第17話 蹂躙だ!

「やぁ、君たち無事か?…うん、無事ではなさそうだな」


 ちょっと遅かったかなと思ったけど、俺のせいじゃない。

 こちとら超特急で来たんだし。

 しかし、ギリギリだったな。あぶないあぶない。


「サナティ、回復してやれ。ガントとライはシュウを運び出せ!」


「分かりました!」

「「了解!」」


 3人は、返事と共に動き出す。

 同時に、カルマとニケに司令を出す。


「ニケとカルマは、猫どもを残さずすり潰せ!」


「承知!」

「クアッ!」


 2匹が遠慮せずに範囲攻撃を繰り出す。

 見事にミンチにしていく様は、さすがSランクに到達した魔獣だ。


 サナティは、リンを抱えて入り口の方に運び、静かに持っていたポーションをかけつつ、回復魔法を掛けた。


「水の精霊よ、この者に治癒の加護を…アクア・ヒール!」


 キラキラとリンが水色の光に包まれていく。みるみるリンの傷が塞がり、血も止まった。

 これは、精霊治癒魔法か。なかなか優秀なヒーラーだったようだ。


 サナティがリンを治療している間に、ライとガントはシュウを両肩を抱えて、入り口付近まで連れて行く。その間にポーションも掛けて応急手当をしていた。


「ぐっ、うう…あ、あんた達は?あ…ら、ライ!助けを呼んできてくれたの?ありがと…う」


 安心したのか、そこでシュウも気を失った。


「クロ、出てこい!」


 カルマの足元に影が出来上がる。そこから、クロが出て来た。


「オヨビデスカ?」


 そう言うと、スルリと俺の足元に来た。動きが忍者っぽいな。狼だけど。


「こいつらのガードに当たれ。近づく魔物は全て倒せ!分かったな?」

「ワカリマシタ」


 そう言うと、クロは黒いオーラを纏い戦闘モードになる。

 ここらの雑魚なら問題ない。


「俺も、掩護してくるわ」


 カルマとニケの共同戦線は、相手には地獄のようだった。

 ニケがその翼を振るだけで凄まじい威力のウインドカッターが発生し数体の体を両断し、カルマが無詠唱で魔法陣を大量に出現させるとあたり一帯が爆炎に包まれてまた数体が消し炭となった。


 もはや、蹂躙といえる有り様だった。


 余りの実力差に、ヘルキャット達は恐慌に陥った。

 それが彼等の死期を早める結果に繋がったのは言うまでもない。

 もはや、2匹は恐怖と暴力の象徴だった。


 そこに、さらなる恐怖が加わる。

 彼等の主人が来たのだ。既にオーバーキルだというのに、これ以上何をするのか。

 そんなの決まってる。

 蹂躙だっ!


「スキル発動、アニマブーストⅢ」


 ニケとカルマが赤いオーラに包まれた。


 アニマブーストとは、高位テイマースキルのひとつで、絆で繋がっているペットの能力を上昇させる効果だ。


 Ⅰなら10%、Ⅲなら30%すべてのステータスが上がる。

 単純だが効果はかなり高い。


「よし、さらにスキル発動、ビーストコマンダーⅣ!」


 今度は、緑色のオーラに包まれた。

 ビーストコマンダーとは、主人が命令することで使用する魔法およびスキル等の攻撃力がすべて向上するスキルだ。

 Ⅳなら、威力が40%アップだ。


「ニケ、ライトニングブレス!…カルマ、ダークブラスト!」


 そのまま、2匹に範囲攻撃を命令した。

 次の瞬間、眩いばかりの閃光が、辺りを照らしたと思ったら、次の瞬間、漆黒の光が辺りを埋め尽くした。


 そして、ヘルキャットがいた場所には灰だけが残っていた。


「あ、材料も燃え尽きた…」


 あとの祭りだ。


 広い空間に、塵と灰が積もるのを見ながら、取り敢えず安全になった事を確認したので、治療中の二人を奥に連れてこさせた。


 危険な状態は脱したようだが、まだ油断は出来ない。

 そこで、スキル上げ以外で滅多には使って来なかったスキルを使うことにした。


神聖術セイクリッドスキル…〈祝光〉!!」


 祈るようにしてから、両手を広げてスキルを発動する。


 すると、キラキラと全員が光に包まれて、疲労回復と気力回復効果を発揮する。


「なぬっ!?ユート、神聖術なんて習得してるのか!」


「まあね、これないと使えないテイマースキルが有るんだよ。だから副産物みたいなもんさ」


 神聖術は、司祭プリースト司教ビショップを目指す人が取得する信仰系魔法スキルで、テイマーには無縁なスキルだ。

 しかし、ある派生スキルを修得するのに必要だ。


 『魔法マジック』スキル熟練度が100以上、『神聖術セイクリッド』の熟練度が80以上、『降霊術ネクロマンシー』の熟練度が80以上で『神秘術ミスティック』が派生し、『獣医学バラナリー』と『動物知識アニマルロア』の熟練度を100以上にすると『生物学バイオロギー』が派生する。


 『神秘術ミスティック』は、水や石等の生物以外に一時的に効果を付与することが出来るスキルで、熟練度に応じて付与出来る効果の数と時間が増える。


 『生物学バイオロギー』は、その名の通り、生物に関する情報を見ただけで得ることが出来る。生物版の鑑定みたいなスキルだ。また、生物に対しての魔法やスキル効果が熟練度に応じて上昇する。

 

 そして、『神秘術ミスティック』と『生物学バイオロギー』両方修得すると、さらなる派生スキルの『蘇生術リザレクション』を修得するのだ。


 このスキルは、死んで間もない生物を生き返せるスキルだ。

 熟練度が上がると成功率と蘇生時のHP回復量が上昇する。


 …但し、寿命が尽きて死んだ生物を生き返らせることは出来ない。


 各キャラクターは、スキル枠というのをもっているが、この派生スキルはカウントされない。

 何故なら習得して獲得することは出来ない、他のスキル同士が複合して生まれる副産物的なスキルだからである。

 しかし修得するまでかなりの苦労を要するため、その効果は絶大だ。


 なお、戦士系は、戦闘系派生スキルを複数修得することで多彩な攻撃スキルを扱えるようになる。

 

 『蘇生術リザレクション』は、それまでの過程が多すぎるため修得難易度が半端ない。 

 実際に俺もどれだけの時間とお金と気力を費やした事か…


 だが、それだけの価値がある。

 名前の通り、魔力さえあれば従属させたペット達を蘇生出来るのだ。(ペット達は、魔法では蘇生出来ない。)


 そう、ニケとカルマも蘇生可能なのである。


 …まあ、今は死ぬ想像つかないけど。

 先日死んだ動物ペット達は、時間が経ち過ぎて手遅れだったので本当に残念だった…。


 さて、そろそろリンとシュウも目を覚ますだろう。

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