意外な所からの呼び出し
あんなことがあったにも関わず、生徒会室はいつもの通りだったことに安堵していたのは内緒である。
入った瞬間に、裁判が始まるかと思っていたから少しばかり気を張っていた。
時間も迫ってきたので、生徒会室からひとみ達の教室にステージを移すと秀子が俺にこんなことを聞いてきた。
「一彦先輩はもっと自信を持っていいと思うんですよ」
「へ?」
いきなりそんなことを言われて『うん、そうだね』って答えられるほど、格好いい人間ではないのは分かってるはずだが?
「自信って自分にか?」
「自分にもそうですけど、ひとみは自分の物だってことに」
……あのさ、ここが教室だってことを解ってらっしゃるのかな?
まぁ、ひとみが俺の物だっていうのは周知されているだろうけど。
ここが生徒会室ならまだ弁解の余地も多少はあるけど、この教室で言うことではないと思うが今更感が凄いので諦めることにした。
「そうだな、みんなには少しだけ話すけど誤解しないで欲しいんだ」
俺は、自分の抱えてるものを少しだけ吐き出すことにした。
「俺は、この学校に来るまで『人』を信用してない所があったんだ」
「「「え?」」」
美優、かおり、アッコが驚きの声を出す中で秀子と洋太は普通にしていたのが気になったが、俺は話を続けることにした。
「だから、今回のことが俺の功績って言われてもピンって来なかったのと個人的な事情があって、あんなことになってしまったが今はそんなことは無いから安心して欲しい」
「本当は、今回の事でお仕置きを考えてましたが理由があったようなので今回は無しにしますが、今度したら分かってますね?」
「今回の分は次回分に取っておきますので」
「全く、仕事中に考えた意味がないじゃないですか!」
これを聞いて思ったことはたった一つ……立ち直っててよかったなって思う。
かおりの言葉にはかなりの本気度が見えるし、アッコはそれなりのことを考えていたはずだが、一番問題なのは美優……仕事中にそんなことを考えるなよ……
って、あの忙しい中で考える余裕があるのも凄いけど、それを称賛していいのか非常に悩む所なんだが……
「みんな、俺のなんかの為にありがとうな」
「一彦先輩がしてくれたことの方が大きいのでまだ足りないくらいですけどね」
「だから、俺は何もしてないんだけど」
簡単に絆されないのが俺の頼もしい後輩連中であるからこそ、ひとみを安心して預けることが出来る。
HRのチャイムが鳴り、俺と洋太は教室を出て各々の教室へ向かう最中に、俺は洋太に気になったことを聞いてみた。
「なぁ、さっき俺が言ったことで洋太と秀子が驚いてなかったけどなんでだ?」
「確証はないんだけど、もしかしたらそうなのかなって思ってたらその通りだったからさ」
「秀子もか?」
「そうだな、なんせ一彦の身になるくらいだからな」
「そうだったな」
あの件、洋太なら知ってるかもしれないと思い、疑問になっていたことを切り出す。
「なぁ、秀子が俺のことを名前で呼んでるんだが理由知ってるか?」
「いや、俺もびっくりしたけど俺達は対等だから気にすらしてなかった」
「そうか、無粋だったな」
「気にするな。今日はどうする?」
この『どうする』って言葉は俺らにとっては『昼飯はどうする?』の解釈となり、大概がひとみの教室か生徒会室になっていて、稀に俺の教室になる。
割合にすると、7:2:1となるのだが野球の打率に換算したら超安打製造人間だなって思ってしまうが、そんな人間は人間じゃない……ロボットだよな絶対……
無駄なことはささっと忘れて洋太の問いに答えるとしますかね。
「偶にはみんなで生徒会室で食べるか。俺から直接伝えるよ」
「メールでよくないか?」
「俺がひとみに会いたいだけで、悪いが伝言がついでだ」
「やっぱり、一彦はそうでないとな。了解だ、頼んだ」
「ああ。じゃ、昼に」
洋太が自分の教室に入ると俺は、少しだけ足を早めて自分の教室に入る。
そのまま、携帯を開きひとみに『あとで会いに行く』って送ると『待ってる♡』って返ってきて、顔が嫌でもにやけてしまうとそれをクラスに連中にしっかりと見られていた。
『相変わらずラブラブだよな』『でも幸せそう』『カップル選手権に出したい』なんて声がちらほら聞こえる中、いつも3人が俺の所にやってくる。
「先週は色々大変だったみたいだけどもう大丈夫みたいだね」
「あんな志村は初めて見たよ。まだ、俺の知らない一面もあったんだな」
「お前を拗らすと大変だって言うのがようやく理解出来たよ」
初野さん、星野、松木である。
最早、〇チョウ俱楽部の流れであるが誰がどこのポジションなのかはわからないが、1人だけは嫌でも分かる……ドンマイ、松木。
「本当にすまなかった。でも、もう大丈夫だからさ」
「志村君が気にしてないなら私達も気にしないから」
「あ~、小・中学の連中に今の志村を見せてやりたいよ」
「それはやめてくれ。いいんだよ、今こうやって認めてくれる人達がいるんだから俺はそれだけで十分だ」
そうだ、過去を振り返っても意味もないし、大事なのは今だって教えられたのだから、今の人達を大事にするの事が俺がこの先歩いていく為には必要なんだと。
そんな話をしていると、辻ちゃんが入ってきた。
どうやら、話し込んでる内に意外と時間が経っていたらしい。
楽しい話なんて、あっという間に時間が過ぎてしまうから勿体ないくらいである。
だが、辻ちゃんは必要事項を告げると『志村』と、またもや名指しで呼ばれたが今度は一体何よ?
もう、何が来ても全力でカウンターするだけ。
どんと来い!!どーんってな!
「今日の放課後って時間あるか?」
「ええ、部活に出るだけですから問題ないですが」
「そうか、なら3時半になったら校長室に来てくれないか?」
いや、確かにどーんって来いって心の中で言ったけどさ……まさかの校長室ってなんで?
とうとう、疑似夫婦の件で文句が飛んでくるのかな?今更だから撥ね退けるけど。
と、俺は自分の中で自己完結をしていると辻ちゃんが俺に告げたことが。
「マラソン大会の件で色々と話し合いたいそうだ」
「わ、分かりました」
「ああ、言っておくがお咎めとかではない。発案者の意見が欲しいってことだ」
「大丈夫ですよ、腹は括ってますから」
「不安なら職員室に俺がいるから声でもかけてくれ」
そう言って、辻ちゃんはそのまま授業を始めた。
うん、担任の授業が1限目にあるとしても流れがあまりにも雑過ぎないか?
1限目の授業が終わったらひとみの所に行こうと思ったらクラスの連中に捕まってしまい、動けなくってしまったので『3限目が終わったら行く』って伝えた。
当然、連中が聞いてくるのは『あれ』の事でしかないのだが……俺も聞きたいくらいだよ……
「で、志村はマラソン大会をどうするつもりなんだ?」
「どうするって……まぁ、当初の予定はクリアしてるからなー」
「それじゃ、完走時間を延ばすように言ってくれよ」
「まぁ、言うだけ言うけど期待は出来ないぞ」
「ダメなら頑張るけどさ。出来たら頼む」
「ああ、出来る限りやってみるよ」
クラスの要望も聞き入れた上で、俺は自分の思いも考えていた。
2限と3限は、そつなく授業をこなして3限目を終えるとすぐさま教室を飛び出して、ひとみの所へ向かった。
飛び出した理由は、2限目を終えたら他のクラスまで来る始末なので、3限目が終わったら逃げ込む作戦に出たのだが、さすが復活したとはいえ、あれはあれで辛いものがある。
階段を上がり、ひとみのクラスが見えると既にひとみが俺を待ってくれていた。
「おかえりなさい、あなた♪」
「ただいま、ひとみ。少し休ませてくれ」
「中へ入って休んで」
逃げ込みたい一心でひとみの机に座るなり突っ伏してしまった。
「あなた?体調でも悪いの?」
「いや、ちょっとした問題が起きてな。その対処に追われてた」
「問題?対処?」
「マラソン大会の件で校長が俺に意見を聞きたいらしんだよ。それで、うちのクラスや他のクラスが俺に要望を言ってきてさ」
「そうなのね、お疲れ様♪私に出来ることはある?」
あるよ、あるに決まってるじゃんよ。
この疲れを癒してくれるのはひとみしかいないし、ひとみの温もりがあれば俺は元気でいられるんだから。
我が儘を言えって言われるのもあるから言ってみるかな。
「少しだけでいいから抱きしめて欲しい」
「そんなことでいいなら私にすぐ言えばいいのに♪抱きしめてあげるから起きて」
俺は、身体を起こすとひとみが俺を包むように抱きしめてくれると同時に耳元でこんなことまで囁いてくる。
「ねぇ、少しでいいから胸を触って」
「いいのか?」
「うん、見えないようにするから」
「少しだけ補充させてくれ」
「はい♡」
奥様の粋な計らいに俺は、抱きしめるフリをして奥様の双丘に触れていた。
本当ならば、もっと堪能したいくらいなのだがバレると色々と面倒なのでバレない程度に抑えた。
抱きしめてくれたおかげで体中に生気が戻ってきたような気がしたので、ひとみに感謝するばかりである。
「ありがとう。これで4限目は頑張れる」
「よかった♪そういえば、他に伝言があるんじゃないの?」
「ああ、そうだった。洋太がみんなで昼を生徒会室で食べないかって言ってるんだがどうする?」
俺の問いに対して、彼女である秀子は当然の一発OKでみんなも『いいね』っていってくれたので、戻り際に洋太のクラスに行って了承を得たことを伝えたのであった。
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