第13話 新しい世界

 整備もして欲しいし、来てくれないと俺も困る。

 取り敢えず、行く準備するから酒場で落ち合おうという事になり、一旦別れた。

 俺も、厩舎に用事があるのでそっちに向かった。


「ああ、旦那。出発するんですね」


 厩舎の主人が俺を見つけるなり作業を止めて来てくれた。

 建物は大分直ったようだ。


「ああ、近くの町に行こうと思う。なぁ、聞きたいんだが」

「はい、何でしょう?」

「ここって、転送クリスタルあるか?」


 転送クリスタルとは、厩舎から厩舎へ、ペットを転送してもらえる便利な魔法アイテムだ。ゲームでは存在しててとても便利だったが…


「ああ、町に送るんですか?もちろん有りますよ」


 あったーーーー!!

 これで、かなり楽が出来る。


 流石に全員ぞろぞろ連れて歩いたら、魔王軍が行進していると思われかねない。


 それに、移動に時間が掛かってしまうので、今は回避したい。

 カーゴタートルにしまうという手もあるが、全員となると狭い。

 しかも、容量オーバーとなりかねない(重量は制限が無い)。


 馬車も考えたが、生憎と使ってない荷台が無かった。

 なので、転送してもらえたらと思ったのである。


 しかし、ここで新たな問題だ。

 LBOのとき、ランクと重量で値段が変った。仕組みが一緒ならゲンブだけでかなり取られる。ガントを運ぶことを考えるとニケとカルマは連れて行くとして、他をどうするか…


「旦那、料金なんですが…」


 ごくり。


「今回は、料金サービスして無料でいいですよ!」


 むりょおおおおおっ!!


「旦那が鉱山の魔物追っ払ったお陰で、兄弟や仲間達がまた働けるって喜んでて。村長からの御達しもあって、タダに出来たんですよ」


 いやー、路銀のために受けた依頼だったが、思わぬ副産物を貰えてラッキーだ。

 いい事はするもんだな。


 …ん、さっきも言った?


「じゃ、ニケと、カルマ以外を頼む」

「分かりました。では、明日の朝には転送しておくんで向こうで受け取ってください。サニアの町でいいですか?」


 ん、聞き慣れないな。そういや、ここの村なんていうんだ?


「なぁ、ここって何ていう村だっけ?」

「ここですか?ここは、パドの村ですよ。名前、知らなかったんですか?」


 あはは、ど忘れしてなと誤魔化しておいた。

 それよりも必要なものが増えた。


「ここらで、周辺地図売ってるとこあるか?」


 そう、地図だ。

 LBOと、村の名前も町の名前も違う。これだとこの先転送するのに違うとこに行ってしまう可能性がある。


「ああ、はい。それなら道具屋で売ってますよ。周辺地図というか、大陸地図ですね」

「そうか、助かるよ。じゃ、転送は頼んだな!」


 厩舎の主人と別れて、道具屋に来た。ここ数日、色々買い込んでるのですっかり馴染みだ。

 なぜ地図が売ってるか気が付かなかったとツッコまれそうだが、今まで必要なかったのだ。

 なにせ、今のとこ地形は一緒なのだ。

 記憶と寸分も違わないくらいにだ。


 なので、町の名前とか気にしてなかった。

 正直に言うと盲点だった。


「いらっしゃーい。何ご利用ですかー?」


 店員のおねーさんがフレンドリーに話し掛けてくれる。


「えーと、地図が欲しいんだ。大陸地図。世界地図もあったらそれも欲しい」

「はーい、2枚合計で銀貨2枚よー」


 と、両手でお椀を作って差し出してきた。

 なんかこの仕草いいよな。


「じゃ、これね」


 銀貨2枚を渡して、地図を貰った。

 店を出て、早速眺めてみた。


「やっぱりか」


 地図を見て確信した。

 地形は全く一緒なのに、町や大陸の名前が違う。


 やはり、ここは自分の知ってる世界ではないと確信する。


「ゲーム世界がそのまま現実になったとかなら、良かったのに。ま、でもやる事は変わらないか」


 そう、独り言を言いながら酒場に向かった。


「おう、ユート遅かったな。なんかあったか?」


 微妙な顔をしている俺にガントはどうしたと聞いてきたので、現状把握した内容を伝えた。


「なるほどなー。俺たちはどこか知らない世界に来ちまったんだな。しかも、帰る手立てとか全く検討もつかねぇと」

「ああ、そうだ。そもそも、『違う世界に来た』という概念が違うかも知れない」

「え、それはどう言う事だ?」


 そこで、カルマから聞いた話をある程度した。


「はぁ、なんと言うか凄い話だな。どこまで信じたらいいか頭の悪い俺には分からんな」

「俺もさ、だからこそ世界を回って情報を集めないといけないと思っている」

「でもさ、もし本当で生まれ変わったのだとしたらどうする?」


 ガントは、真剣な顔で聞いてきた。

 だが、その答えだけは決まってる。


「そんときはさ、新しい人生を謳歌するしかないだろ?」

「そりゃあ、違いねえな。よし、やることは変わらないんだし、そろそろいこうぜ。逆にワクワクしてきたぜ!」


 このポジティブさは、正直助かる。

 ま、自分もそこまで悩んでた訳じゃないが。


「オッケー、出発しよう!」


 村を出て、地図の通りに"サニアの町"へ向かうことにした。

 カルマは、俺以外の人間は乗せないと言うので、ガントはまたニケに乗せた。

 俺は、カルマに跨り出発の合図を出した。


「新しい町へ出発だ!」

「おー!」


 ニケもクルァァァ!と鳴き、カルマもグオオオッーと嘶いた。


 さて、新しい町で何に会うかな。

 期待と少しの不安を抱いて、俺らは新しい世界への冒険を始めた。

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