日常㉗
全てを解決した俺らは、リビングに行き両親(主に母さん)に心配を掛けたことで、謝ろうと思った。
リビングに行くと、全員揃っていたのがびっくりで俺がいつも早く出てしまうから、この風景を見るのは久しぶり。
というか、初めてに近い感覚だった。
「おはよう、かず、ひーちゃん」
「おはよう」「おはようございます」
「もう、お姉ちゃん。敬語は無しだよ」
「ひとみ姉さん、やり直し」
朝から、なんだかよく分からんことになってるんだが……これは一体どうゆうことよ?
多分、これを仕組んでいるのは1人しか存在しないのだ。
「母さん、2人に何を吹き込んだ?」
「失礼ね、2人には家族の振る舞いをしなさいって言っただけよ」
「十分すぎるほどに吹き込んでるな……こればかりは詰んだな」
「私達は、お姉ちゃんを家族として迎えたいの。だからお願い」
「瞳……分かった。……おはよう、お義父さん、お義母さん、輝、瞳」
「「「「おはよう」」」」
「さて、2人ともご飯はどうするの?」
「2人の時間が欲しいから大丈夫かな。ありがとう」
「あ、あの。お義母さん、お義父さん」
ひとみが両親に声を掛ける。多分、あの事を相談するつもりだろう。
「どうしたの?」
「あの、一つだけお願いがあるんです。無理なら諦めます」
「ひーちゃんは何がしたいの?言ってみなさい」
「金曜日は、一彦の家に私を泊めさせていただきたいのです。それで土曜日に一彦を私の家に泊まらせたいと思いまして。ダメでしょうか」
俺らは、まだ高校生であってこんなことが許される訳は無いと思っていての相談。
なので、正直な所は断られるのが関の山だと思っている。
最初から高望みをする必要なんてないのだから、断れたら少しづつ事を進めて行けばいいだけだ。
「……分かりました。私は個人としましてはいいですよ。あなたはどうします?」
「ここまで言わせたりしてるんだからダメとは言えないな」
「私達はいいですが、静子さんがダメって言ったら諦めることいい?」
「はい。一時的ではありますが認めてくれてありがとうございます」
俺は、ひとみが涙腺崩壊ギリギリになってることに気づいた。
これをお願いすることには、相当の精神力を要したと思うが、その分の見返りがでかいから涙がギリギリで留まってるのだろう。
なら、静子さんの信頼を勝ち取るのは俺の仕事で、必ずひとみの望む結果にすると胸に誓った。
俺らは、鶴見までは電車で行くとあの満員電車には乗りたくないので、高校生では逸脱してるがタクシーを使うことにして、学校から少し遠いところで停めてもらって学校に着いた。
「あそこからここまででこれくらいか」
「ねぇ、たまにはこうやって行きたいって言ったら怒る?」
「いいんじゃないか?別に自分達のお金でタクシーを使うのに校則は関係ない」
「ありがとう、それじゃ行きましょう♪」
ひとみは、腕にしがみついてくれて『離さない』ってくらいにギュってしてくれたので、頭を撫でてあげてからひとみの教室に向かったのだ。
「あ、ひとみ。おはよう」
「おはよう、秀子。今日はありがとう」
「大丈夫よ、それよりも先輩は大丈夫ですか?」
「その言い方は、秀子にも迷惑を掛けたみたいだな悪い」
「いえいえ。まぁ、何があったのかを無理に聞くつもりはありませんから」
「いや、ちゃんと話すよ」
俺は、今回の案件に対して自分の思いを語り出した。
語り終えて、ちょっとだけ沈黙が訪れるが秀子がその沈黙を吹き飛ばした。
「あー先輩も人間だったってことね」
「おい、今日まで俺を何だと思ってるんだよ」
「先輩?今まで色々とやってきて自分が『普通』って感覚がズレているんですよ」
「そうなのか洋太?」
洋太に話を振ったけど、これって無意味なやつと思ってしまったのは秀子の彼氏であり、俺のことをある程度理解をしているからだ。
「普通って言えば普通なんだがな……誰かの為って考えた時は普通ではないな」
「何度も言ってるけど、俺は自分の為にやってるだけなんだけどな」
「まぁ、その副産物が『俺らの為』になってるのかもな。だから自分のことになると弱くなるんだよ」
「俺はどうしたらいいんだ?」
結局の所、行き着く論点はそこなのだ。
俺は、このままでいいのか?
少なくとも昨日の時点でやらかしているのでこのままでいいとは到底思えるはずもない。
けど、そうなると答えが見つからないのだ。
多分だけど、怖いって言うのがあるのは分かっているつもりだが、変えたことによって印象が変わってしまう可能性だってある。
そんな、アホな考えをしていると………
「痛っ!なにするんだよ………」
結構強めの衝撃が頭を襲ってきたが、頭痛ではなく洋太のグーパンチだった。
「一彦は、今のままでいいんだ。別に変われって言ってる訳じゃない」
「でも、それだとひとみやみんなに………」
「そんなのはどうでもいいんだ。ひとみはお前にちゃんと言ったんだろ?」
俺の言葉が最後まで続かず、洋太に追撃されるかのように言葉が矢継に飛んでくるもんだから、今は受け止めることにする。
「ああ」
「だったら、その通りにすればいい。俺だって、今の一彦だから"親友"でいたいんだ」
「洋太……いいのか?今のままで」
「誰だって、焦燥感に駆られることなんてあるよ。それって、相手からしたらある意味幸せなんだって思わないか?」
焦燥感を感じることが幸せってどうゆうことだ?
もしかして、俺はあり得ないほどに勘違いをしているのではないだろうか?
今ある焦燥感は、ひとみが俺から離れてしまうことで、俺がここで変わっても意味が無いということに気づく。
そうか、変わる必要性なんてなかったんだ。
俺がしないといけないのは変わることではなくて、どんなことがあってもひとみを信じることなんだ。
それさえあれば、焦燥感なんて出ることはない。
「俺は、一体何に捕らわれていたんだろうな?」
「それだけ、ひとみが大事ってことだろ。正直、俺には真似できないが一彦だから出来ることで、そう思ってもらえるひとみは幸せ者だよ。なぁ、ひとみ?」
「洋太先輩が旦那様の親友で本当に良かったです。これからも旦那様が挫けそうになったら叱咤してください」
「ああ、でもそれは俺らもそうだからこっちもそうなったら2人とも俺らに叱咤くれよな」
「ああ」「はい」
話がちょうどいいところでチャイムが鳴ったので俺らはお互いの教室に戻るときに俺は、洋太に頭を下げた。
「おい、いきなりどうしたんだよ」
「洋太がいてくれなかったら、どうしたらいいか分からないままだったから」
「気にしてないというか、その為に友達や親友がいるんだからな」
「そうだな、ここに来てそれを教わるとは思わなかったよ」
「一彦の場合は、色々あったからな。そう考えたらそうなるのかもな」
この学校に来て、友達との接し方を覚えたくらいだから頼り方を知らなかったのかも知れないと思う。
こんな心強い同級生がいることに嬉しさを覚える。
ひとみが言っていた『もう1人じゃない』っていう意味はこうゆうことも含んでいたのかも知れない。
それに気づかないほどに昨日の俺の心はやばかったということだ。
「洋太、これからも色々が迷惑かけることがあると思うがその時は容赦なく叩き潰してくれないか?」
「潰すまではしないけど、間違えそうになれば俺は手を貸すよ」
「ありがとう、改めてこれからもよろしくな」
「ああ、また放課後な」
洋太が教室に入っていくと、俺は自分の教室に向かって歩き出す。
心が穏やかになり、さっきまで重い足取りが嘘のように軽く感じるようになっていた。
『親友』それは、きっと同性の中で唯一無二の存在なんだって感じることが出来た日でもあった。
けど、俺はこの後に壮大なやらかしをして、自分を更に追い込む事になろうとは思いもしなかった。
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