負け続けた男の甲子園

無月弟(無月蒼)

奪われたエースの座

 どんな強打者でも必ず抑える絶対的なエース。それが俺だった。


 テレビで見た、甲子園で野球をする高校生の兄ちゃん達に憧れて、始めた野球。

 そうして入ったリトルリーグチームで、俺はメキメキと実力をつけていって、五年生になる頃には六年生を差し置いて、エースピッチャーの座に君臨していたんだ。


 誰よりも速い球を投げて、誰よりもコントロールが良かった俺。だけど、六年生に上がった時、状況は一転した。

 新しくチームに入ってきたアイツ。俺よりも速く、そしてコントロールのいい球を投げることができたアイツは、それまで不動のものだったエースの座を、あっさり奪っていってしまった。


 俺が負けるなんて、何かの間違いだ。

 心の中でそう叫んだけど、現実は変わらずに、俺は産まれて初めて挫折と言うのものを味わわされた。

 子供の遊びと言ってしまえばそれまで。だけど俺は自分の腕に絶対な自信を持っていたし、それ故に負けた事が悔しかった。だから……。


「俺はまだ、こんなもんじゃねーぞ!」


 練習が終わって、帰り支度をしているアイツに向かって、言ってやった。


「今回は負けたけど、いつか……いつか必ず、お前を追い抜いてやるからな。最後に勝つのは俺だからな!」


 それはただの負け惜しみ。傍から見れば酷く滑稽で、きっとその様子を見ていたチームメイト達は、俺の事を笑っていただろう。ただ一人を除いて……。


「分かった、楽しみにしているよ。でもこっちだって簡単には負けないから。どっちが強くなれるか、競争だ」


 アイツだけは笑わずに、そう言ってきたんだ。

 何が簡単には負けないだ。次に勝つのは俺なんだから、覚悟しとけよ!




 ……それは遠い日の思い出。小学生だった頃の出来事。


 絶対に負けない、追い抜いてみせると、粋がっていた当時の俺。

 それから時が流れて、小学校も、リトルリーグも卒業したけど……。


 結局俺は、最後までアイツに勝つことはできなかった。

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