日常㉖

 ひとみのクラスメートに『秀子達と一緒に出ましたよ』って言われたので俺は、生徒会室に向かうとひとみが秀子とアッコに麻雀を教えてる所だった。


 あまりにも熱心に教えているので、大きな音をたてずに椅子に座って頬杖をついてその風景を眺めていると、ひとみが俺がいることに気が付いた。


 でも、気が付いたのが分かると目線で『すぐ戻るから』っていう意図が感じ取れたので、俺はその風景を見続けていた。


 ある程度教え終わると『行ってくるね』と、二人に告げて俺の下へ帰ってきた。


「お疲れ様、すごく熱心に教えてたな。あれ、目元赤いけどどうした?」

「あ、これね。大したことじゃないから大丈夫って言うか私の所為だから」

「ひとみの所為?どうゆうことだ?」


 ひとみは、自分の目元の理由は包み隠さず教えてくれたが、きっと俺の目が険しかったのだろうと思う。


 俺自身もそんな気がしていたから。


 理由を聞くと目元が赤い訳が理解できた。


「そうゆうことだったのか、俺も同じことを考えた時があったよ」

「そうなの?」

「ああ、秀子の時と家で母さんと話をしていた時にふと思ってしまってさ」

「秀子の時は聞いたけど、お義母さんはなんて?」

「『少なくとも次の恋愛はないでしょうね。今の内に夢でも見つけてみたら?』なんてことを言われたな」

「………」


 まぁ、そんなことを言われたら黙ってしまうのも少しは分かるよ。


 だって『次の恋愛がない』というのはいなくなってしまったら、ずっと一人でいるということだから。


 けど、そんなことにならない為に俺らは常にいろいろな努力をしてる訳であって、お互いがいなくなる心配を今する必要はない。


 それは、俺の口から言わなければならない。


「ひとみ、心配しなくても俺はひとみの隣にずっといるよ。けど、次の恋愛をしないのも否定できない」

「ど、どうして?私が重いから?」

「ああ、でもな良い意味での重いだな。その意味は分かってくれるか?」

「分かってるつもりだけど、分かりたくない」

「そう思ってくれてるだけで十分すぎる嬉しいよ」

「私だって、あなたがいなくなったら次の恋愛なんて考えたくない」


 言葉というのは、同じ言葉でも良い言葉になる時もあれば悪い言葉になる。


 けど、言い方次第ではいくらでも良く出来るので『重い』って言葉は普通に考えれば、負担しかならないように思えるが、相手によって『重い』は安心する言葉にもなる。


 要は、思いが軽ければ気持ちが離れることもあるけど重ければ、それだけ気持ちがあって離れることは無いと思ってるからだ。


 ただ、これは俺の個人的見解であって誰もが当てはまる訳ではないのだ。


 今の話を聞いていた秀子がこっちに来て、ひとみをそっと抱きしめていた。


「先輩の名言、また頂きましたね。『重い』を大切な『重い』に変えるとは」

「さすがですね、生で初めて聞きましたけど直接と間接だと全然違いますね」


 アッコは俺の言葉にしみじみと語る。


「そうか?普通って言うかそれだけ俺に重さを向けてくれてるのが嬉しいだけなんだが」

「「……」」

「な、なんで黙るんだよ……ひとみ、どうしたらいい?」

「女たらし………」


 その言葉に俺と秀子達は違うリアクションになったのは、二人はフリーズして俺はオドオドしてしまったから。


「お、奥様!?」

「ふふ、冗談です。いつも最高の言葉をありがとうあなた♪」


 その冗談はシャレにならないからね?


 二人が黙ってる中で、俺らはいつも二人に戻っていた。


 秀子とアッコのフリーズは数分間なっていて、解けた時には『この夫婦は……』って憎まれ口を叩かれたのであった。


 少し遅れて、松木と洋太もやってきたので後輩も交えて打つことにした。


 俺は、洋太にこんな提案をしてみた。


「洋太、園田の後ろで少し見ててあげてくれないか?」

「俺が!?いや、俺も初心者で見てアドバイス出来ないぞ」

「コーチ役は、松木がやるが園田が打ってるのを見てみたらどうだっていうこと」

「他人のも見てみろってことか?」

「打ちたいならそっちを優先してもいいが」

「いや、一彦の提案ならメリットしかないから受け入れるよ」

「なんでもかんでも俺の提案を受け入れるのは無しだぞ」

「俺がメリットだと思ってるんだから気にするな。それに一彦がそう言ってくれるから俺だって、色々経験してみようって思えるんだ」


 そういう訳で、今回の面子は秀子・園田・アッコと俺の間にひとみという布陣となった。


 ひとみは、アッコのコーチ役をしながら俺を見ることが出来る最高のポジションだって喜んでいたので、思わずカメラのシャッターを切った。


 これで、俺のひとみ専用のカメラを使い切ることが出来たのでようやく現像に回すことが出来る。


 出来上がった後ににやにやしてる俺がいるんだろうな……顔に出ないようにしようと思ったが、無理な相談だなって自問自答していた。


 洋太は、園田を打ち方や松木の指導を見て色々と思うことがあったようで松木にそのたびに聞いていた。


 そして、松木が自分の判断で洋太に園田の指導したりして、俺の胸は無意識に熱くなっていると。


「あなた?感動するのは後にして、今は格好いい姿を見せて♪」

「そうだな、ひとみも手加減無しだからな」

「うん、アッコが勝ったら私にご褒美くれる?」

「いいよ、それじゃ勝負」


 すると、洋太が秀子の所に行って耳元でひそひそと話しているのだが、言いたいことなら多少は理解はしてるがな。


 大方、『秀子分かってるな?』『私が勝たないとダメってことね』って感じだ。


 俺も偶には大きい点数を狙ってみたいのがあったので、今回は気合を入れた。


 ……のはずが、何故か今日に限っては空回りというか運が完全に周りに持ってかれているのだ。


「あ、それポンです」

「チー」

「それ、ポン」


 ちょっと待て、俺の所に牌が来ないんだがどうゆうことだ?


 しかも、鳴いたりしてくれてるおかげで俺の手は進まず、相手に振り込まない打ち方しか出来なくなり、その結果……まさかの最下位で終えることになった。


「一彦でも、鳴かれたりするとどうにもならないんだな」

「ああ、牌が回ってこないから揃いもしないからな。松木とひとみの策略だよ」

「志村がやる気出してたのが分かったからな。出鼻をくじくならそれが一番」

「ええ、牌が回らなければ手が進まないもんね」

「ああ、見事過ぎて完敗だよ。でも、楽しかったー」

「「「え?」」」


 ひとみを除く、全員が俺の言ったことに抜けたような声が出るが、俺は気にすることなく。


「だって、自分の思うようにいかないんだ。これが楽しい以外にない」

「それって、普通悔しがる所じゃないんですか?」


 秀子は、俺の言ってる事に疑問を感じているようなので解消させることにする。


「いや、負けて悔しいのは多少あるけどさ、それよりもこの三人にリベンジが出来る楽しさが出来たことの方が嬉しいんだ」


 負けたはずなのに、不思議と清々しい気持ちにもなっていたのは、俺がいても関係なく自分達の好きなように打ってくれたからで、その熱意に俺が負けただけの話なのだ。


「私達は、先輩に一生勝つことなんて出来ないんでしょうね……」

「ええ、同感ね。そんな考えがまず出ない」

「………」

「なんか、これって試合に勝って勝負に負けたやつなのか……」

「そうだろうな、結局一彦の一人舞台か」


 ひとみ以外、四者四様の発言をしてきて……園田は黙るしかなかったが……それにしても、相変わらず言われようが半端ないんだけど。


「少しは自分達が作っているって思ってくれないと困るんだが。俺が全部やってる訳でなくて、みんながいるからこうして楽しく出来るんだからさ」


 紛れもない事実を言うと、返ってくる声が。


「また、そうやって名言……じゃなくて格言みたいなこと言わないで下さい」


「何故、普通のことを言ってるだけなのにこうなる?」


 秀子がげんなりしながら言ってくるがその後に。


「さすが、私の自慢の旦那様♪」


 ひとみの惚気でみんなが、見事に黙ってしまったので、ここで終了となった。


 時刻は四時半になっており、俺とひとみはある大切な用事があるので、帰る準備をして洋太達に帰ることを伝える。


「洋太、松木。悪いけど後をお願いできるか?」

「ああ、それは全然構わないよ。まだ打ち足りないからな」

「明日、この回の結果を楽しみにしてるよ」

「ああ、お疲れさま」

「お疲れ様、みんなも気を付けて帰ってな」

「「「はーい」」」

「行こうか、約束を果たしに」

「うん♪」


 俺らは、今から用事を済ますために帰路に向かった。

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