第10話 ナイトメアの実力
「…クク、次はこれだ」
通路の端まで吹き飛んだ相手を余裕の表情で追い込んでいるのはカルマだ。
Aランク魔獣であるキマイラ相手に、赤子の手を捻るかのようだ。
実際に勝負になっていない。
元々の実力でいえば、互角のはずなのにである。
ナイトメアは、Aランク昇格対象のレアモンスターで、Bランク最高位に位置するステータスだった。しかし、物理攻撃が効きにくい点からランク以上の強さと、魔法威力のえげつなさが他とは一線を画してた。
だがナイトメアは悪魔なので、わざと実力を隠していて、HPを半分切ると力解放モードとなり、その圧倒的実力で相手を抹殺し嘲笑うという、悪趣味な設定であった。
ちなみに、テイマーがテイムした後のナイトメアはAランクに格上げされる。
そんなわけで、最低でもAランクから始まり、一部のプレイヤーに奇人とまで言われた育成愛に富んだ主人を持った
そして…、この世界のカルマの肉体を手に入れ、悪魔としての格も上げてしまったのだった。
前までは、
地味に魔王の側近と同格である。
当然、ユートは気がついていないわけだが…
「耐えてみせよ、イビルインフェルノ」
まるで、意志があるかのように、悪魔の形をした黒い炎がキマイラの覆い被さった。
その瞬間、キマイラは絶叫をあげた。
グギャアアアアアアアアッ!!!
触れた場所から燃やし尽くしていく。
あとに残ったのは、頭が消し炭になったキマイラの死骸だった。
「この程度の相手では、こんなものか。ふむ、主のために素材は回収せねばな」
クククと笑いをこぼし、キマイラの巨体を咥えて運ぶのだった。
───カルマが去ってから、クロは、男を守るため影に潜んでいた。
一応、主人はユートのままということになっているが、眷属としてカルマに支配されているので、カルマの命令が絶対だ。
クロは、元々シャドウウルフという、歴とした魔獣だ。だから本来は眷属になることは出来ないが、闇属性と親和性が高いこと、この世界のクロと存在が重なったせいで、悪魔として生まれ変わってしまった。
それに加えて、カルマに挑んで負け、魂の存在になった際に、自分の体を捧げ契約してしまったのだ。
そんなわけで、今のクロはいつの間にか種族が代わり、デーモンウルフとなっていた。
見た目は全く変わらない。だが、特性が変わり物理ダメージが効きにくいという、ナイトメアと同じ特性を持ったようだ。
そのうえ、スキル〈影潜り〉を習得し、いつでもどこでも影という異空間内に潜むこととが出来る。
それを利用して、さっきから近付く魔獣をハントしていた。
今も、2匹のダイアウルフの斥候が近付いて来ている。
あと3m、2m、1m…
グアッと、影から飛び出し、ダイアウルフの一匹の喉元を喰いちぎった。
驚いているもう一匹にすかさず、前足の黒いオーラを纏った爪で一薙ぎし、体を二分させた。
「コレガ、イマノワレノチカラ…」
誰に言うでもなく、呟き自らの力を確認する。そして、自分の本当の主人、カルマに認めてもらえる事を夢想しながら嗤うのだった。
…ユートの知らないところで、ヤヴァイ奴がひとり増えた。
後ろの戦闘など気にしない、というよりも聞こえていなかったガントは、順調に採掘を進めていた。
掘って鉱石を見つけては、ゲンブのカーゴに放りまた採掘を再開する。
数時間掘ったころには、カーゴの中にある採掘BOXは一杯になってた。
フォージ(炉)で溶かさないと、これ以上は採掘しても持っていけない。
「そろそろ、ユート達戻ってくるよな。少し休憩するか」
そう言いながらガントは、水筒で水を飲みながら、近くで腰を下ろした。
しばらくすると、大漁のお土産と一緒に予想通りユートが帰ってきた。
「えっと、なんかすげー増えてないか?」
見ると、フレイムキャットが11匹に増えており、その口には、仕留められたダイアウルフがそれぞれ2、3匹ぶら下がっている。
さらに、入り口で合流したらしいカルマも何やら大物を咥えていた。
「いやー、素材を入れるにも多すぎてさ、そのまま持ってきたんだよ」
さすがの光景に、ガントは唖然としてた。
「つか、なんでフレイムキャット増えてるんだ?」
「あぁ、これはフィアのスキルなんだよ。一時的に増やせるんだよ」
顔を引き攣らせたまま、そ、そうかと呟いていた。
さらに奥に目をやり。
「で、カルマが咥えてるのは?」
「例の縄張り作ってたやつだよ。カルマを襲ってきたらしい。種族名は…確か、Aランク魔獣のキマイラだ。皮素材はこれでいいな」
全員ほぼ無傷でこのフロアに巣食ってた魔獣を一掃したというユートが、噂以上に規格外だと思い知った。
ガントは混乱して忘れていたが、来る途中にユートという奇人のテイマーの話を思い出していた。
なんでも、テイマーとしては異質のSランクテイマーがいて、そのペットはどれもおかしなほど鍛えられていると。
その実力を成果だけで充分に理解できた。
「あんた、やっぱ噂通りやべーな」
「あれ、俺のこと知ってた?まぁ、凄いのはペット達だけどね。ははは」
そいつらを使役してる事が、すげーんだよ!と心の中で言っておいて、カーゴのBOXがいっぱいなので、そろそろ溶かさないとこれ以上は採掘出来ないことを説明するガント。
「そっか、この短時間でもう一杯か。ガントも何気に優秀だなぁ。よし、獲物を解体してカーゴに収納したら、フィアで携帯フォージに火をくべよう」
「ああ、助かるよ。解体も俺にやらせてくれ。その方がスキルある分良い素材をとれるはずだ」
「分かった。このフロアは殲滅したし、暫くは安全だ。時間は気にしないでやってくれ」
「りょーかい。任せてくれ」
ユートは、カーゴに獲物入れを作ってそこに一旦全ての獲物を入れた。
その後、ガントも入ってもらい、素材の採取をしてもらう事にした。
「主、我とクロで見張りをしますので、少しお休みください」
「お、気が利くなカルマ。じゃ、気兼ねなく休ませてもらおう。お前がガードしてるなら、ドラゴンの大群でも来ないと出番すら無さそうだしな」
何となしに、さっき合流したときにカルマのステータスを確認したら、自分がタイマンしたときよりも格段に上がっていてちょっと吹いた。
あれで本気じゃなかったんだな。なんという怖い奴だ。
自分のペットで良かったと思いつつ、少し休憩に入るのだった。
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