第7話 鍛冶屋とテイマー

「なあ、あんたももしかしてプレイヤーか?」


 突然、横から声が掛けられた。

 見たところ自分よりも少し若いくらいの冒険者がビールを飲みながらこっちを見ている。


「私ですか?…あなたは?」


 まずは、誰だと言外に告げて、話を促した。初対面の人と話す時の基本だよね。


「あぁっ、いきなり済まんな。俺は、ガントって言うんだ。職業は、ブラックスミス。つまり鍛冶屋だ。あんたは?」


「私は、…ユートです。職業は調教師テイマーです。ですか?」


 一瞬、本名を言いそうになったが、相手もどう見てもキャラ名を言ってきたのでこちらもキャラ名で答えておく。


「あぁ、俺もそうなんだ。一昨日までは普通にゲームしてた筈なのに、いきなりブラックアウトしたと思ったら、次に気が付いたときこの村の中で倒れてたんだ。訳も分からないまま、村を彷徨いてたら、厩舎の方でモンスターが暴れてるって村人が騒ぎだして、なんかのイベントかっ?!って思ったらナイトメアがいてビビったよ…」


 『あ、それうちの子です。すいません』と心の中で謝っときつつ、カルマが言っていた冒険者ってこの男のことかと気がついた。


「その時に気が付いたんだ。ステータス表示が消えてることに。インターフェースが変わるなんてざらにあるが、なんの告知もなしに、しかもオプション表示も消すなんて。あり得ないじゃないか?!

 しかもさ、厩舎から芳しい臭いするし、これは、ひょっとしてひょっとするのかと思ったよ」


 そのあと、金が無くなって困って材料売っ払っただの、野宿してたら村人に泊めて貰えただの、ここらのモンスターには勝てなかっただの、途中から愚痴になっていた。涙目になりながら話すガントに同情し、仕方無いので一杯奢ってやった。ついでに飯もつけてあげた。


「あんた、いやユートさん、優しいな。久々に人の優しさに救われたぜ!」


「はは、大袈裟だな。ところでガント。君は、鍛冶屋だよね。防具は作れるかい?」


 もともと、装備を整えるつもりだったのだ。頼めるなら、それに、越した事はない。


「もちろんさ。『裁縫師テイラー』と『革加工レザークラフト』スキルも持ってるから、テイマーに適した革装備作れるぜ」


「うん、いいじゃないか。それじゃ、お願い出来るかい? お金も勿論払うよ。ただ、そこまで持ち金ある訳じゃないから、お手柔らかに頼むね」


 頭をぽりぽりし、苦笑いしながら頼んだ。稼ぎ方がまだ分からんし、ありのままで話しておく。


「もちろん、引き受けたっ!って、言いたいとこなんですが…」


 え、まさか断られる?

 ここは、金なんかいいですよっ! の流れだろと勝手な事を考えてたら…。


「…いやー、ほらさっき言ったじゃないですか、材料売ったって。あはは」


 あー、はいはい。確かに言ってたね。

 って、あほー!材料持ってない鍛冶屋スミスなんて、ただの村人じゃないか!


「さっき言ったとおり、ここらのモンスターには歯が立たなかったので、危なくて材料取りにも行けないですし、手持ちもないから買うことも出来ないんです。そこで、ユートさん。一緒に材料取りに行ってくれませんか?」


 なるほど…。考えたら、いい材料手にいれて渡したほうが効率は良さそうだし、買うより安いし、期待できる品質も高い。

 それなら、断る理由もないな。


「よし、いいよ。付き合うよ材料集め。何が必要なんだい?」


 喜びに、顔を明るくしてガントは、抱き付く勢いだったので、どうどうと、止めて話を促す。


「えっとですね、丈夫な金具を作るのに鉱石類が必要ですね。あとは、魔獣の革ですかね。今着てるのは、…B級魔獣の革鎧ですね。うんそれなら、Aランク以上ならどれでもグレードアップ出来ますよ」


 鑑定も持ってるようで、見ただけで性能を正確に見抜いている。なかなか、職人としては腕が良さそうだな。

 これなら期待できるな。


 武器の方は、今は作るより整備して使った方がいいと言うことだった。

 ただ、弓が無くなっていたので、小さめのボーガンを作って貰う事にした。

 全部で、銀貨30枚で手を打った。


「じゃあ、明日の朝、ここで待ち合わせよう。朝食がてら、どこを探索するか決めよう」


 俺が提案すると、ガントとそれでいいと頷いた。

 しかし、そのあと遠慮なく言い放った。


「ついでに朝飯も、奢ってください!」

「ったく、しょうがないな。いいよ、前金がわりな!」

「あざーす!」


 苦笑いしながらも、嫌な気持ちもせず承諾した。

 こーいう、気を使わないで済む相手は色々と楽だ。

 飯も食べ終わりビールも空になっていたので、今日は寝ると告げてその場で別れ宿屋に戻った。


 ベットは、まぁ普通かな。

 野宿しないだけましと思おう。

 風呂はないので、桶にお湯を貰い、体を拭ってスッキリしてから眠ったのだった。

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