大事な事はちゃんと報告

 朝から本当に色々あり過ぎた所為か、今日の俺の頭は少しだけパニックを起こしていた。発端は俺なのかもしれないが……それでもあり過ぎた。


 ダブルブッキングに近い状況にあり、片方は冗談であって欲しいと切に願うばかりなのだが……この流れは正直言えば回避不可能のような気がした。


 なので、少しでも心配の種を減らすためにバイトの帰りに俺はひとみに今日のことを全て話すことにしたのだ。


 隠し事ではないのと話すところは話すべきだと自負しているから。


 という訳で、いつものように着替えを先に終えて外で待ってると、奥様が小走りで俺の所へやってくる。その後ろには美優も……ってえらくのんびりと。


「あなた、もう寒いんだから外で待ってないで休憩室で待ってればいいのに」

「分かってはいるんだけどね、癖というかちょっとした憧れと慣れかな」

「憧れ?慣れ?」

「俺らって凄い恵まれていると思うんだ、そう思わないか美優?」


 俺は、ひとみと一緒に出てきた美優に聞くことにしたのはちゃんとした理由もあるが、第3者の回答が欲しかったのだ。


「そうですね、恵まれているのは私も感じてますね。先輩の憧れは分かりませんが慣れは理解出来ます」

「流石だな、憧れまで理解されたら俺が辛いわ」


 俺と美優の会話の聞いていたひとみは首を傾げいて、その仕草に抱きしめたくなるけど美優もいるから自重しないといけないのと思考中に邪魔をしたくなかったから。


 考えというか、多分だが秀子同様で俺に成りきったら答えが出たような感じだったので、ひとみと答え合わせをすることにした。


「ひとみは俺のことが理解できたようだな」

「憧れはもしバイト先が違った時の待ち合わせの時は外で待たないといけないってことで、慣れはこの先のことを考えてってことだよね?」

「相変わらず満点を叩き出すな……先生出番ないじゃんよ」

「先生を困らせる生徒になりたくないもん♪」


 あのさ、先に行った俺が悪いのは解っているんだけど……そこで俺の悪ノリに乗ってしまうのはどうかと思うよ……だってさ、目線が。


「先輩?ひとみをこれ以上調教するのはやめて下さい!」


 ほらね、飛んでるのは分かってたけどさ。


「こら、ここでそんなこと言うな!しかも、そんなことはしてないからな!?」

「まぁ、それは置いておきますが。先輩こそさすがですよ」


 置いておくなよ………ちゃんと処理してくれないと俺が困る。


「当たり前のことをしてるだけで、普通の事だと思うんだけどな俺は」


 俺が、そんなことを言うと2人が『全く』と呆れ顔と微笑ましい顔をしていたが俺は気にしても仕方ないと思い、スルーすることを決めたのだった。


 美優を改札口まで見送ると、俺らは少しだけデートを楽しんでいた。


 駅ビルの中は、少しばかり若者向けの商品も置いてあるので俺らはのんびりと見て回っている時に俺はこんなことを言うとひとみは。


「ひとみ、ここよりも川崎に行った方が楽しめるんじゃないか?」

「ううん、私はあなたと一緒に回れるならどこでもいいの♪」

「そっか、悪かった。忘れてくれ」

「全部、私の為に言ってくれているのは分かってるからね」


 そう言って、俺の手を引っ張って店内を回っていくと『あ』って声が聞こえてひとみの目線を俺も合わせるとそこにあったのは。


「ねぇ、ここちょっと見てもいい?」

「いいよ、待ってるから見ておいで」


 ひとみが見つけたのは誰も気軽に張れるような雑貨屋さんで店頭には女性向けの物が結構置いてあったので、待ってようとしたのだが……


 すると、奥様の頬がぷくーって膨らんでいたのを見て『一緒に見て』って表現してるようで、そんな顔されて拒否できる訳がなかった。


 という訳で、奥様と一緒に店に入店する。


「ひとみが俺を誘うってことは、俺に何かを選べってことかな?」

「うん、シュシュが欲しいの。それを選んで欲しいの」

「シュシュ?ああ、髪の毛を留めてあるものだよな?」


 シュシュは、ひとみのチャームポイントの一つでもあるポニーテールを形成するに大事な物であって、毎日変えているのは判っていた。


「何個か古いのがあるから変えたいって思ってたの。それでね、あなたに選んでもらえたら嬉しいの」

「分かった、俺の勝手なイメージでいいのか?」

「あなたがセンスのないことしないのは分かってるから♪」


 全く、笑顔でそんなこと言われたらプレッシャーだが、それくらいは撥ね退けないと旦那としては情けないので、ちゃんと選んで褒めてもらいましょうかね。


 って、ひとみには内緒だが近々またシュシュが増えるんだけどな……言いたいけど言えないし、被るのは嫌だから。


 色とりどりのシュシュの中から選んだ色は、緑色だった。ライトグリーンと言った方が無難。


「あなた、なんで明るい緑なのか聞いてもいい?」


 俺がこの色をチョイスしたことにひとみが何か感じたようで、あれのことを上手く隠しながら返答する。


「そうだな、濃い色は黒髪と同化するから却下したのと、黄色と青は夏のイメージだったからこの緑なら年中使えるかなって思ったんだ。嫌だったか?」


 正直なところ、あれのことがなくてもこの色にしたような気がした。


 春夏秋冬、それぞれにあった色があるから。


 緑なら季節を問わずにある色で、無意識に四六時中ずっと俺の事を思ってもらいたいが形になったのかも。俺が選んだということを理由に。


「ううん、あなたのことだから黄色か青を選ぶんじゃないかなって予想したけど外れちゃった♪」


 相変わらず、鋭い奥様ですよね本当にさ……俺が緑にした本当の理由はまさにひとみが言った通りで、最初は黄色か青にしようと思っていたのだが『アレ』と一緒に届く物の中にシュシュがあって、その色が黄色と青だったのだ。


 なので、明るい緑にしたのは黒髪にアクセントを付けるなら明るい色でないとダメだと思った結果がこの色なのだ。


「それじゃ、買ってくるな」

「え、いいの?」

「全く、何を当たり前のことを言ってるのかな?奥様の欲しいものを買うのは旦那の役目だろ?」

「ありがとう。あ、それなら♪」


 すると、ひとみは同じ物をもう一つ持ってきて「これもお願いします」ってレジに持ってくるなり、その分の料金を支払ったのだがもう一つ買ってどうするつもりなの?しかも、自分で買ったけど……


 この時点で奥様の独占欲が発動してるなんて思いもしなかった。


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