ミキ兄ちゃん

 俺がミキ兄ちゃんと話すのは久しぶりで、家のリフォーム以来でもある分、少しばかり緊張していた。


 話したと言っても、本当に他愛ない会話であって深い話とかはしてないのに、俺からこんなお願いをするのは筋違いなんじゃないかと思ってしまう。


 だが、いつまでも尻込みしていても埒が明かないのと、母さんがくれたチャンスを逃すのが一番最低なので、俺のやるべきことをすることにした。


「久しぶりです。すいません、こんな時間に電話してしまって」

「かずくんは変わらないな。それで、僕に用って?」


 俺はミキ兄ちゃんに俺のしようとしてることを話すことにして、専門家に話してとりあえず指標をたてようと思ったのだ。


「なるほどね……簡易的な麻雀卓でいいのかい?」

「そうですね、あまりちゃんとし過ぎるとみんなが引きそうなので」

「いや、今の時点で僕が引いてるんだけど……かずくん何か変化でもあった?」

「変化というか、彼女が出来ただけですよ」

「それだけで?」

「はい。そんなに俺って変わりました?」

「ちょっとだけ話が脱線するけど、今度さ二人で家に来てもらえないかな?」

「え?」

「いや~、理由は二つあってさ。一つは久しぶりに顔を見たいからで、もう一つはちゃんとした話をするのと彼女さんを見てみたいから」

「それは、全然構わないですが」


 二つって言ったけど、結果的に三つになってるし。


 うーん、ミキ兄ちゃんにひとみを会わすのはいいけどさ……ミキ兄ちゃんってイケメンだからな……心配……


 って今はそんなことを言ってる場合じゃない。俺からお願いしてるんだから筋は通さないと。


 平常心……平常心っと。


「そうしたら、僕の予定をとりあえず送るから都合が合う日をお母さんに伝えてくれるかな?」

「分かりました。その時はよろしくお願いします」

「うん、二人に会えるの楽しみにしてるね。それじゃ、また」

「はい、ありがとうございました。失礼します」


 電話が切れると、俺の緊張も切れて床にへたり込んだ。


「最後の方、心乱れたでしょう?」

「そんなことないよ」

「顔に冷や汗かいておいて何を言ってるんだか……心配し過ぎ」

「何がだよ」

「ミキちゃん、もう結婚してるから安心しなさい」

「そうなの?」


 それは、初耳って言うか全然知らんかったよ。それ知ってる人間からしたら俺の焦り様はバレバレってことか……ミスった。


「全く、そうゆうところは変わらないんだから」

「普通の顔と整った顔じゃ勝負にすらならないだろう?」

「かずは比較し過ぎなのよ。それに今のことをひーちゃんが聞いたら怒るわよ」

「それは分かってるよ」

「今のは聞かなかったことにしておくから」

「そうしてくれると助かる」


 けど、今の会話が弱味を握られたような感じがしたのは気のせいにしておく。


 そんな会話をしていると、ファックスの受信音が聞こえてきてミキ兄ちゃんの予定が綴られていた。


 予定を見ると、平日の方が開いてるのとあまり時間も無いので、一番近い金曜日に設定することにした。


 要は明日であるが、俺はひとみの予定を聞いて、予定があるようであれば一人で行くつもりである。


 さっきのことを意識して言ってる訳では決してない……と思う。


 母さんは、その日に設定したことをミキ兄ちゃんに伝えてくれて、学校終わりに直接向かうと伝えてもらったのだった。


 ここで、ある疑問が浮かんだので母さんに質問してみた。


「ミキ兄ちゃんの所に菓子折りとか持っていた方がいいのかな?」

「難しいところね。大木さんの所は知り合い以上身内未満って所だから」

「そうなんだ、単にリフォーム工事で知ってるだけかと思った」

「事情を知らないとそうなるのは当然よ。そこはかずが決めればいいだけよ」

「分かった、迷惑ならない程度にして持って行くよ」


 話が一段落して、リビングから離れようとしたら聞きたくない言葉が飛んできた。


「そういえば、そろそろ期末テストじゃない?大丈夫なの?」

「その現実から逃れたかったのにな……どうして今言うかな………」

「今のかずなら大丈夫だとは思うけど一応ね」

「少しだけ、無理しないとやばいかな……」

「無理して倒れて、ひーちゃんに迷惑を掛けないようにね」

「それしたら嫌われそうだからしないよ」


 けど、今の時点では少し無理しないと全てが終わらないのは事実である。


 吹奏楽コンクール・期末テスト・卓作りがあるのと、今年に限ってはマラソン大会がこの時期にあるのだ。


 今年は、色々な事情があってこの時期になってしまったらしく三年生は自由参加という形になっている。


 受験等の兼ね合いもあり、その配慮だろう。


 俺はというと、大学受験をする訳ではないので参加することにしている。


 自由参加だから出なくもいいと思ってるが、ひとみがいるなら俺は出ない訳にはいかないのだ。


 何故なら俺が一緒に走りたいだけの単純な理由である。


 ひとみにはまだ何も言ってないが、バレるのが分かってるから聞かれたらそのまま答えることにしているが、気を遣って言わなそうな気もする。


 そんな訳で、ここで無理をすると色んなことに支障が出るし、ひとみに"心配と迷惑と嫌われる"という三連コンボが飛んできそうなので、帰り際に全て話そうと決めたのだった。


「かずのことだから、それなりに考えてることでしょうから私から言うつもりはないからね」

「ああ、二人でちゃんと解決するよ。夫婦は二人三脚だからね」

「ミキちゃんの所に行った後はどうするつもり?」

「どうするって、次の日は朝からバイトだから送って帰るつもりだよ」

「それなら、ひーちゃんを家に連れて来なさい。静子さんには私から説明しておくから」

「それはいいけど、どしてよ?」

「誕生日以来、話してないから話したいだけよ。悪い話とかする訳じゃないから心配しないの」

「それはしてないけど」

「とにかく、ひーちゃんにその件は伝えておいてね。あ、そろそろ夕ご飯にするから三人呼んできて」

「ひとみの分も用意してあるの?」

「瞳が『お姉ちゃんと一緒に食べたい』って言うし、妻が旦那の家でご飯食べるのは普通でしょ」

「ありがとう、母さん。すぐに呼んでくる」

「全く、現金な子ね。そこは長男らしく素直なんだから」


 最後の方は、聞こえないふりをして俺はリビングを出て、輝・瞳・ひとみをリビングに呼び出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る