団欒②
一斉に『いただきます』の合図と共に楽しい団欒が展開されていた。
親父と輝が隣同士なり、その対面にひとみと妹が座って俺と母さんは動きやすいように両サイドに座った。と言ってもほぼいつも形なんだがね。
食べながら、この間ひとみの家での食事の話になった。
「そういえば、この前ひーちゃんの家でご飯食べたのよね?美味しかった?」
「美味しかったよ、当然だけど知らない料理も出てきたし感動してたよ」
「もう、大袈裟なんだから。でも、そう言ってもらえると嬉しい♪」
妹が俺の言い方に不思議に思ったようで。
「知らない料理って?うちって色々作ってるから、お兄ちゃんが知らない料理なんてあるの?」
「ひとみ、あの事を言ってもいいのか?」
「大丈夫だよ、私の場合はあなたもそうだったけど、気づかないことが殆どだから」
「かず?あの事って何かしら?」
母さんは勿論のこと、俺以外は『なんのこと?』って顔をしている。
俺ですらあの事を聞いて大層驚いているんだから、きっとうちの連中はのけ反るんじゃないって思ってしまうが、俺は言うことにした。
「俺もこの間知ったんだけど、ひとみってクォーターなんだよ」
「「「「「はい?」」」」」
「あれ、思ったより違う反応が来たな。まさか気づいてるとか?」
家が揺れるんじゃないかってくらいの声が出ると思ったら、素っ慳貪な声になってしまったようで、ここからひとみが自分で言うことにしたらしい。
「すいません、黙ってるつもりではなかったんです。言う機会が無くて」
「いや、驚いてるのはあまりも日本人の顔をしているからで。それでどこのクォーターなの?」
妹が冷静を装ってひとみに聞くと。
「ブラジルです。私は会ったことは無いのですが、お祖母ちゃんも日本人だったみたいです」
「なるほどね、ひーちゃんの場合はクォーターというよりももう日本人ね。静子さんを見ても日本人って普通に思ったし。克彦くんも」
「ごめんなさい、黙っていて」
「私達は、どこから来たなんてどうでもいいのよ。大事なのはかずをどう思ってるかそれだけよ」
「一彦は私の大事な人で、私からは絶対に手放したりはしません」
「それを聞ければ十分ね。それでどんな料理があるの?」
そこからは、向こうの料理のことで話が大層盛り上がり。
「それでさ、ソーセージが凄く美味いんだよ。あれならビールのつまみにもなると思うよ」
「へぇ、それを聞いたら食べたくなるな。この辺で買えるのかな?」
「はい、鶴見の商店街にブラジルの専門店がありますので今度買ってきますね」
「お願いしてもいいかしら?あ、レシート持ってきてね」
「‥……はい」
奥様よ、俺の親にそれは通用しないのは分かっているんだから諦めてくれ……
っていうか、弁当の件といい俺の親だけあって頑固ですからね。
「今度、ひーちゃんに向こうの料理でも作ってもらいましょうか?」
「あ、あの、もしかしたら口に合わないかもしれないので、今度家で作ったのを持ってきます」
「私達のことを考えてくれてありがとうね」
「いえ、私はしてもらってばかりなのでこれくらいはさせてください」
「私達としては、かずの隣にいてくれればそれだけでいいのに」
「お義母さん……」
「あとは……そこのおてんば娘の相手もね」
「そんな、瞳はおてんば娘なんかじゃないです」
ひとみがそう言うと、妹がバツが悪そうに俯いてしまう。
そりゃ、今はひとみがいるから完全に猫を被ってる状態だから、化けの皮が剝がれるようなもんだもんな……日頃の行いの結果だな。
「あら、そうなのね」
「お母さんの意地悪。いつかお姉ちゃんに見たいなるもん」
「なら、期待してるわよ」
「……はい」
我が妹ながらアホ過ぎるだろ……そんなこと言ったら、母さんから完璧にカウンターを食らうことくらい解るだろうに。
ひとみがいるから、多少自分を鼓舞したつもりが仇となったな。
俯いてる妹にひとみがやさしく妹に諭すようにこう言う。
「前にも言ったけど、私は私で瞳は瞳だからね。『私みたいに』って言ってくれるのは嬉しいけど、瞳には瞳の良さがあるんだから」
「お姉ちゃん……」
「けど、お義母さんの言ってることも理解は必要だよ」
「うん、気を付ける」
「これからは、なんかあったらひーちゃんに相談ね。その方が聞いてくれるようだし。という訳でよろしくねひーちゃん」
「はい!」
「お姉ちゃんがお母さんにも取られた~」
ちょっと待て妹よ、そもそもひとみは俺の物でお前の物ではない。
ましてや母さんの物でもないからな!
そんな中、この会話に対してほぼ無言だった輝がひとみに対して口を開く。
「ひとみ姉さんは、結局の所は誰の物なんですか?」
「輝、俺になんか恨みでもあるのか?」
「いや、ただ二人の惚気を見てみたいだけだよ。誕生日の時に色々と聞いたからさ」
「洋太達、お前にどんな話をしたんだよ……本当に」
「ほとんど惚気話だったかな。だって、学校を砂糖工場にしてるらしいじゃん」
あ、あいつら……面白がってほぼ全部話してやがる。
「だから、洋太さん達がどんな気持ちになってるのか知りたくてさ」
「お前、怖いもの見たさだろ?」
俺と輝の会話を聞いていたひとみは、言うことに躊躇いすらなく輝にこう放つ。
「私は、今もこれから先もずっと一彦の物ですよ♪一彦は誰が来ようとも絶対に渡しませんから♪」
おお、言った。はっきり家族に宣言しましたね奥様。
それなら、俺もその言葉のお礼として言葉を返さないとな。
「ひとみ、俺のことをそこまで想ってくれてありがとう。俺はひとみの物でひとみ以外の人の隣にいる気はない。だから、ずっと俺の隣にいてくれるか?」
「はい、例え嫌って言われても絶対にしがみついてるからね♪愛してます」
「俺も愛してるよ、ひとみ」
「「「「………」」」」
俺らの愛の告白に対して、家族全員が見事に固まる始末で輝は『言わなきゃ良かった』って後悔の顔をしていた。
「洋太さん達が言ってることがやっと理解できた。兄貴、学校でやりたい放題し過ぎだろ!」
「ああ、付き合った当初にみんなには『迷惑しかかけない』と先に言ってあるからな」
「それ、キメ顔で言うことじゃないからな」
「確かにこれは……周りからしたら砂糖工場って言われても仕方ないよ……二人とも」
「「………」」
輝と瞳のダブルパンチを食らうも、今更なのでダメージなんぞ大してない。
「本当に、二人はお互いを信じてるのね」
「ひーちゃんがかずの彼女になってくれて嬉しい限りだよ」
両親も便乗するかのように言ってくる。さすがに両親に言われると少しだけ来るものがあるな……
そうなれば、段々と気恥ずかしさが沸き上がってくるもので……
「もうやめないか?これ以上は無意味というか、ひとみが辛くなる」
「私は大丈夫です。こんな私ですが、もし不手際とかあれば言って下さい」
「うーん、言えと言われても探す方が大変なくらいだな」
「そうね」
だから、そうやって両親がひとみを攻め立てたら意味ないでしょうが……
こうして、ひとみを加えた楽しい団欒を終えてひとみ達はもう少し作りたいということで部屋に戻り、輝も部屋に戻って残ったのは俺と両親だけとなった。
「全く、この間もそうだったけど二人の世界に入ると凄いのね」
「自重してるつもりなんだけどな」
「あれで自重?あんた達は学校で変なことはしてないでしょうね?」
「バレて面倒なことになるのが分かってるのにそんなことする必要もない」
はい、申し訳ないが思いっきり嘘である。
既に最後までしてしまっているので、それを自重しろって言うのが無理な話である。
ひとみに迷惑が行かないようにする為に、全力で顔を作り冷静を保つ。
「問題さえ起こさなければいいわよ」
「了解」
リビングから出ると、心の中で『嘘ついてごめん』と謝罪していた。
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