返り討ち?

 俺とミキ兄ちゃんとの交渉が丁度終わったころにひとみと天音さんが戻ってきた。

 のだが、天音さんの顔が苦しそうな顔をしていて心配してると。


「この2人、絶対に高校生じゃない……恋愛とかそうゆうの超えてる……」


 戻ってきて言ってくるなり、一言目がそれだった。


「自分から聞きに行ったのに、見事に返り討ちに遭ったということか」

「だって、まさか朝から夜まで一緒にいるなんて思う訳ないもん!」

「え?」


 ひとみさん、貴女は一体どこまで天音さんに喋ったのよ……あの顔は付き合った当初に秀子達が『糖分過剰摂取』や『胸焼けが酷い』って言ってた頃と同じ顔してるんだが。


「夜まで一緒って?」


 それ聞いちゃう?どうなっても知らんからね俺は。


「俺らはバイト先も同じなんだ。店長にお願いされて、それをひとみに相談したら一緒に働いてくれるって言ってくれて」

「ちょっと待って、そうなると2人が離れる時って?」

「6時間くらい離れるだけかな。朝は6時半にはひとみと一緒に学校へ行ってるから」

「はい?学校ってそんなに早かった?」

「2人の時間が欲しいのと、今は麻雀部があるので朝練って感じ。あとは、ひとみが生徒会役員で俺も元生徒会なので」

「………」


 2人は、俺の言ったことに絶句しており硬直していた。


 別に、大したことじゃないのになって思ったが俺らは色々とぶっ飛んでることもあり、普通だと思ってはいけないと再認識した。


 そう考えると、今日ここへ来たのはよかったかもしれない。何故なら、俺らのことが別な角度から確認することが出来たからで、学校のメンバーでは確証にはならない場合があるから。


 でも、この人たちの場合は学校とは完全に部外者であり俺らのズレている点が明確になるから。と言っても直す気は更々ないのだが。


 いつまでもフリーズされていては困るので。


「おーい、ミキ兄ちゃん?」

「あ、ああ。すまない、あまりにも衝撃的で頭の中が真っ白になった」

「そんなに!?」

「いや、高校生で離れてる時間が6時間なんてあり得ないよ」

「出来るなら、寝る時ですら一緒にいたいんだけどね」

「「夫婦じゃん!?」」

「擬似夫婦ですから」


 ミキ兄ちゃん夫妻から『夫婦』認定頂きました。そして、綺麗にツッコミを入れる。


 これで、殆どの所で俺らが夫婦という認識が深まっていき他に言ってない所がないのではってくらいであるが、まだあったことに今更ながら気づくがいつ紹介できるのかって感じだ。


 話も全て済ませてあるので、時間も時間なのでお暇することにした。


「ミキ兄ちゃん、今日は色々とありがとう」

「2人とも、こちらこそ会えて嬉しかったよ。また、ゆっくり話しよう」

「ひとみさんもよかったら、また色々と聞かせてくれるかしら」

「私の話で良ければ喜んで。天音さん、ありがとうございます」

「それじゃ、おやすみなさい」

「「おやすみなさい、気をつけてね」」


 2人が見送ってくれて、俺らはバスを待っているとひとみがギュッと腕に抱きついて来てくれた。


「どうしたんだ?」

「充電したかったの、ダメだった?」

「ダメな訳がない。好きなだけどうぞ」

「わーい♪」


 天音さんと話したままのテンションなのかなって思うくらいに子供っぽくなっていて、俺は思わず笑いそうになるのを堪えているとひとみが。


「ねぇ、この後ってどうするの?」

「一旦、鶴見に戻ってお義母さんの所に行こうと思ってる。あの事に関して了承を取らないといけないから」

「もし、お母さんから了承もらえたら行ってもいい?」

「その為のお願いをしにいくんだから当然だろ。ただ……」

「??」


 俺は、この事を言おうか迷っていた。


 了承をもらってうちに行くのは既定路線であり、お願い自体も通ると思ってしまっている。


 けど、その後のひとみの願いは叶えてあげることは出来ないから……だから、俺は悲しい顔を見るのを覚悟した。


「今日はひとみをずっとそばに置いておく。瞳が『来て』って言っても絶対に行かせないから」

「いいよ、私だってそのつもりだったしあなた言わなかったら私が言ってた」


 ひとみの顔は、悲しい顔ではなく俺の好きな笑顔で言ってくれる。


 しかし、その笑顔が暗くなり『あのね』って申し訳なさそうな声で俺に。


「私、少し………舞い上がっていたのかも知れない。妹が出来たことが嬉しくて、もっと仲良くなりたくて……でも、その所為であなたを1人にしてしまった」

「ひとみ……」

「あなたが私を蔑ろにしないのに、私があなたを蔑ろしてたのに気づいていなかった。本当にごめんなさい!」


 一応、バス停なので人がいない訳でもないので最初は小さい声だったのが最後の言葉だけは、まるで懺悔のように聞こえてしまって胸が痛くなった。


 どうして、ひとみにこんなことを言わせてしまったのか?って胸にナイフが刺さるような感じがした。


 だが、今回に限っては悪いのは誰が見ても俺であって、ひとみが俺に謝る事ではないのだから。


 それに今回は相互理解も通用せずに喧嘩をするかもしれないが俺らがずっと一緒にいる為には、必要な事だと思うから。


「俺としては、ひとみに蔑ろにされたという感じは全くしてないんだよ。だから、気にするなって言っても無理だろうからこれだけは言わせてくれ」


 酷く落ち込むひとみの顔を目線をしっかりと合わせて俺は。


「俺は、器の小さい人間で自分がただ単にひとみを誰かに取られるという嫉妬をしているだけで、ひとみが悪いなんて思わない。俺がちゃんと言えばよかったんだ『行かないで』って。でも、それを言ったらひとみを苦しめると思って言わなかったんだ」

「あなた……それって、瞳にも嫉妬してたってこと?」

「ああ、だから昨日の俺はミキ兄ちゃんと瞳の2人に焦燥感を覚えていたんだ」


 そう、ミキ兄ちゃんに関しては誰が見ても分かるような表情まで出していたが、妹の方に関しては、家族だから『仕方ない』っていう形で感情を精一杯抑えて込んでいた。


 その結果が『ひとみが俺から離れる』という構図が浮かんでしまい、苦しんでいたのが事の真相である。


 だから、マラソン大会の件もいつもなら流すように返せたのが全てを否定するような言い方しか出来なくなっていたのだ。


 言うなれば、今日の俺の判断力は無いに等しくて、全てのことに対してネガティブな思考しか浮かんでこなかった。


 その事を聞いたひとみは。


「それでも私があなたを蔑ろにした事実は消せない。ううん、消してはいけないの。だから、改めてごめんなさい。昨日の時点で少しだけ察しは付いていたの」

「そうなのか?」

「でも、私はそれを追求しなかった。あの時に追及してさえいればこんなことにはならなかったから……だから、これだけは言わせて欲しい。聞いてくれる?」

「どんな言葉でも受け入れるよ」


 ひとみは、一度間をおいて深呼吸をして場を整えると。


「私は、この先もずっとあなた……志村一彦だけしか見てないの。私の所有権は私がこの世から消えるまで志村一彦の物なの。それだけは絶対に忘れないで!」

「……ひとみ」

「あなたが私を求めてくれるなら私は全力で応える。ね、お願いだから我慢しないで欲しいの」

「いいのか?我が儘言っても。瞳といる時間が減るかもしれないんだぞ?」

「あなたがそんなことをする人なんて私が思って?今だから言うけど、私が我が儘を言うなら私だってあなたにそうさせるからね」


 この言葉、俺がひとみと付き合った時に最初にお願いしたことで『対等』で在りたいからお願いした。


「俺は、ひとみに対して十分すぎるほどに我が儘言ってるだろ?」

「全然言ってないよ、全部私が言えない我が儘だったり、私のお願い事をあなたが私の代わりに言ってるだけで、あなたの我が儘じゃないもの」

「………」

「不安なら、不安が消えるまでずっとそばにいるから」

「ひとみ、こんなちょっとしたこと不安定になってしまう彼氏でもいいのか?」

「私の彼氏は志村一彦という人で、それ以外は関係ないの。逆に聞くけど、あなたはこんな私が彼女でもいいの?」

「いいに決まってる、俺は俺に光をくれた藤木ひとみがいてくれれば他に望むことなんてない」

「そうゆうことだよ♪最近、2人で反省することが多いね♪」

「過失割合は、俺の方が大きいけどね」


 俺がそんなことを言うと、さっきまで暗かった顔にようやく笑顔が戻ってきた。


 言い方だったり、言動がいつも俺に戻ってきたと感じているのが分かるのだろうと思い、俺もその戻ってきた笑顔に言葉で応えることにした。


「昨日から今日まで、手間かけてすまなかったな。多分、大丈夫だと思うから」

「言っておくけど、今日だけは私は頑固者になるからね」


 顔を膨らませながら、俺にそんなことを言ってくるひとみはやっぱり可愛かった。

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