日常㉚
ふと、松木がパソコンの方に向かってパソコンを起動させたので俺は気になって声を掛けた。
「松木、どうした?四川省でやるのか?」
「あれを楽しんでやりたがるのは、志村夫妻くらいだよ。ちょっと、思い浮かんだことがあってな」
「聞かせてもらってもいいか?」
「前にお前が俺らに発破を掛けただろう?」
少し前だが、闘争心を煽る為に俺が発破を掛けたのはあるけどそれがどうしたというのだろうか?
松木もちゃんとした考えがあるのと思い、茶化すことなく聞くことにした。
「やったな。それでお前はどうやってみんなを煽る気なんだ」
「なんで煽るのが前提なんだ……まぁ、間違ってないけど。俺は目に見える形で煽ってみようと思ってさ」
「見える形?」
「実は、少し考えてはいたんだよ。これだ」
俺とひとみは、松木の下へ行きパソコンの画面を見ると。
「これ、松木先輩が考えたんですか?良いと思いますよ」
珍しいくらいに奥様も同意し。
「これなら、いい意味でも煽ることが出来るな。ナイスだ松木!」
俺は、つい嬉しくなって松木と手を張り合わせた。
嬉しさが上回ってしまったが為に、松木の方が手に痺れが飛んだようだった。
「お前は、少しは手加減というものを覚えてくれないか?言動も」
「残念だが、それが出来たらとっくにしてるしひとみにも手加減が無いくらいなんだが?」
「もう~、それは言っちゃダメ」
俺らと松木のやり取りを見ていた連中は、盛大なため息をついていたのは、この後に訪れる光景を予想できたから。
「な、なんか……言い出した俺が悪いみたいになってるけど!?」
「そりゃ、余計な事を言った松木先輩が悪いに決まってるじゃないですか」
「2人がいるのに地雷を踏む奴がいるか」
「俺、志村の言葉にも対応しないといけないの?ハードモードとかそうゆうレベルじゃないだろう……」
ってことで、討伐を成功させてると同時に昼休みのチャイムが鳴った。
それぞれが、教室に戻る準備をして俺とひとみで戸締りを終えるとひとみが俺に抱きついてきた。
「どうしたんだ?」
「もしかしたら、色々と聞かれて大変かもしれないから補充してあげたくて♪」
「なら、チャイムが鳴るまでギュッとさせて欲しい」
「はーい♪」
ああ、本当にこの時間が幸せの時だって実感できる。
些細なことかもしれない、でも俺にとってはひとみの癒しが他の癒しに変わるなんて存在しない。
だからと言って俺だけが、貰ってばかりいる訳にはいかないからひとみが望むことは叶えてあげたいのだ。
まぁ、当の本人は俺がいてくれるだけでいいとは言ってくれているが、それは俺も同じで他にひとみに望むことはほぼない。
名残惜しいが時間が来てしまい、俺らは一旦離れると恋人つなぎをしながらひとみの教室に向かったのだった。
5限目の休み時間は何事もなく、過ぎていき午前中の喧騒は一体何だったのかと思うくらいに教室内は穏やかな雰囲気だった。
その理由は、ある人物によって解明されることになる。
「志村、悪いちょっといいか?」
「ん、星野?どうし……その紙ってもしかして?」
「実は、志村と松木が生徒会室に行ってる間に他のクラスが来てな、これを渡してくれて頼まれた」
「中身は確認したのか?」
「一応な、あまりにも酷い内容だったら俺達で突っぱねるつもりだった」
「他のみんなにも期待に添えられないかもと言ってはあるけど、サンキュー」
紙を俺に渡すと、星野はいつものメンバーの所へ戻って談笑を始めていた。
俺は、受け取った紙を確認すると落胆するまではとはいかないけど、楽をしたいっていうのが伝わってくる。
正直言うならば、甘えが酷すぎるのがあると思う。
時期がズレてしまったとはいえ、3年生はあくまで自由参加な訳で特典もついてるから出たくなる気持ちは解るが、でも内容に書いてあるようなことでは俺と辻ちゃんの元々の提案がぶち壊しなのは明白であった。
少しばかり、険しい顔をしていたのか松木が俺の所へ来て紙を見ると『はぁ~』ってため息をついていたのは意外だった。
内容に関しては、松木としては寧ろ優遇されるような事案ばかりだったから。
「志村はこれ見てどう思ったんだ?俺は正直ふざけてる思ってる」
「てっきり、こっち派かと思ったんだがな」
「確かに普通に考えればそうだけど。今回は俺らは優遇されているのにこれ以上のことを望むのはおかしいと思うだけ」
「それに関しては俺も同感だな。この流れだけなら俺らのクラスだけの話だったけど、もうこれは3年生全体の問題と学校側の配慮から成り立っているんだから」
「で、どうするんだ?」
こんなのは誰がどうやっても答えは一つ。
「悪いけど、今以上は無理だと思ってる。けど」
「けど?なんだよ歯切れが悪いな。今更お前が何を言ってもそんなに驚かないから言ってみ?」
まぁ、松木は誰かに言う人間ではないのは理解してる、それに行ったら自分がどうなるかはわかり切ってるからこその言い方になってるはず。
なら、ここまで聞いてくれた松木に対する対価を払うとするか。
「俺の個人的なお願いは通してもらうつもりでいるが、無理なら引き下がるつもりでいるけどな」
「今の言い方で何がしたいか理解出来たよ、今回のことはいいと思うぞ」
「松木、今ので理解できたのか?」
「志村が後輩の為に何かを残したいって気持ちがようやく分かってきたよ。そうゆうことだろ?そして、お前の為にもなるということで間違いないか?」
俺は、椅子の背に自分の身体を押し付けて首を天井に向けた。
まさか、ここまで完全論破されるなんて思ってみなかった、だからこそ返す言葉が出てこないのだ。
正直、俺は松木にそこまでのことを望んでいる訳ではなかった。
一緒に残りの時間を部活してくれればそれだけでいいと思っていたから、松木自身がここまでの成長をするなんて考えてすらいなかった。
いや、成長って言葉は失礼だな。
きっと、元々は言える奴だが言う機会が極端に少なっただけで、俺が見えてなかっただけ。
そんな思いにずっと更けている訳にもいかないので俺も答えを返す。
「そうだよ。だが、それはギリギリまで言わないつもりでいるから松木もそのつもりでいて欲しい。あくまで通ったらの話だが」
「分かった、奥さんにも隠すのか?」
「今回は、ひとみも『後輩』だからな。言ったろ、ひとみでも手加減しないと」
「っていうか、奥さんが納得しないだけだろ?」
「お前、ひとみがこの場に居たら死んでたな」
多分、そんなことを聞かれていたらひとみが大変なことになり、俺が松木に鉄槌を下す羽目になるのだから……こいつ、本当にある意味勇者だよな。
そう、俺が個人的な提案を出そうとしてるのは生徒会メンバーの打ち上げ参加の条件緩和である。
今回の事で、1年と2年は上位3位までの入賞が打ち上げ参加の条件となっているが、今の生徒会の面子は運動面に適していないのは事実でひとみですらも正直、3位に入るのは難しいと思っている。
だが、俺はみんなに迷惑を掛けたのもあるから俺自身が出来ることはしてあげたいっていうのは本心だが、もし通っても言うつもりはないのは条件に甘えてしまう可能性があるからで、出来るならやり切った形で参加してもらいたいから。
さすがに、そこまで甘えさせるのは違うのと今の生徒会のメンバーは諦めるという言葉を口や行動に出すことは無いと思ってる。
要は、一種の後輩達への信頼の表れなのだ。俺らの後輩はそんなことで挫けたりしないのは分かってるつもりだから。
そんな思いを持ちながら、俺は校長との話し合いの時間が迫るのを緊張と期待を携えて待つのであった。
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