<閑話>男同士の話

 <洋太side>


 一彦の家にお邪魔をして、一彦のおじさんの車で自宅まで俺らを送ってもらってる最中だった。


 秀子の場合は女子というものあるから送り届けるのはいいのだが、自分まで送るなんて思わなかった。


 車を走らせている最中、おじさんから声を掛けられた。


「今日は、うちの急なお願いに付き合ってくれてありがとう」

「いえ、俺らも今日の一彦の原因も知りたいのもあったので」

「息子が迷惑かけてすまないな」

「迷惑どころか感謝と称賛ですよ。俺にはそんなこと出来ませんから」


 一彦と同じことをしようと思っても出来るとは到底思えない。


 いや、少なくともあの学校で一彦と同じことが出来る人間は、恐らくだが存在しないだろう。


 いるとすれば、生徒会の先輩方くらいかも知れないが、俺は冬休みまで解ることないので現状では一彦しか思い浮かばないのだ。


 松木は一彦をどう思ってるか正直分からないが、俺は一彦とはずっと『親友』で在りたいと思っている。


 これは建前ではなく本音で秀子だってひとみに対して同じ思いを持ってると思うから。


「ということは、かずはあの学校が本当に好きなんだな」

「あの話を聞いたら、そう思うのは理解出来ます」

「私は、仕事ばかりしてる所為か子供たちに向き合えていないんだ」

「それは仕方ないことではないんですか?」

「かもしれないが、やはり息子があんなことになったって知るのは後で私は何も出来ていない」


 きっと、一彦がボロボロになってるのに助けることが出来なくて悔やんでいるのは分かっているが、掛けてあげられる言葉が見つからない。


 一彦なら、簡単とは言えないが言葉を見つけてかけてあげることが出来るのに。


 けども、一彦の気持ちになれば言える言葉が一つだけあった。


「それでも、一彦が最後まで折れなかったのはおじさんの背中を見てるからです」

「私の背中?」

「はい、一彦は俺らに背中を見せてくれます。だから、俺らはここにいるんです。けど、一彦が見てきた背中はおじさんなんだと思いますよ」


 一彦が俺らに背中を見せてくれるのはこの人がいるからで、一彦はきっとこの人の背中をずっと追っているんだなって勝手に思ってしまうが、間違いではない気がする。


 今は、当人に聞くのは出来ないけどあの日になったら聞いてみようと思う。


 早く、あの日になれば良いのにと自分の事ではないのにと心の中で呟く。


「そうだといいんだがな……」

「一彦にすばらしい背中を見せてくれてありがとうございます。一彦達は俺らが守っていきます」

「よろしく頼むよ、一彦の"親友"」

「はい!」


 一彦の身内から『親友』の認定をもらえるだけでこんなに嬉しいのは秀子に告白をもらった時以来だな。


 そう思ってると、おじさんから不意の一言が飛んでくる。


「所で、2人は結婚する予定はあるのかな?」

「以前は、あまりなかったのですが一彦達を見てたら『したい』っていうのは出てきました」


 不意に飛んできた言葉ではあったけど、意外と普通に対処出来たことに自分が一番びっくりしていた。


「そうか、2人ともかず達に似てる感じがしたから君たち4人が結婚したらいいなって思ってしまったよ」

「秀子はどう思ってるか分かりませんが俺はしたいと思ってますし、一彦と以前にそんな話をしたこともあります」

「なら、君たちが結婚して素晴らしい家庭を2つ見るまでは死ねないな。はは」


 やっぱり、この人は一彦の父親だと改めて実感する。


 まだ、当面先の未来の話なのに。


「俺達のことまで気に掛けてくれてありがとうございます」

「幸せな家庭があることはいいことだしね、それに君たちは息子と義娘の『親友』だからね」

「ひとみはもう家族なんですね」

「ああ。あの日が来れば夫婦になる訳で、だったら今の内に慣らすのも手と思ってね。いま『ひとみ』って言わなかったかい?」

「すいません、今生徒会で彼氏彼女がいる場合は、対等という形を取ってるので名前呼びになってるんです。女子の間で決めたみたいです」


 まぁ、最初は俺だって『なんていう提案するかな』って思ったよ。彼女以外を名前呼び、しかも『さん』も無しとかいうハードモードを強いられるなんて思いもしない訳で。


 今では、ようやく慣れた感じである。


「女子が決めたのなら仕方ないか。でも、その方が信頼とも捉えることが出来るからいいのかもな」


 乾いた声を出しつつも『女の子は凄い』っていうニュアンスで言う。


「慣れるまでは大変でした。『さん』をつけるとものすごく怒られるので」

「ひーちゃんが?」

「はい、それに一彦が便乗してくるので」

「はは、それはすまないね。でも、聞いてるだけで楽しい学校生活を送っているのが分かるよ」

「はい、一彦のおかげです。一彦は俺達に色々な物をくれます」


 一彦は、感謝してもしきれないほどに俺達に色々くれた。


 言葉・場所・行動など一彦から貰ったのは簡単に返せるものではない。


 ならば、俺らが一彦に返せることと言えば俺らがずっとそばにいて、2人が挫けそうになったり、今日みたいなことになれば背中を押したり、叱咤すること。


 それは、逆も然りである。


 そして、大袈裟だが死ぬまで4人でいること。いや、今周りにいるみんなが限りなく近くにいてくれればいいと思ってしまう。


 俺も一彦に感化されつつあるんだろうな、本当に恐れ入るよ。


 でも、今の俺の願いがそれになる。


 結婚だって最初は考えていなかったが、一彦達を見て結婚も悪くないと思えたから。


 だから、あの時話が盛り上がったのだ。


 一彦がいてくれたから、秀子をもっと大切にしなければいけないと、思い知らされたのだから。


 俺らはあの2人に勝つことなんて到底不可能だけど、追いつくことは出来るかもしれないのだから。


 4人が、平行線のように同じ道を歩んでいけたらそれ以上に望むことは無いだろうと。


だが、この平行線の意味を俺は履き違えていたことに後ほど気付かされることになる。


 色々と話してる内にあっという間に俺の家の近くまで到着していた。


「あ、すこしだけコンビニ寄りますのでここで大丈夫です」

「ん、了解した。路肩に停めるからちょっと待ってね」


 車を上手く道路脇に停めてくれた。


「ここまで送って下さってありがとうございました」

「こちらこそ、私達のお願いを聞いてくれてありがとう。あと、私の話も真摯に聞いてくれてありがとう」

「いえ、お気を付けて帰ってください。自分が帰ったら秀子にメールしておばさんにメールするように伝えますので」

「これからも、妻から連絡が来るかもしれないがその時はよろしく頼むよ」

「はい。それでは失礼します。おやすみなさい」


 俺は、颯爽と車を走らせて帰っていくのを見送ってから帰路に着いた。


 家に着くなり、秀子にメールをして『悪い、2人とも家に着いたことをおばさんに伝えて欲しい』とメールを送って『オーケー』と返ってきたのを確認する。


 色々と話を聞いたり、話したりしたおかげで気を張っていたのが解けた瞬間に瞼が重くなるのを感じて、家に帰ったら直ぐに俺は深い眠りに落ちたのだった。


 因みに、今の時間は10時前である。

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