団欒①

 母さんから今日はひとみも家でご飯を食べていくと言われたので輝、瞳、ひとみを呼びに各自の部屋に向かうことにしたのだ。


 いや、正確に言うにはパシリにされているだけの事なのだが……それよりもひとみが家で食べていくことにびっくりしたのだから。


 いつの間にそんな話になっていたのか。


 事情を聞いてしまえば納得するしかなく、俺はリビングから一番近い部屋から声を掛けることにした。


「2人とも、ご飯だからリビングまで来てだってさ」


 俺がそう言うと、ドアの向こう側がやけに騒がしくなり勢いよく扉が開いた。


「あなた、私お義母さんの手伝いしてくる」

「あ、ああ」


 勢いよく言われたので、俺は軽く頷くことしか出来なく、ひとみはリビングへ一直線だった。


「なぁ、ひとみはどうしたんだ?」


 俺は分からないことだらけだったので、そばにいた妹に聞くことにした。


 妹は、呆れたような?まるで『もう』って顔をしていたのだから。


「あのね、お姉ちゃんにご飯のことを言ってなくて言ったら飛び出していった」

「そうゆうことか、相変わらずだな」

「本当にお兄ちゃんのことが好きで堪らないんだね」

「それはひとみしか分からないことだからな」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」

「いや、そうじゃないよ。確かに俺の為って言うのも一理あると思うけど、今この家には大切な人がもう1人いるからだよ。その為には両親に認めてもらいたいって思いがあるんだと思う。1人は誰か分かるだろ?」


 以前なら、俺の為って言うのが明確であった。


 けど、今は志村家全体に貢献しようとしているのは目に見えてるし、それが俺と妹の為なのは母さんが一番理解してるだろう。


 まぁ、今の時点ではそんなことする必要はないのだろうけど、本人がそうしたならさせてあげればいいだけで、意地を張る子ではないから。


「そんな訳でさっさと行って手伝って来い。ひとみのようになりたいならな」

「はいはい」


 口を尖らせながらも妹はリビングに向かっていったので、そのまま輝の部屋まで行き『飯だからリビングに集合』と声を掛けて、自分の部屋の電気を消してリビングへと戻った。


 ひとみがいるからといって食卓が豪勢になる訳はなく、その辺は助かった。


 母さんのことだから、変に気を遣わせるかと思っていつも通りにしたのだろうと俺は予測した。


 それに、俺もひとみの家で食べた時もいつも通りの食卓だったので、安心して4人で食べることが出来たのだ。


 あれが俺がいるという理由で豪勢にされたらいたたまれないから。


 そう考えると、母さんもお義母さんも色々と似ているところがあるのかも知れないな。


 さすが、俺らの母親である。


 俺がリビングに戻ると、ひとみがテーブルに申し訳なそうに座っていたのはきっと『ひーちゃんは今日はお休み』とでも言われたのだろう、その代わりに妹が働きアリになってるのだから。


「あーやっぱり、そうなったか」

「やっぱりって?」

「母さんに『座ってなさい』って言われたろ?あいつが今回お願いしたからな」

「でも、手伝いたかった」

「その気持ちは、母さんに十分すぎるほど伝わってるから大丈夫だよ」

「そうだね、ひーちゃんは家に来た時くらいはだらけるくらいでいいと思うよ」

「お、お義父さん!?そ、そんな呼んでもらってるのに」

「瞳が呼んだなら尚更だよ。かずやひーちゃんから言った場合の時は手伝えばいいから。瞳の為にありがとう」

「そんな、私は……」


 親父の飄々な言い方に、ひとみは驚いてしまいしどろもどろになって、しまいには色々言われて俯いてしまった。


 別に落ち込んでる訳ではないのだが、奥様をフォローするのが旦那の仕事。


 俺が今することは1つだけ。


「でも、親父の言ってることも分かるよ。前に言ったけど言ってみてダメなら素直に引けばいい」

「あなた……」

「そうよ、私もああやって言ったのは今日は瞳がひーちゃんを呼び出したんだから休んでもらいたかったのよ」

「そうだったんですね、今日はお言葉に甘えさせてもらいます」

「その代わりって言うのもなんだけど、お父さんの相手をしてもらえると」

「はい!私で良ければ喜んで」

「ふふ、それじゃお願いね」


 母さんは親父の世話?をひとみに任せると、キッチンへと戻っていった。チャンスとばかりに妹を働かせるつもりである。


 きっと、日ごろの恨みのようなものなんだろうな。ひとみを人質に瞳を使うとは我が母親ながら感服するよ。


 すると、親父がビールを飲み終えるとひとみにあるお願いをしてきた。


「ひーちゃん、出来たらでいいからビール注いでもらってもいいかな?」

「はい、どうぞお義父さん」

「ありがとう、いやーこんな日がこんなに早く来るなんて思ってなかったよ」

「それは、俺に彼女が出来ないと思ってたのか?」

「まぁ、少なくとも高校は難しいと思っていたよ。学校が嫌いなのに学校生活を謳歌出来る訳が無いからな」

「………」


 まだ、2杯目なので酔ってるとは言い難いが、親父の言葉は正論だった。


 その言葉に、ひとみが少しだけ不安な顔をして『そうなの?』と聞いてくるので俺は素直に答えることにしたのは、ちゃんとした理由があってひとみと出会う前のことだから。


「そう思っていたのは事実だよ。学校に対してはどうしても負の要素が強かったけど、ひとみに初めて会った時から変わっていったな」

「そうなんだ、そう言われるとなんか恥ずかしいね」

「だから、俺はひとみに出会えたことに感謝しかないんだから」

「あなた……ありがとう♪」

「ひとみは、笑顔以外は似合わないから今みたいにずっと笑顔でいてくれよ」

「あなたが隣にいる限りはずっと笑顔でいます」


 親父が目の前にいるって言うのに俺らは、お互いの想いを吐き出していてキスまで行こうとしていると……


「こらこら、思春期の子達の前でそんなことしないの。するなら後で部屋でしなさいよ」

「「ごめんなさい」」


 おい母親よ。言い方……って部屋ならいいのかよ。


「お姉ちゃんって、意外と大胆なんだね」

「こんなお姉ちゃんじゃ嫌?」

「ううん、お兄ちゃんが憎たらしいだけ。だって、私じゃ無理だから」

「出し惜しみすることなく俺に憎悪をぶつけてくるな」

「いいもん、ご飯食べたらお姉ちゃんはもらっていくから」

「ああ、今日は瞳が独占する日だから構わないよ。ちゃんと帰ってきてくれるのも分かっているから」


 妹にそうゆうことを言われても毅然としていられるのは、ひとみが絶対に俺の所へ帰ってきてくれるって信じてるから言える言葉だった。


 なので、俺らの絆をそうそう壊せるものは存在しないのだと。そう、思っていた。


「まずは、先にご飯を食べましょう。おしゃべりはご飯の後ね」

「そうだな、それじゃ」


 俺が、それを促すと5人が胸の前に手を合わせるのを確認すると『いただきます』って言えば。


「「「「「いただきます」」」」」


 さぁ、家族の団欒の始まりである。


 この先、どんな会話が展開されるのか期待と不安が1:9の感覚で俺はいたのだった。


 期待が1ってどうゆうことなのか自分でも言ってて訳が分からない。

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