恋人の戯れ

 いつもの公園で俺は、ひとみに今日の出来事や今後の流れを説明をすると意外なことに、ひとみは俺のやることには一切の文句はなかったのでびっくりした。


 てっきり『あんなことはもう嫌!』って言うかと思っていたから。


 なので、ひとみの気遣いに感謝してひとみを優しく抱きしめてあげると、ひとみも応じるように抱きしめてくれた。


「あなたは、私が欲しかったものがなんで分かっちゃうのかな~」

「残念だけど、今回は俺がしたいだけ」

「そうゆうことにしておくね♪ねぇ、あれの交換しない?」

「そうだな」


 2人で鞄から先ほど購入したシュシュを取り出すと、ひとみは俺の手首に緑色のシュシュを付けた。


「ひとみ、ありがとう。大事にするから」

「卒業するまででいいからね」

「それは俺が決めることだな。ひとみ、後ろ向いてくれるか?」

「今日は、本当に怖いくらいに察しがいいんだから……お願いします♪」


 ひとみが俺に後ろを見せてくれると、ポニーテールになってるのでうなじが色っぽく見えてしまい、一瞬だけ本来の目的を忘れそうになってしまったが理性を保ち、一度ひとみのポニーテールを解いた。


 サラサラした髪を束ねてポニーテールにしようとすると、ひとみが俺の何故かこんなことを言ってきた。


「あなた、ありがとう」

「いきなりお礼なんてどうしたんだ?」

「あなたがいつもしてることだよ♪私の夢の一つを叶えてくれてありがとうってことなの」

「夢?」


『夢』それは、小さなものから大きなものまであると思う。


 俺は、ひとみの髪を優しく梳くように触り、整えている間にそう思った。


 こんなこと言ってるが、某CMのパクリではないので勘違いしないでもらいたいがそれが分かるのは、生粋のテレビっ子くらいだろう。


 そう、俺にだって小さな『夢』くらいはあるんだから、ひとみにもあって当然だと。それが、これだとは思わなかっただけだ。


「うん、本当はもうちょっと先の予定だったのが前倒しになったのが嬉しくて」

「もしかして、毎朝俺にやってもらうつもりだったのか?」

「そうだよ、嫌?」

「嫌どころか早く言って欲しかったくらいだよ。ひとみのサラサラの髪を毎朝触ることが出来るなんて幸せなんだから」


 そんなことを言いながら、俺は束ねた髪に緑色のシュシュを髪に通すとシュシュがしっかりと主張をしていて一安心した。


 そして、一仕事を終えた俺は勝手にご褒美をもらう形でうなじに口づけをしてしまい、それが引き金となって俺の手はひとみの双丘を揉みだしていた。


「あんっ、あなた、いきなりはびっくりするから」

「ごめん、うなじ見たら我慢できなくなった」

「ねぇ、私もキスしたい……」

「俺もひとみの唇が欲しいな」

「愛してる……ん…チュ…チュッ…んんっ」


 子供っぽいキスから大人のキスに変わり、俺はキスをしながらも双丘に触れる手を止めることは無かったのは、ひとみの手が俺を刺激していたから。


 でも、こんなことは高校なら当たり前だろうと思い、お互いに行為を止める気はないが時間が近付いているので、俺から行為を止めることにした。


「ひとみ、それ以上されると我慢できないから」

「そのまま襲ってくれるかと思ったのに♪」


 ……あのさ、女の子が『襲ってくれる』なんて言っちゃダメだからね!?


 人通りが少ないのは俺も理解出来ているが、実際は誰が聞いてるか分かったもんじゃないのだ。まして、時間を見れば夜中に近い状況なのだから……


 せめて、家の中なら仕方ないって思えるのかも知れないけど外で言うのは絶対に困るが、バイト終わりの時も俺の悪ノリにそのまま乗るくらいだもんな……無理かな。


「全く、今日は驚かされるばかりだな」

「ドキドキした?」

「ドキドキというかハラハラだな。せめて、耳元にして欲しい」

「いいの?あなたのことを考えてこうしたんだけど」

「……ありがとう、俺がポンコツだったわ」


 そうだよね、耳元でそんなことを囁かれたら俺が暴走するなんて俺を知ってる人なら分かるはずで、ひとみがそんなことを解らないはずがないのだ。


 きっと、そんなことをされていたらひとみに風邪ひかせるしまうことになるから。


「あなた、そろそろ帰りましょう」

「そうだな、あまり遅くなると悪いからな」


 俺が立ち上がり、ひとみに手を差し伸べるとちゃんと手を取ってくれて恋人つなぎに切り替わる。


 どうやら、今日は恋人つなぎをしていたいようで俺は握っていた手をしっかりと握り直すと。


「そんなに強く握らなくても私は離れないから」

「分かってるよ、俺の気持ちを伝えてみたかったんだけど伝わったみたいだな」

「うん♪でも、やっぱり言葉も欲しいな」

「ひとみ、俺は絶対にこの手だけは放さないから。だから、俺のそばにいて欲しい」

「はい♡」


 家の前に着き、いつもの日課を全て終わらせて『また明日』と言ってひとみが家の中に入るのを確認すると、俺は家に向かって歩き出す。


 そして、俺は奥様から頂いた宝物を眺めながら歩いていると。


「まさか、ひとみがあそこまで独占欲を出すのは珍しいよな?多分、美優の言葉が独占欲を煽ったんだな」


 奥様が独占欲を出すとすれば、俺と美優の会話以外は見当がつかないのだ。


 別に怒ってる訳ではないが、すぐに答えが出来なかったことに自分が悔しくて取られるのが怖いから、自分の物にしようと思ったんだろう。


 そんな奥様の行動に知らぬ間に俺の頬が緩んでいたに違いないっていうか緩んでいた。


 何故分かるのかって?だって、すれ違う人がニヤニヤしてる人が一定数でいるんだから、それ以外に無いのと俺みたいな普通の顔の人間がシュシュなんてしてれば含み笑いだって出るだろうよ。


 まぁ、それをひとみの前では絶対に言えないし、言うと怒るから……普通の顔は事実だから仕方ないのだけれど、奥様がお気に召さないのだ。


 しかし、俺はそれでもいいと思ってる。


 だって、それが人間の当たり前の感情であって、その場で感情を出さなければ意味がない。


 奥様が俺に独占欲を出してくれるなんて、嬉しくて仕方ないのがあるから顔が緩んでしまうのであって、これを隠す人間の方がどうかしてると思う。


 そんなことを思いながら家に着き、妹と出くわすと。


「お兄ちゃん、それで髪を結ぶつもりなの?それとも、お姉ちゃんのぬくもりが欲しかったの?」

「おい、何を考えてるんだ思春期が。これには理由があるんだよ」


 隠すことでもないので、さらっと話してしまったが奥様のことだったから確認しておけばよかったと少し後悔をした。


「お姉ちゃんもちゃんと独占欲出すんだね」

「意外か?」

「ううん、多分お姉ちゃんの方がお兄ちゃんよりも独占欲強いんじゃないかな?」

「それに関しては、俺の方が圧倒的に強い気がするんだが」

「お兄ちゃんは、独占欲というかお姉ちゃんの幸せを考えてるのがあると思う」


 それは否定する気はないが、俺よりも奥様の方が独占欲があるっていう分析をした妹にびっくりした。


 なので、俺は妹にその理由を聞いてみることにした。


「瞳は、どうしてそう思うんだ?」

「どうしてって言われても、お姉ちゃんは何が何でもお兄ちゃんを手放したくないって伝わってくるもん。多分、同性の勘っていうかお兄ちゃん以外はそのオーラを感じてると思う」

「そう言うってことは瞳も感じてるのか?」

「私は、目の前で見てるからね。この間のご飯の時がいい例でしょ?」


 ご飯の時?……ああ、そうゆうことか。


 要は、俺の周りの人に『一彦は私の物』っていう意識を植え付けるつもりってことか。


 だから、あの時にすぐさま手伝いに向かったのか……俺が動いてるから自分も動かないと認められないと思って……はぁ~さすが奥様。


 俺の予想を超えてくれる。


 だが、そう思ってくれていると思うと胸が熱くなるのが分かり、気づけばシュシュを握っていた。


「まぁ、お兄ちゃんも独占欲の塊だからね。妹までに嫉妬しないでよ」

「ああ、気をつける……ってなんで!?」

「内緒……って誰でも分かるんだからね、家族なんだから」


 そう言って、妹は自分の部屋に戻っていたのだった。


 俺は、妹に自分の心情がバレていたことに驚愕して、少しの間その場に立ち尽くしていたのだった。

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