ひとみが妹の願いを叶える

 以前から言われていた妹との約束を果たす為に俺ら二人は俺の家に向かっていた。


 前にひとみが買ったジグソーパズルを一緒に作りたいってことでお互いの都合の日を調整した結果が今日となった。


 寝不足の理由の一つでもあり、妹よりもひとみの方が楽しみにしていたんじゃないかってくらいにテンションが高かったのには少しびっくりして、ひとみを見つめていると視線に気づいたようだ。


「どうしたの、私の顔をそんなに見て。何か変な所でもあった?」

「そうじゃないよ、テンションが凄く高いなって思ってさ。そんなに楽しみにしててくれたと思うと妹は幸せ者だなって」

「今日だけ、あなたの家にいる間は瞳のものになっちゃうけど少しだけ我慢してくれる?」


 少しだけ申し訳なさそうに言うので、俺はひとみの頭を撫でながら優しく諭す。


「いいんだよ、俺の家族にそれだけ親身になってくれる方が嬉しいからさ。前から約束してることなんだ、気にすることは無い」

「帰る時に甘えてくれる?」


 これを言ってくるのは予想済みだが、分からないフリをして。


「俺が甘えるのか?ひとみじゃなくて?」

「だって、それじゃないと私だけ得してるもん」

「今日は、瞳の為で俺らはついでだ。だから、帰りはひとみが甘えて」

「なら、明日はあなたがちゃんと甘えてね」

「ああ、俺だって補充したいから」


 電車に乗っていても、変わらない俺らのスタイルに乗客も茫然としていた。主に視線が。


『あのカップル凄いね』『普通出来ないよこんな会話』『なんか同じこと言ってない?』など、一部正論が聞こえてきそうな感じもするが気にしない。


 っていうか、気にもならないのだ。


 それだけ俺らは2人だけの世界に浸り込んでいた。


 駅を降りて、以前のバイト先の所で軽く買い物を済ませていると、俺にとっては顔なじみの人に出会った。


「あら、志村君じゃないの。久しぶりね」

「久しぶりですね、白井さん」

「ん〜?隣にいるのはもしかして?」

「はい、彼女でいずれ奥様になってもらう大事な人です」

「初めまして、藤木ひとみと言います」

「お母さんは知ってるの?」

「ええ、両親と親族には顔合わせは済んでます」


 この人は、俺がバイトしてた頃から色々と世話をしてくれた人で、母さんも一緒に働いていたので当然知ってるのだ。


 ここのバイトでは、同年代よりも2周りも年上の人の方が親しみやすく、その所為かこうやって偶に会うと、声を掛けてくれたりするのだ。


「付き合ってどのくらいなの?」

「今月で半年です」

「半年で顔合わせてるんだ。っていうかその雰囲気で半年なの!」

「学校でも言われ慣れているので気にしないです」

「もしかして、二人は結婚も視野に入れてたりするの?」


 さすが、こうゆう話になるとグイグイ来るんだよね………おばさま方は。


 答えなんて秒で出るけどね。


「はい。けど、ひとみは一つ下なので再来年ですかね。叶うとすれば」

「お母さんは、許可したの?」

「最低でも、二人の卒業後って母から言われました」

「二人ともお幸せにね。藤木さん、志村君をお願いしますね」

「はい。ありがとうございます」


 そう言って、元の場所へと戻って行ったのだが……毎回思うのだが、俺が子供扱いされてしまうのは何故なのか?


 その理由は、ひとみの方が淑女の佇まいと落ち着いた雰囲気をもっているから。


 必然と俺が子供っぽくなってしまうのだと実感するしかなかった。


 必要な買い物を済ませて、家に向かっているとひとみからこんなことを言われた。


「あなたが大人びているのは、あの人達がいたからなの?」

「うーん、俺が大人びてる気は一切しないんだが?」

「もう、疑問を疑問で返さないの〜」

「ごめんな、でも本当に大人びてる気はしなくて。ただ、あの人達に教わったことは確かに大きいと思う」


 同年代が殆どいない所為か、必然と大人の会話についていってる感じだったけど。


「あの人達に私は感謝しかないなー」


 ひとみは、白井さん達に感謝しているのが不思議だった。


「どうしてだ?」

「だって、こんな素晴らしい旦那様にしてくれたんだもん♪」

「なら、俺は梅山さんに感謝しないとな。ひとみを素晴らしい奥様に育て上げてくれたんだから」

「意地悪なんだから………」

「先に言いだしたのはひとみだぞ?」

「ぷーぷー」


 あなたは電車ですか……っていうか突拍子もなく、新バージョンをやってくれるのは止めてもらえません?


 心臓が持たないんですけど……この可愛い小悪魔め。


 何通りのバリエーションを持ってるのか分からないのと、急に来るもんだから準備をしてる暇すらないのだ。


 回避が一切不可能な最強兵器である。


 遊んで拗ねているのは分かってるからこそ怖くもないのと寧ろ、可愛さが増してドキドキが止まらないから困る。


 他愛のない会話をしてる内に我が家へ到着すると、上から妹が俺らを見ていた。


 あいつ、待ちきれずにずっと来るの待ってたな……まぁ、仕方ないか。


 っていうことで、家に入って荷物を俺の部屋に置くと、妹がノックせずに俺の部屋に入ってきた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おかえりなさい」

「ただいまってせめてノックくらいはしろ」

「ただいま、瞳。ちょっと遅くなっちゃった」

「ううん、大丈夫だよ。お兄ちゃん、今日はお姉ちゃんは私の物だからね」

「ああ、存分に楽しんで来い。けど、あまり迷惑かけるなよ」

「うん。行こ、お姉ちゃん」

「いってきます、あなた♪」

「ひとみも気の済むまでやってきな」

「はい♪」


 妹が興奮気味に部屋を出て行き色々話をしながら作ることにしたようだ。


 きっと、今日で完成させるつもりは無く何度も来て完成させるつもりだろう。


 そんなことしなくても『会いたい』って一言くれれば俺はいつでも応えるつもりなんがな……あいつも気遣いが凄いよな。


 奥様を取られてしまったので、俺は別なことに意識を向けることにした。


「さてと、そろそろ本腰を入れてやらないとな」


 本腰とは、俺と松木の意見が一致した麻雀卓の作成である。


 材料・価格などは既に川田先生に提出しており、すべてが決まれば出資してもらえることになっているので問題はない。


 だが、問題は加工なのだ……俺の望む卓になるとそれなりに板に加工を施さないといけないのだ。ちなみにこの家にそんな機材は無く、俺も上手く扱えないと思う。


 自分の私物ならば、ミスしても気にすることはないのだが、今回は先生のポケットマネーで失敗は許されない。


 なので、俺はリビングに行き母さんにお願いすることにした。


「母さん。あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なに?喧嘩の仲裁は受け付けないわよ。かずが悪いんだから」

「俺が悪い前提で進めるな。っていうか喧嘩はまだしてないからな」

「あら、それは感心ね。それで、私にお願いって何?」

「ミキ兄ちゃんの連絡先を教えて欲しいんだけど分かるよね?」

「大木さんの所?どうして?」

「実は、学校の方でちょっと作らないといけない物があってさ」

「かずがやらないといけないことなの?」

「ああ、俺が言いだしたからね」


 こればかりは、他人にお願いするわけにもいかないが、利用できるところは利用するのは俺の専売特許だから。


 この家をリフォームする際に、お世話になった人が大木さんの所のミキ兄ちゃん。


 爽やかな顔していて、土木関係をしてるとは思えないほどに顔が整っているのだ。


 俺が考えてることは俺の力だけでは解決できる問題ではなかったので、専門家にお願いしてることにした。


 断れたら、自分の力でやるしかないが。


「それで、私から電話した方がいい?」

「電話だけしてもらって、ある程度話して代わってくれれば俺が話すよ」

「なら、今ならそんなに遅い時間ではないから電話してしまいましょうか」

「ごめん、お願い」


 認識はあるとは言えど、そこまでの仲ではないので、こればかりはどうにもならない。


「これくらいのことなら親として当然でしょう?ひーちゃんと付き合うようになってから甘えるのが下手になったわね」

「え?」


 甘えるのが下手になった?一体、どうゆう意味かは後ほど知ることとなる。


 そのまま、母さんは話を続ける。


「前も言ったけど、かずはまだ未成年なんだから少しは親を頼りなさい。無理に二人の見本になれなんて思ってないから」

「そんなことは思ってないよ」

「守るものが出来たからって甘えないのは間違いだからね」


 そう言って、母さんは大木さんの所に電話を掛けてくれた。


「志村です。すいません、夜分遅くに。ちょっと息子がミキちゃんになにか相談があるみたいで……はい、お願いします」


 どうやら、ミキ兄ちゃんはいるようで代わってくれるそうだ。


「ミキちゃん、志村です。はい、久しぶりです。あ、家の方は特に問題とかないのですが息子がミキちゃんにお願いがあるみたいで……はい、では代わりますね」


 内容を聞いてると、話は聞いてくれるようで第一段階は突破できたようだ。


「はい、あとはかず次第よ。頑張りなさい」

「ああ、ありがとう。母さん」


 さーて、ここから本番であって躓くわけにはいかないので、代わる前に自分に喝を入れてから電話を代わった。

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