訪問と依頼②
ミキ兄ちゃんに言われるままに家の中に入ると、リビングの方に招かれて俺らの対面にミキ兄ちゃんと天音さんが座る形になった。
ここまで来た以上は、尻込みしても仕方ないと思い、俺は鞄から図面を取り出してテーブルの上に広げた。
「これが、かず君が考えた麻雀台なんだね」
「というか、みんなの要望を取り入れた結果と言った方がいいかな」
「そういえば、なんで高校で麻雀なんてやってるの?聞いたからって断ることはしないから安心して」
その質問に関しては予想済みというか、誰だって思う事だから気にする事ではない。
「俺の先輩が麻雀牌を持ち込んでいて、ある時に部室でやっていたのが要因なんだ」
「それで?先生たちは文句とか言わなかったの?」
「先生曰く、頭の回転を良くするための一環だからいいんじゃないかって言ったんだって。まぁ、うちの学校は評判の悪い学校だからね」
「なるほど。でも、なんでかず君が率先してやってるの?」
俺は、今までのことを洗いざらい話すことにした。それでもしないと納得してもらえないと思ったから。
お願いしてやってもらう以上は、こちらのことを出来る限り曝け出さなければならないのは理解というか言うつもりでいたから。
それを聞いたミキ兄ちゃんは、俺らにこう告げる。
「分かった、この件は喜んで引き受けよう」
「本当に?ありがとう」
「まさか、かず君がそこまで成長してるなんて思わなかったよ」
「成長できたのはひとみのおかげなんだ」
「もう~あなたは……」
「俺は事実を言ってるだけだよ」
うちの連中が聞いたら『また惚気だよこれ~』とか言ってきそうだが、俺らの会話を聞いていた天音さんがこんなことを聞いてきた。
「ねぇねぇ、2人って付き合って長いの?」
「今月の21日で半年になります」
「は?ちょっとまて、半年って!?冗談でしょ?」
「そんなにおかしいですか?」
「はは、2人は相思相愛なんだね。3年くらい付き合ってる感じがしたんだよね天音は」
「ええ、そこまで仲良くなる秘訣ってあるの?それに今『あなた』って」
天音さんの問いに答えたのはひとみだった。
「秘訣というか、お互いを思うことが一番だと思います。それと……ねぇ、あなた?言ってもいい?」
「ああ、大丈夫だよ。自分の言いたいことを言えばいい」
「はい♪実は、私達は学校で疑似夫婦をしてまして、この先を見据えているのが一番なのと『切磋琢磨』と『相互理解』が円満の理由ですね」
「????」
天音さんはひとみが言ってることに理解が追いついていないようで、困惑した顔をしていた。
「まぁ、そのまんまの意味なので」
なので、俺が補足するように言うと何とか理解が出来たようで呆れた顔をしていたのだ。
何故、そんな顔をするのかな?
「何なのこの2人、完全におしどり夫婦じゃないの。あー、だからさっきまであんな顔をしてたんだ」
「かず君たちの言う『相互理解』だっけ?それが上手く言ってなかったってことだね」
「っていうか、それもそうだけど『切磋琢磨』なんて恋愛で使う?使うなら、ミキちゃんと義幸さんの事を言うと思うけど」
「まぁ、ことわざの使い方なんて色々あるからね。でもいいと思うよ」
「そうね、それって誰からか教わったの?」
こればかりは教わっても身に付くものではないと自分では思っている。
だって、自分が相手に尽くそうって思わなければ、そんな言葉は出てこないと思ってるし、このスタイルが全てのカップルに当てはまる訳でもないからだ。
それは、以前も言ってることだが俺らにはこのスタイルが合ってるだけの話。
天音さんの問いに俺は首を横に振り、こう答える。
「いえ、俺はひとみの為に生きられればそれだけで幸せなんですよ。自分で思いついただけです」
「ひとみさんは幸せ者ね。こんなにまで愛情を剥き出しするなんて」
「はい。私も一彦がいるなら他に望むことなんて無いので。一彦とずっと一緒にいるだけで私は心から幸せなんです♪」
「この子は、天使の生まれ変わりなのかしら」
天音さんがとんでもない事を言い出すが、その理由は俺にも理解できたのはひとみの笑顔が、まるで天使のように微笑ましく見える中に真剣さが入っていた。
「そうですね、俺からすれば女神様ですからね。ひとみは」
「こっちはこっちで思いっきり惚気てるしね。本当にお似合いの2人だね」
「「ありがとうございます」」
「息までぴったりって……なんか胸焼けがしてきた。ミキちゃん、後よろしくね」
「え~この流れで僕一人はかなり辛いんだけど……」
なんか、俺らの言葉が天音さんには過激すぎたようで奥に引っ込んでしまった。
ってことは、あいつらは俺らのこれを毎日受けてて大丈夫なのかと心配になったが気にしても仕方がないので、その考え自体を即刻捨てた。
「なんか、話が逸れちゃったけど本題に戻ろうか」
「お願いします。この図面を見て何か問題とかありそうですか?」
「そうだね、確認したいのが何点かあるから教えてくれるかい?」
「分かりました。言って貰えれば答えます」
「了解。えっと、まずはこれかな?」
気になった所を、重点的に潰していき理想の麻雀卓への道のりを作っていく。
お互いに、突き詰めること1時間が経過すると天音さんが飲み物を持ってきてくれた。
「すいません、ありがとうございます」
「凄い熱心ね、一彦君は3年生よね?どうして卒業が近いのにそんなに熱心なの?」
「俺は、ひとみを含めた後輩になにか残せたらいいなって思ってるだけです」
「そっか、良い物が作れるといいわね。ねぇねぇ、奥さん借りてもいい?」
「ひとみが良ければ俺は大丈夫ですよ。ひとみはどうしたい?」
「あなたが熱心になってる所を見たいけど、邪魔になりそうだから天音さんと一緒にいるね♪」
「邪魔なんてことはないよ。天音さん、すいませんがひとみをお願いします」
「ひとみさん、愛されてるのね」
そう言って、2人は奥の間に消えていき俺とミキ兄ちゃんの2人になった。
すると、ミキ兄ちゃんはこんなことを言ってくる。
「こんなに出来るならもっと自分に自信を持たないと勿体ないよ」
「俺からしたらミキ兄ちゃんは完璧人間で、女の子はそうゆう人を求めてしまうんじゃないかって思ってたんだ」
「だから、あんな顔をしてたのか。今のかず君なら僕よりも格好いいから」
「そんなことないよ。俺はひとみがいなかったらダメ人間のままだったから」
今こそ、俺を慕ってくれる?人達はいるがそれは『藤木ひとみ』という存在があってのことで、俺の力なんて大したことではない。
こればかりは、事実なので覆すことは出来ないのだ。
「でも、仮にそうだったとしても今のかず君はひとみさんの為に動いてるんだよね?」
「うん、それは間違いないよ。俺はひとみの笑顔が見れればそれだけでいいんだからね」
「なら、それはかず君の力なんだよ。今こうして交渉だって自分が行動を起こしたから今があるんだからね」
「はっきりとは言えないけど、そう思うことにするよ。いつまでも悩んでる訳にもいかないから」
「そうだね、それじゃ続きをしようか」
それから時間を掛けて最高の卓作りをしていく。自分の理想とする図面がどんどんと出来上がっていくのが分かると、ワクワクが止まらなかった。
「それで、2台ともこっちで作る?」
本来ならお願いしたいところではあるのだがここだけは譲れない。
「もし、出来たらでいいんだけど1台は俺に作らせてもらえないかな」
「いいよ、卓自体は手間はそんなに掛からないから1日あれば出来ると思うし。期限はいつまで?」
「再来週まで出来たらって思ってるけど無理かな」
「大丈夫だよ、かず君はいつ来れそう?」
「再来週の日曜日に来ても大丈夫?」
「いいよ、うちは日曜でもやってるからね」
「その時は、ご指導よろしくお願いします。あ、あといくら掛かるか教えてくれる?」
これは、先生のポケットマネーでやってるので経費として出さないといけないので、確認できるところはしておかないといけないのだが。
「今回は、知り合いのよしみとかず君の熱意を対価としてやらしてもらうよ」
返ってきた答えに俺は抜けた声が出た。
「なんで?」
「なんで?って普通、ひとみさんを含めた後輩の為とはいえここまで出来る高校生はいないと思うよ。なら、僕はその熱意に応えたい」
「ミキ兄ちゃん、ありがとう。あと、ごめんなさい!」
「いいよ、それだけひとみさんを大事に思っているってことだからね」
俺が顔を上げると、最高に格好いい完璧人間のミキ兄ちゃんがいて、俺の年上の人達は見本になる人達ばかりで、俺はもっとちゃんとしないといけないと心に再度釘を刺したのだった。
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