第2話 転生した?
───どのくらい時間が経ったのだろう?
何が起きたのか全く分からない。
ログアウトしようとしたら、まずメニューが目の前から消えていた。
現実で何か起こってるなら逆に強制切断されて戻ってるはずだし、何かがおかしい。
ずっと、真っ暗な空間にふよふよ浮いてる感覚なのだけど、自分で動くことは出来ない感じだ。
そういや、ニケはどこに行ったかなぁ。
こんなバグでデータ消えたとか言われたら、かなりショックで暫くは立ち直れないかもしれない。
現実の自宅のマンションではペット禁止なので、ニケは自分の中ではペットのように可愛がっているのだ。それなので、かなり愛着がある。
他にもテイム済みの子は沢山いる。
Aランクへの昇格試練相手のナイトメア。こいつは大きな馬の姿をした悪魔で、身体のまわりに禍々しいオーラを纏っている。見た目はかなりいかつい。触れると体温は感じられず、ややひんやり。
何気に高位の悪魔らしく、話すことが出来るらしい。
…まぁ、まだ喋ってるの見たことないけど。
懐くまで(命令をちゃんと聞くまで)かなり掛かったし、こいつも色んな意味で苦労したので失いたくない子の一人だ。
他にも小型の竜の子供とか、浮かんで移動するコンテナを背中に背負った亀の魔物とか、影に潜んで移動できる黒狼とか、炎を纏って攻撃する鳥と猫とか、氷系魔法が得意な白い大きな犬とか、あとは可愛い系のペット動物が多数いる。
どれも想い出があり、失いたくない。(そもそも全部レア生物だ)
そんな事を考えてたとき、いきなり辺りが光に包まれた。
うわっ、眩しい!
とか思った次の瞬間、地上に戻ってきていた。
「うおぉ、良かったー!
戻ってきた!」
思わず一人なのに叫んでしまった。年甲斐もなくガッツポーズもして
ちょっと恥ずかしい。
あっ、ニケニケ!どこにいった?
おーいニケーって呼び掛けたら猛ダッシュでこっちに来た。
うんうん、今日も可愛い。
いいこ、いいこ。
ふと、微かに甘い香りがする。ん、いい匂いだな~。
あ、これニケからだな。背中にダイブしてもふもふした。
…あれっ?匂い??
このゲームで匂いって、そんな機能なかったはずだが。
くんくん、…たしかに匂いがする。というか、手触りが急にリアルになった気がする…
辺りに吹く風も、草原の匂いも、現実と変わらないくらいリアルだ。
自分の姿を確認する。
うん、丈夫な魔獣の革の装備なんだが、今まで無かった傷跡や、ほつれがある。
というか、腕に産毛とうっすら浮き出る血管。現実で見慣れた自分の腕だ。
さっきまで、もっと綺麗な肌してたのになー、あははははー!
…って、現実逃避してる場合じゃない。
なんだなんだ、なんなんだーーーー!?
ぜーはーぜーはー。
うし、深呼吸。
すーはー。
よし、落ち着いた。
んー、考えたくないが、なんか変な世界にとばされた??
ここはゲームの世界ではないのか?
そんなまさかね・・・・・・。
あ、そうだ、メニューバーどこだ?
…じーーー。
でない。
持ち物は…
装備してる防具と、右腰に差してた杖。背中に双剣。弓は、さっき装備してなかったし無いな。
うーん、矢筒も無いな。
左腰に、すぐ使うアイテム用の袋、中身は薬草類とニケの餌だな。
お金は1枚も入ってない。
今日倒したモンスターから出た宝石と素材もここにはないな。
ストレージに入れてたけど、無くなったのか?
そんな事を考えながら、ふと右手を見る。
なんか見たことの無い紋様が刻まれてた。
じーーーっと見てると、ふわっとそこから複数のアイコンが出てきた。
それに指で触れると、馴染みのメニューが出てきた。
はー、良かった。
原理はよく分からないけど、たぶんゲームの中なんだな。
しかし、五感のうち、嗅覚と味覚は実装されていなかったけど、なんかで実装されたんだろうな。
指をぺろっと嘗める。
うん、少ししょっぱい。
おーー、これは町のレストランの料理味わえるんじゃないか!?
結構気になってたんだよな、どんな味するんだろうとか。
とりあえず、さっきまで村にいたはずだが、近くの草原に飛ばされたみたいだな。村を探して、ニケ以外のペット達を確認しよう。
世界が変わる時には夜みたいに暗くなったはずだが、今は昼間のようだな。
ニケに乗り空に上がると、近くに村が見えた。良かった、そこまで遠くには飛ばされてなかったようだ。直ぐに村まで飛んで移動した。
───村に入ると、ニケを見て皆が大騒ぎし出した。
「ま、魔物の襲撃だー!! 」
「キャー、なにあれ!見たこと無い魔物よ!」
「わーん!おかぁさーん!!」
…うん、パニックだね。
今までこんな事なったこと無いんですが…。
急に反応をリアルに変更しないで欲しいな~と思うんですよ。
仕方無いから説明しないと。
あと、うるさいし。
「あ、あの。この子は大丈夫です!私のペットですので!!暴れないし、安全です!!」
ニケから降りて、村人を説得した。
こういう時は丁寧語に限るよね。
話を聞いてる奥から、ひとりの村人が声を掛けてきた。
「あ、旦那!お帰りでしたかっ!」
あれは…、確かペット厩舎の主人だな。
良かった~、自分を知っている人がいて。
「あー、厩舎の主人。いま、貴方に会いに行こうとしてたんだ。取り敢えず、周りのみんなに大丈夫と説明してくれないか?」
取り敢えず、この事態をどうにかしたい。
「分かりましたよ。ほら、お前ら。俺んとこの御得意さんの高位テイマーさんだよ。この人のペット魔獣だから大丈夫だ!」
お前がそう言うならと、村人は安堵して家に戻っていった。
「いやー、助かったよ。まさか、こんなに騒ぎになるとは思っていなかった」
「旦那も正面から歩いて来てくれれば、こんなに騒ぎにならないんですよ。そうじゃないと魔物の襲撃かと思いますよ」
「あはは、ごめんごめん。悪気は無かったんだよ。次からはそうするよ」
というか、前まではこんな騒ぎにならなかったと思ったんだけど…。
「ああ!そうだ、旦那に伝えないといけないことが…」
「ん、なんだ?」
なんか、嫌な予感。
「ええと…取り敢えず、厩舎へ来て下さい」
そう言う主人についていき、厩舎に来た。
うん、一言で言うと廃墟寸前。
さすがにここまでボロい建物では無かったはず。
「これ、どーしたんだ??」
「いやですね、昨日まではなんとも無かったんですよ?それが今朝になって…」
主人は言いづらそうにしている。
なんだ?嫌な予感って、だいたい当たるんだよねー。
「昨日までは、餌を残すくらい元気が無かったので心配してたのですが、朝の餌やりのときに飼育クスリタルから出したら、急に旦那のペット達が暴れだしまして…」
あわわ。
「ナイトメアと、フェニックス、シャドウウルフ、ホワイトファングが散り散りに逃げてしまいまして。そのときに巻き込まれてしまった他のペット達は重症になり、生き残ったのは、フレイムキャットと、カーゴタートルだけです…」
え、えーーーー!
いや、自分の主力ペットほとんどじゃん。
つか、残ったの2匹だけか。
動物系ペットは…全滅?
かなりショックだ。
つか、なにしてんの!?
「それで、逃げた先ですが…」
フェニックスは、空高く飛び去り何処に行ったか不明。マジかよ。アイツの性格的に、見つけるのは厳しいだろうし絶望的だ。
シャドウウルフは、いつの間にか消えていたらしい。もしかしたら、属性が近いナイトメアといるかもしれない。
ホワイトファングは、東の丘の方へ逃げていったみたい。あの中ではランクが低いし逃げるのも仕方無いだろうなぁ。
ナイトメアは、南の森へ優雅に去っていったらしい。
去り際に、
「主に、我を探しだし、もう一度我に勝ってみせろと伝えるがいい」
と捨て台詞を残して。
どんだけ、上からなんだ!
残った2匹はかなりの傷を負ったみたいだけど、守備がピカイチのカーゴタートルは治療魔法で治る程度だったのと、フレイムキャットは、カーゴタートルに隠れていたみたいで大丈夫だったようだ。
2匹を厩舎に再び預けて、治療に専念させることにした。
「さて、取り敢えずナイトメアの捜索かな」
俺はニケを連れて、ナイトメアの捜索をすることにしたのだった。
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