第9話 採掘だっ!

───三時間くらい、走らせると目的の坑道が見えてきた。


 通常なら一日は掛かるのでかなりハイペースだ。

 そんな中、フィアは、丸まって寝ていた。…可愛いけど、こんな所で寝るだなんて図太いなこいつ。


 まだ昼間なので明るいが、他に来ている人はいないようだ。

 酒場で少し聞いたが、最近入り込んできたモンスターが縄張りにしてしまったらしく、殆どの坑夫は入れなくなって休業中らしい。


 国のギルドに依頼は出しているが、一向に音沙汰がないらしい。

 もし、討伐して素材を持ってきてくれたら、依頼に用意した金貨三枚を村長から貰えるぞとも、教えてくれた。

 正式クエストではないが、切羽詰まってる分、報酬は高めみたいだ。

 これを逃す手はない。


 入り口に着いて、中で作業中であることを示す旗を建てた。

 こうしておけば、魔獣を連れていても、あとから来た冒険者に驚かれる心配が減る。

 ニケにも、ペットである証の腕章を前足に着けておいた。


 こうしないと、別の討伐隊が派遣されかねないくらいのレアモンスターなのだ。(殆どの場合、返り討ちにしてしまうので、それはそれでヤバい。)


 さて、早速作業を開始した。


 入り口ではもう鉱石はでないし、等級も低いので奥へ奥へと進む。

 野生のコウモリとか蛇とか居たが、モンスターは全然いない。

 いても、カルマがいるので危険を感じて出てこないのかも知れないが…。


 下へ下へと進み、人工的に作られた階段を10階くらい降りた頃だった。

 どうやら、やっと目的のものがありそうだ。


「ユート、ここらで堀始める。その間の警護は頼んだぜ!」


 そう言うと、早速ツルハシで堀り始めた。ちなみにツルハシも自分で作ってるらしい。


「あいよー、じゃあ周りに何かいないか確認してくるな。カルマを置いていくから、安心して掘りまくれよー」

「助かる!そっちも気をつけてな!」


 松明を数本設置して、辺りを照らしてからフィアを連れて周りの探索を始めた。


 数分して、奥の方から唸り声が聞こえてきた。

 多分、カルマから離れたので警戒が薄まったのだろう。


 現れたのは、Bランクの魔獣のダイアウルフ達だ。あちこちにいる種類だが群れで行動するため、意外と強い。


 フィアを見て格下と分かり、すっかり気分はハンターだろう。

 しかし、それは大きな間違いだ!


「フィア、スキル〈炎体分身〉だ!」


 LBOでは、Aランク以上のモンスターが固有スキルを持つというのが常識だった。

 だが本当は違う。

 A以上の能力を持ったものが発現出来るスキルの事なのだ。


 元Cランクのフィアを極限まで鍛えた結果、ギリギリAランク相当までいった。

 結果、攻撃力を持った炎の分身を最大10体作り出せるようになった。このことは、テイマーの中でも俺くらいしか知らないだろう。


 フィアが、グアアアアアンと鳴くと同時に、周りに5体の分身が生まれた。

 同時にフィア自身が激しく燃え上がり、本来の姿に戻る。

 イエネコサイズから、チーター位まで大きくなった。


 その5体が、哀れな狼達に襲い掛かった!

 約15体居た狼達は、一匹、また一匹と丸焦げになっていく。


「でいやー!とうっ!」


 ギャンッ!!

 呆気にとられている隙に、自分も双剣で刻んでいく。統制の執れてない狼など、大した相手ではない。数分で、残り三匹となったとこで、取り逃がした。

 ​───というよりは、わざと逃がした。そうすれば、本命が現れると踏んだのだが…


「ちっ、外れか…。なら、あっちに行ってるか?」


 そういいながら、俺はガントとカルマのいる方角に視線を向けた。


 ───数分前

 カルマは主が去って直ぐに、自分に近づいてくる気配に気が付いていた。

 正直、雑魚相手など面倒くさいだけだと思っていたが、奥には採掘をしているガントがいる。

 彼の作業が滞るのは、主人が望む事ではないと理解していた。


「眷属たるクロよ、我の前に出でよ」


 そう呟いただけで、不自然な影からクロが現れた。


「オヨビデスカ」


 辿々しいが、確かに人間の言葉を発した。喋れないはずのクロがだ。


「我が眷属として生まれ変わったお前には、奥の男の護衛を任せる。傷一筋も付けさせるなよ?」


 カルマが、目をギラっとさせて命令すると、


「オオセノママニ」


 といって、地面に消えていった。


「さて…、そこに居る獣よ。我が主のため消えてもらおう」


 カルマがそう言うと、周りに魔法陣が現れた。


 奥から現れた、二つ首の獣、Aランク魔獣のキマイラが現れた。


 キマイラは、Aランクの中でも攻撃的で縄張り意識も高い魔獣だ。

 ただ、こんな洞窟で縄張り作ることはないはずだが、何かから逃げてきたのだろうか?

 まあ、丁度よい。試してやろう。と、カルマは考えながら魔力を練り上げていく。


「燃えろ。ヘルファイヤ」


 静かに、言葉にしただけでキマイラに黒い炎が纏わりつく。


 グギャアアアアアアアアアア!!と叫び声をあげるキマイラ。

 予想していたよりもダメージが大きく驚いているようだ。


「その位でまだ倒れるなよ。我も力を試したいのだ」


 そういうと、また新たな魔法陣が現れる。


「はじけ飛べ。アンチグラビティブラスト」


 瞬間、相手の中心からが逆流する重力がはじけ飛んだ。 

 その衝撃で、はるか遠くのほうの壁際まで、キマイラは吹っ飛んでいった。


 ギャオオオオオオオン。

 遠くのほうから悲壮な鳴き声が聞こえた。


「ほうほう、なるほど。だがまだまだこれからだぞ?我の心飽くまで付き合って貰おう…」


 愉快に笑うカルマの声が、洞窟内に響き渡るのであった。


 まさに、悪魔の笑いを浮かべながら、哀れな実験台のほうへ向かっていく。


「…クク、次はこれだ」


 そう、カルマの実験は、まだ始まったばかりである。

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