<閑話>共同作業

 <ひとみside>


 私は旦那様の家に着き荷物を旦那様の部屋に置くと、待ちきれなかったのか瞳が部屋に突入してきた。


 ここまで懐いてくれると嬉しくて涙が出そうになってしまう。


 旦那様は笑顔で送り出してくれたので、私も今出来る精一杯の笑顔で応えた。


「お姉ちゃん、早く」

「ふふ、そんなに私が来るのが待ち遠しかったの?」

「うん、本当は毎週でも来て欲しいくらいだけど我が儘だから」

「瞳、ありがとう。あとで一彦と相談してみるね、お義母さんやお義父さんに輝君にもね」

「いいの?輝と両親は私から言うから」

「お願いしてもいいの?」

「だって、私がお願いしてるんだからお姉ちゃんは気にしないで」

「でも、何もしない訳にはいかないから少しは手助けするからね」

「うん!」


 妹ってこんな感じなんだ……本当にあの時に立ち止まれて良かったって思える。


 言葉、仕草が可愛くて抱きしめたくなるけど、今はまだ我慢しないとね。


 すると、瞳が後ろから私に抱きついて来てくれたので、私の頭は一瞬だけ真っ白になってしまった。


「ひ、瞳?どうしたの急に」

「今だけ、お姉ちゃんをぬくもりを感じたいの」

「そっか、そうしたら私も同じことしても良い?瞳が嫌じゃなかっただけど」

「嫌じゃないよ、寧ろ早くして欲しいくらいだよ」

「そうだったんだ、ごめんね。気づかなくて」


 ああ、もう可愛い過ぎて持って帰りたくなるけど……それはやめよう……


 なら、先に未来の義妹の願いを叶えてあげないといけないね。お姉ちゃんとして。


 私は、瞳を後ろからギュッと抱きしめてると瞳が抱え込むように腕を掴んでくる。


「お姉ちゃん、温かい。お兄ちゃんは、これを独り占めしてズルいな」

「ふふ、私は一彦の物だからね。でも、言ってくれればいつでもしてあげるから」

「ほんと!来た時は必ずこうしてくれる?」

「ええ。来た時の日課にしようか」

「ありがとう、お姉ちゃん。大好き」

「私も大好きだよ。瞳」


 これって端から見たら、まるで百合展開のようだが……これだけ可愛いのだから仕方ないのだ。


 そろそろ、本来の案件に入らないとね。


「瞳、そろそろ始めない?」

「そうだね、改めてお願いしますお姉ちゃん」

「こちらこそ、頑張ろうね瞳」


 色々とあったが、作業を開始する。


 ラッセンのピース数は2000ピースなので、2人でやってもこの時間ではさすがに完成するのは、不可能と私は理解していた。


 多分、瞳も理解をしていて今日だけで終わらせるつもりは無いと思ってるので、私は焦ってやることはせずに会話を挟みながら楽しく作ることにした。


 なので、私から会話を振ることにした。


「ねぇ、瞳は好きな人とかはいないの?」

「いないよ、部活してると彼氏とかどうでもいいって思っちゃって」

「部活は楽しい?」

「楽しいよ、高校はバレーが強い所に行きたいの。お姉ちゃんは部活はやってなかったの?」

「私は、中学はソフトテニスしてたよ。高校でも入ったけど辞めちゃった」

「お姉ちゃんのテニスウェア姿見てみたいな」

「恥ずかしいからダメです~」

「あ、お兄ちゃん見せたらダメだからね」


 えっと………旦那様の願いを潰さないであげてね……まぁ、旦那様にその姿を見せたら私がどうなるかなんて分かり切っているけど……勿論、拒むつもりは一切ないけどね。


 だって、私を求めてくれるなら受け入れる。私はいつも旦那様を求めているんだから。


 でも、これは思春期の女子に言えることではないで黙っておくことしか出来ない。


「でも、お姉ちゃんのことだからお兄ちゃんのお願いは聞いちゃいそうだよね?」

「疑問形にしてるけど、私が断らないの知ってて言ってるよね、その言い方は」

「あはは、バレちゃった」

「私の親友と同じようなこと言うんだから」

「それって、秀子さんのこと?」

「ええ、あの子には大きな恩があるけど偶にとんでもない事言いだすのよ」

「お姉ちゃんの誕生日の時に私も色々と聞かれたり、されたりしたから」


 秀子ったら、私の大事な宝物に悪戯やなにか吹き込んでないでしょうね?


 もし、してたならお仕置きをしてあげないと……今頃、本人はくしゃみでもしてたりしてね……ふふ♪


 翌日、秀子に試しに聞いたところによると『洋太と電話してる時にいきなり大きなくしゃみしたら洋太にびっくりされた』と言っていた。


 そんな、色々な会話をしながら作っているので作業スピードは遅い方で3分の1くらいの出来であった。


「ねぇ、今日は全部は無理だからまた近いうちに来て一緒に作って」

「いいよ。っていうかそのつもりだったでしょ?」

「だから、ゆっくりやってた」

「やっぱり。ちゃんと言ってくれれば来るから」

「でも、それだけお兄ちゃんとの時間が減るから……」

「大丈夫よ、私達はどんな時でも時間は作れるから。帰る時に思いっきり甘えるから」

「お姉ちゃんが家にいる時は、思いっきり甘えてもいいの?」

「瞳がそうしたいならして欲しいな。私は出来る限り受け入れるから」

「早くお姉ちゃんとお兄ちゃんが結婚してくれたらいいのにな」

「私はしたいけど、もう少しだけ我慢しないとね」


 私だって、瞳のお義姉ちゃんになれるならなってあげたいが今は無理は言えないのと、言ってしまって関係が悪化するのだけは絶対に避けたいから。


 けど、あと2年待てばちゃんとしたお義姉ちゃんになれるんだから。


「大丈夫、私だって瞳が義妹になってくれるのは嬉しいんだからね」

「ずっと、一緒にいてね。私が結婚してもずっとお義姉ちゃんでいてね」

「ええ、想いは同じだから安心してね」


 お互いに抱き合って、ぬくもりを感じ合う。


 一彦とはまた違った温かさで、暗い気分を吹き飛ばしてくれそうな感じだった。


 すると、ドアから私の愛する人の声が聞こえてきたのだ。


「2人とも、ご飯だからリビングまで来てだってさ」

「ご飯?私も?」

「あ、お母さんにお願いしてお姉ちゃんの分も用意してもらったの」

「もう、それを早く言ってよ。手伝ってくる」

「もう、お姉ちゃんったら……本当にお兄ちゃんが好きで堪らないんだね」


 私は、この家族に認められるなら出来ることはしたいと思っていて、それは義務感とかではなくて本能に近くて、身体が勝手に動いてしまうほどに。


 愛しい旦那様の為に一緒にしたり、出来ることが私の『生きがい』だから。


 けど、この時の私はとても大事なことを忘れてしまっていたのに気付いたのは、旦那様が壊れかける寸前の時だった。

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