第18話 えぇ?パパ!?

「あれ、ここは…。あ、…パパ?」


 リンが、目を覚ました。

 まだ、意識がハッキリしないのか、ぼやけた意識で俺を見てそう呟く。


「え?パパ!?あははは、俺にも娘がいたが、君の父親パパではないよ」


 ガントが、俺を見てまじか?!みたいな顔しているがスルーである。まぁ、いたのは昔の話なんだがそこまで話すつもりもない。


「えっ、あっ!ごめんなさい!

 パパに雰囲気が似てたから…えっと、おじさんは誰?」


 顔を真っ赤にして、あれ、始めましてかな?と首を傾げてる。その仕草が可愛くて、思わず吹き出しそうになる。


「俺は、ユートだ。ライ達に頼まれて君たちを助けに来たんだよ。とりあえず治療もしたし、痛みも消えたはずだがどうだい?」


 リンは、自分の体を確かめた。防具は、噛まれた跡と血の跡が残っているが、傷は完全に消えていた。それよりも、さっきまで感じていた痛みもなくなっているのに驚く。


「はい、大丈夫みたいです。ありがとうございました!

 本当に、もうダメかと…」


 さっきの事を思い出したのか、恐怖に体を震わせる。そんなリンを見て、娘を思い出しながら、大丈夫もう安心だよといいながら頭をなでてやった。

 リンは俺の胸に顔をうずくめ、小さく嗚咽を漏らした。


「う…、はっ!リン!!」


 そんなタイミングでシュウが目を覚ました。

 がばっと、起き上がると俺に背中を抱かれるリンを見つけた。


「誰だおっさんっ!

 リンから離れろおっ!」


 と、いきなり大剣で切り付けようとくる。

 こいつ頭に血が上がりやすいタイプだな。


 だが、振り下ろす前にニケがクチバシで捕獲し、ぷらーんと持ち上げられて阻止された。


「うわわわわわっ!は、はなせー!」


 騒がしいやつである。

 そしてニケ、グッジョブ!


 泣いてたリンも、そんなシュウが騒ぎだしたことで気が付いた。


「あ、シュウ!目が覚めたんだね!

 でも、この人が助けてくれたんだよ。いきなり攻撃するなんてダメじゃない!」


 と、ニケに吊るされているシュウ対し、ぷんすこと表現されそうな感じで叱った。

 両こぶしを振り上げて怒るたびに、両サイドに結われたツインのテールが揺れて微笑ましい。


「わ、わかったから、ごめんって!

 てか、誰か降ろして~!」


 そんなリンに平謝りし、降参のポーズをとった。


「とりあえず、ニケもう降ろしていいぞー」


 苦笑いしながら、ニケに指示を出した。

 降ろされたシュウは、ちょっと涙目になってた。


 そんな様子をとりあえず見守っていたライとサナティが口を開いた。


「二人とも、もう平気か?…なんとか間に合ってよかった。ユートさんが居なかったら、君たちを助けることすら出来なった。力不足で本当に済まない」


「そうね兄さん。年長者として止めるべきでしたよね。ごめんね、こんな怖い思いをさせる結果になって。でも、本当に生きててよかった」


 二人は、リンとシュウの手を取りながらそう言って謝った。


「ううん、俺から持ち掛けてお願いしたのに、勝手な行動でみんなを巻き込んでしまったんです。こちらこそごめんなさい」


 お、意外なことにシュウが反省して素直に謝ってる。


「うん、私もみんなより強い!とか勘違いしてました。その結果、死んじゃいそうになって…。ユートさんたちを呼んできてくれて、助けに来てくれてありがとうございました!」


 二人揃って頭を下げて謝った。

 うんうん、人間素直が一番である。


 …さて、せっかく塔に来たんだし、手ぶらで帰ることはないよな。ここは、まだ中層だし、俺らにとっては雑魚ばかり。確か最上層の部屋には、Sランク魔獣がいたはずだ。

 この子たちにも、本当に強い敵を見せて勉強してもらおうかなと考えていた。


 ライとサナティにとっては未知の領域になるだろうが、何事も経験である。それに守るだけなら問題ない。

 

 ガントの方を見て、ニコっと笑いかけた。

 引き攣った顔で、嫌な予感がするよと呟いている。そう、当たりだよガント君。君も分かってきたね。


「よーし、みんな治療も済んだことだし…」


「あ、塔を降りるんですね。帰りは歩きでいいですよ!」


 サナティが勘違いして、もう帰ると思っている。


「いや、このまま最上層まで登る」


「「「「え?」」」」


 ガントだけ、やっぱり・・とか言ってる。


「このまま、手ぶらで帰れないだろ?

 来たからには、ちゃんと攻略しないと」


 いい笑顔で、答えておいた。


「いやいやいやいや!何いってるんですか?!

 ここの最上層は、Sランク魔獣がいるっていう噂ですよ?

 そんなとこ行って生きて帰れるわけないでしょう!?」


「まあまあ、落ち着けって。皆には付いてきてもらうだけでいいから。ちゃんとガードはつけるし。本当にやばそうだったらちゃんと引き返すから」


 皆を無理やり説得し、取り敢えず準備する。

 ガントに、それぞれの武器を手入れしてもらい、その場で補修出来そうな防具の修復だけしてもらう。また、こちらの手持ちの中級ポーションをいくつか持たせた。


 そう言えばと、さっきヘルキャットだったものの残骸である、灰を鑑定してもらう。

 ”魔獣の灰(高品質)”という結果だったので、布袋に入れてストレージに入れた。錬金術や強化の素材になるので後で売りに行こう。


 さて、上層までの移動だが、歩きは面倒くさいな。

 だが、ニケには精々4人迄しか乗せれない。

 戦闘させるなら3人までが適正である。

 それならば…。


「カルマ、どいつか俺と一緒に乗せてやれないか?」


 カルマは、俺以外の人間を乗せたがらないのだが、一応聞いてみる。


「主以外の人間を…特にオスは乗せるのはお断りだ」


 ん、女性は良いって事か?

 あ、そういや悪魔だしなコイツ。


「じゃあ、リンなら一緒に乗せても平気か?」


「ああ、私の好み的にはあちらの女がいいが、主の願いであるならば仕方あるまい」


 サナティを見てそう言っていたら、サナティは首をぶんぶんと横に振っていた。


「じゃあ、リンは俺と一緒にこのカルマに乗って移動な」


「あっ、はい!よろしくおねがいします!」


 リンは、元気よく返事を返した。真っ直ぐでいい子だな。


「あとは、シュウだが…クロ!」


 地面からニュッと出てくる。


「オヨビデスカ?」


「この少年を乗せて移動出来るか?」


 大きさ的には問題ないと思うが。


「ダイジョウブデス」


「そうか、頼んだぞ」


「ショウチ」


 そう言うと、シュウの背後にスルリとまわり、咥えたと思ったら宙に放り出す。

 シュウが空中で一回転してバンザイの状態でクロに着地した。

 おおーっと、なぜか拍手が起こったが、シュウは顔を真っ赤にして何も言えなかった。


 ニケには、来るときと同じくガント、ライ、サナティを乗せた。

 みんな、落下防止の障壁に守られるので最上層まで怪我すらしないだろう。


 リンはカルマの首もとあたりで、俺に抱っこされるような位置に座る。フィアの定位置と一緒だ。

 この位置にいるとつい撫でたくなり無意識に頭を撫でてたら、リンがふにゃんと気持ちよさげにしていた。


 シュウは、最初はビックリしていたが、乗り慣れるとすげーっ!とか、カッコいい!とか言ってご機嫌になっていた。地面に近い分より速さを感じる分スリル満天のはずだが、少年にとっては最高のアトラクションのようだ。


 カルマに乗った俺とリンを先頭に通路をダダダっと駆けていく。

 遭遇する敵は、俺のクロスボウやカルマの闇魔法、ニケの風の精霊術によって蹴散らされた。


 上層に入ると、魔物の強さが上がってきた。

 Bランク上位からAランク下位くらいというとこだ。ただ、強くなった分出現する個体数が減ったので、捌く速度は変わらない。


「今度は、黒いトラってとこか?

 …ヘルタイガーだってさ」


 ありきたりな名前だったが、強さはなかなかだ。

 クアアアアアッ!とニケが咆哮により衝撃波を繰り出すが、怯まなかった。

 ヘルキャットとは格が違う。


「カルマ、魔法で串刺しにしてやれ!」


 そう言いつつ、なんか言ってる事が悪役っぽいかなと思いながら攻撃を仕掛けた。

 クロスボウで援護しつつ、カルマに魔法を打たせる。


「承知しました」


 そういうと、Aランク魔獣ヘルタイガーの周りに、魔法陣が複数出現する。

 そこから、黒い槍のようなものがヘルタイガー目掛けて飛翔した。

 暗黒魔法エビルジャベリンだ。


 ズザッズザズザッ、ダンダンダンダン!と音を立てて相手を串刺しにいていく。

 問題なく1ターンでこちらの勝利だ。


「上層で、一方的に魔獣を倒してるとか自分たちの死闘は一体…。Sランクって本当なんですね…」


 とライが遠い目をしていたけど、しょうがない。


 もちろん、俺もここに至るために数々の死闘をしてきているから(LBOでだが)、彼らも努力して力をつけるしかないのだ。


 道中で、何頭かのヘルタイガーや、何体ものBランク悪魔レッサーデーモンやらをほぼ瞬殺で屠っていった。

 今度は消し炭にしないように倒して、素材も随時回収していく。(素材は、全部ガントに持たせた。)


 何度か、大きならせん状になっている階段らしきものを上り、ついに最上層らしき場所へたどり着いた。


 階段を上り切ったところに大きな扉があり、扉の前まで行くと勝手に開いていく。


 中に入ると、天井がない吹き抜け構造になっていた。

 そこは仕切りのない大きな円環状のフロアで、フロアの奥には大きな魔法陣があるのが見える。


 LBO時代ではおなじみのそれを見て、俺はニヤッとするのだった。

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