ガシガシお金稼ぐぞー!」


 ザバーっと風呂からあがり、一人で勝手に盛り上がっていた。



 ──翌朝は、宿屋の部屋で朝食をとった。

 社会人だった名残か、朝七時くらいには目が覚めるのは社畜だった証拠か…。

 

 朝はトースト派だったが、こっちでは焼き立てパンしか出ないし、トースターが無い。


 ふわふわで美味しいので別にいいのだが、家を買ったらオーブンとかガントに作らせよう。


 あ!あいつ、大工あったよな。

 …家建てるとこからやるか…?


「何悪い顔して考え込んでんだ?…あ、バレたって、顔してんじゃねーよ!」


 おいおい!と笑いながらガントが起きてきた。


「おはよ~、パパ、ガントさん」


 リンも、ふわわっと小さなあくびをしながら起きてきた。


「ねぇねぇ、着ているのが寝巻になってるけど、パパがしてくれた?」


 着ている寝巻を摘んで聞いてきた。

 まだ寝ぼけているのもあるだろうが、すっかり自然にパパと呼ぶようになったようだ。


 まぁ、ファミリーとして迎い入れると言ったから娘みたいなもんだし、気にするのをやめよう。

 

「おはよう、リン。ああそうだよ、あのままの恰好じゃ体痛くなるだろう。良く寝れたか?」


 そういいながら、ミルクを木のコップに注ぎ、リンに、渡した。


 笑顔でうん、有難うっ!といいながら、ソファーにすわってミルクをコクコクと飲んでいる。

 目の前に沢山のフルーツや、パンや、ウインナーやベーコンの焼いたもの、卵焼きなどがあり、目を輝かせていた。


「お腹すいたろう、食べちゃいなー」

「はーい、いただきま~す!」


 行儀よく手を合わせてから、リンはパクパクと食べ始めた。

 ガントは、既に食べ始めていたが、こちらを、見て一言。


「なんか、本当の父娘おやこみたいだな」


 ブフッ!…ガントが余計なことを言うので吹いてしまった。

 飲んでたのが水で良かった。


 リンは、本当ですかっ!?と嬉しそうだ。

 そんなに、父親に似てるのかな…。

 というか父親の事大好きだったんだろうなぁ…。


「そういや、リンっていくつだ?」


 自分の娘よりは幼く見える。と言うことは小学生か。


「今年で、11歳になりました!」

「じゃあ、5年生か?今の姿からだとランドセル背負ってるイメージが沸かないなぁ」

「あ、私の通う学校は私立なので、ランドセルでは無いんです。背負ったことないからちょっと憧れますけど」


 なるほど私立か。と言う事はどこぞの附属小学生だったわけか。

 通りでお行儀がいいわけだな。


「シュウは?…って、あいつまだ寝てるのか。せっかくのパンとスープが冷めちまうな。ガント、シュウを起こしてきてくれ」

「あいよー、おーーーい」


 と言いながら、寝室に起こしに行く。


 しばらくして、ガントと一緒にシュウが起きてきた。


「ふああぃ、おはよ~」


 超寝癖つけて起きてきた。…どこの戦闘民族だ。


 リンが隣に座るように促して、ブラシで寝癖を直してあげてる。

 リンの方がお姉さんに見えるな。


「あれぇ、俺こんなの着てたかなぁ。まぁいいか。いただきまーす」


 まだ、寝惚けたままパンを噛じってる。


「ほら、これも食いな」


 といって、卵焼きとウインナーとベーコンを皿に取って渡した。


「結婚してたやつって、そういう事自然に出来るんだな」


 と、ガントは素直に関心してた。

 今度は動じないぞ。というか…


「お前はして無かったのか?」


 ガントは、う…と言いにくそうにしてから、


「まぁ、する予定だったけどなー。プロポーズをして、フラれたんだよ。ははは」


 と、乾いた笑いをして遠い目をしてた。


 …そっとしておいてやろう。


 ちなみにガントは不細工ではない。

 男臭い顔をしているので好みは分かれそうだが、渋めのスポーツマン顔だ。

 こっちの世界ならモテるんじゃないか?言わないけど。


「そうだ、シュウは今いくつだ?リンと一緒か?」


 もぐもぐと食べながら、ん?とこっちを見てから答えた。


「俺は、リンの1個上。十二歳の六年生だよ」

「同じ学校なのか?」


 首を横に振る。


「まっさかー。俺は、普通の小学校。リンの家をみたいにお金持ちじゃないし」

「私のうち、普通だよぅ!」

「いやいや、うちなんて海外旅行とか行ったことないよ?それも、年に2回とかさ」


 リンは、別にたまたまだよー!と言うが、ここはシュウの方が正しそうだ。


「で、二人はどこで知り合ったんだ?」

「もちろん、LBOだよ。たまたまイベントで一緒にパーティ組んだんだ。その時に仲良くなって一緒にスキルあげとかしてたんだ」


 なるほど、シュウは言動は荒いがコミュ力はありそうだもんなぁ。

 あ、ライ達にに話し掛けたのもシュウか。


「なるほど、それからずっと一緒にいたわけか」


 そうそうと、首を縦にふりつつ、


「そうだよ。リンと冒険すると楽しいからね。いつも一緒」

「うん、私もシュウと冒険すると色んなとこに行けて楽しいよ!」


 リンも、フルーツを頬張りながら笑顔で同意してる。

 二人共、育ち盛りだからか華奢な割に結構食べるな。


「そうかそうか、そんじゃ、食べ終わったら軽い運動がてら、冒険するか」

「おー、おっちゃんいいね!いこういこう!」

「こら、おっちゃん言うな!」


 俺のことは、ユートさん呼ぶんだぞと念を押すが、分かったよユートおじさん、と言う始末だった。


「それと、今週はここに泊まるけど、ずっとここと言うわけにいかないからさ、一旦どこかに家を借りようと思ってるんだ。だから、毎日ある程度稼いでくるからな」


 はーい!と、子供たちはいい返事をする。


 丁度、みんな食べ終わった頃。


「あ、じゃあ、着替える前に私お風呂〜!」


 と、我先にと風呂に向かっていった。さすが女の子。


「じゃ、俺もそのあと入るー」


 シュウも、昨日入れなかったので入りたいようだ。

 現代っ子だけに、風呂の習慣はあるようだな。


「ガントはどうする?」

「ああ、俺は寝る前に体を拭いてから寝たからな。帰ってきてからゆっくり入らせて貰うよ」

「了解だ。じゃ、今のうちに厩舎へ行ってくる。俺のペット達が転送されて来てるはずだから、確認してくる」


 じゃあ、武器の整備とかしておくぞとガントが言ってくれたので、預けてから出掛ることにした。

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