日常㉕

 ひとみが生徒会室を選んだ理由は、俺も言ったが二人に構ってしまったので甘えたいということを俺が断る訳もないのだ。


 それは俺も同じことで、お互いに補充をしようってことで生徒会室を選んだということ。


 で、俺らの求めるものは『安らぎ』なので昼飯をゆっくり食べながら過ごしていた。


「ごめんね、我が儘言っちゃって」


 食べてる最中にひとみが申し訳なく言ってくるので、俺は素直に気持ちを伝える。


「それでいい、我慢されるならちゃんと言ってくれる方が俺は嬉しいんだ。ひとみといつでも一緒にいたいんだからな」

「ありがとう♪そうしたら、もう一個だけ我が儘を言ってもいい?」

「いいよ、言ってごらん」

「少しだけでいいから膝枕して欲しいの」


 ひとみの願いを了承した俺は、ある場所からアイテムを取り出す。


 それを持ってひとみの所へ戻り、日差しもある程度当たる場所まで連れて行き、寝かせた。


「まさか、こうする為に持ってくるなんてびっくりだよ」

「こうすれば、見られることもないし汚れることは無いからな。これだって一ヶ月に一回は洗えばいいだけだし」

「それで本音は?」


 奥様には俺の思惑は見事にバレてしまい、素直に答えるしかなかった。


「奥様の身体に悪戯する為。けど、今は休ませるのが一番の役目だな」

「少しだけ、ゆっくりさせてね♪」

「好きなだけ寝てるといいよ」


『うん』って言うと、すぐさま寝てしまったようで、この空間だけ穏やかな雰囲気が流れていた。


 この雰囲気も俺が求めてるいることの一つで、俺らはお互いにこうしていられればどこかに行かなくてもいいと思えるくらいに充実できるのだから。


 お互いが求めることが『身体』ではなくて『心』なので、心が安らげる場所があるのならそれだけで他に必要なんてない。


 そんな、少しばかり年寄りみたいな言い方をしながら寝ているひとみの髪の毛を優しく梳く。


 撫でるように触っていたのは、この瞬間がなによりも幸せを実感できるから。


 チャイムが十分前を知らせ、ひとみが目を覚ますと、まるで『おはよう』っていわんばかりのキスをくれた。


「やっぱり、あなたのそばが一番安らぐ♪」

「そう言ってもらえると抱きしめたくなるっていうか抱きしめる」


 まるで確定事項のように言ってからひとみをギュッと抱きしめると、ひとみも応じるように抱きしめてくれて俺の心の中が温かくなる。


「ありがとう、これで残りの授業も頑張れるよ」

「ふふ、そんなこと言っても他には何も出ませんからね、意地悪な旦那様♪」

「さて、そろそろ行こうか」

「はい♪」


 ものを片付けて、ひとみの手を取って俺らはひとみの教室まで戻ると当然だがゴシップ記者らしき連中がいる訳である。


「あらあら?なんだか、奥様の顔色が清々しいんですが?」

「ああ、たくさん愛でてあげたからじゃないか?」

「だから、そうゆうことをさらって教室で言っちゃダメですって!」

「ん?普通に寝かせていただけだぞ?」

「へ?」

「あら、秀子?私達が何かしてると思ったの?」

「もう、アレを使ってるんですね」


 秀子の言う『アレ』とは、先ほど使っていたクッションとブランケットとタオルケットの3点セットである。


 今までは、お互いのブレザーを使用していたが汚れたり冬になってる以上は脱がす訳にはいかないと思い、バイト先にお願いして原価で買わせてもらった。


 なので、寝てる最中に色々とはだけそうになっても見えてしまうことのないようにする為に買っておいたのだ。


 段々、私物化してるな俺……引っ越しの時に意味不明な物がある理由が、ようやく理解できた次第である。


 うん……先輩方がそうなった理由が自分の身になって初めて知った気分。


 ひとみが卒業する時には迷惑にならないように持って帰ろうと心に決めた。


 と、同時に単に他の人にその温もりを感じてもらいたくない嫉妬心だった。


 五限目の告げる予鈴が鳴ったので、名残惜しいけど教室に戻ることにしたのだった。


 五限目が終わって、休み時間の時に秀子がひとみと色々と談笑をしていたらしく、放課後になり迎えに行くと秀子が俺のことをにやにや顔で見ていたのだ。


 これは、五限目終了後の一幕。


 <ひとみside>


「ねぇ、ひとみ?最近、寝不足なの?」

「ううん、そんなことない……よ、多分」

「先輩に所為?おかげ?で色々寝不足なのかと……」

「……すこしだけ」

「ちょっと、二人とも……どれだけ頑張ってるのよ!?」

「ん?旦那様は今回は殆ど関与してないよ。それに今はあれだから」

「ねぇ、もしかして……寝不足の理由って」

「……はい。秀子の察しの通りだと思う」


 そう、私は現在女の子の日週間になっていているから旦那様に抱いてもらうことが出来ないのだ。


 その気になれば可能だが……


 だから、私はあの日にあの事を教えてもらったのだが……あまりにも旦那様が好きすぎて、疑似でもいいからその感覚が欲しくなってしまっていたのだ。


 なので、私は秀子にこんなことを聞いてしまった。


「ねぇ、秀子は……ってどうしてるの?」

「うーん、私は他の友達から聞いたりしてるよ」

「私が変なのかな……」

「変というか、本当に先輩を愛してるんだなって思うけどね」

「重いよね………」

「あははー」


 突然、秀子がお腹を抱えて笑い出したので私の頭の中は一瞬??って感じになってしまったが、秀子が笑いながらも理由を説明してくれた。


「ごめんごめん。いやね、以前に先輩と話してた時に先輩が『重くないか?』って言った時があったのを思い出しちゃってさ。やっぱり、2人は最高の夫婦だなって思ったのよ」

「一彦がそんなことを?」

「ええ、自分のやってることが重すぎて負担にならないかって心配してたの。私は『ひとみも同じですよ』って答えた」

「私、一彦がいなくなったらどうなっちゃうんだろうね」

「ひとみ、今そんなこと考える必要なんてないの」

「え?」


 私は、素っ慳貪な声が出てしまったが秀子は気にすることなく言葉を放つ。


「今が幸せなんだから先輩がいなくなることを考えたって意味ないの。だったらいなくならないようにする方法を考えた方が得でしょう?」

「秀子……なんか、一彦みたいな言い方」

「そりゃ、志村教ですからね。本当は自分でも分かってるんでしょうけど」

「秀子、ありがとう」

「別に、私は先輩の代わりに言ったようなものだからね。気にしないで」


 私は、本当にいい友達……いや親友に恵まれていると思う。


 美優・秀子・アッコは特に色んなところでお世話になっているから、いつか恩返しが出来たらなって考えている。


 けど、なにをしたら恩返しになるのかが分からなかった。


 すると、秀子が私の考えを読んだかのようにこう言ってきた。


「ねぇ、前にアッコの家でケーキを作った時に今度はひとみも一緒に泊まろうって言ってたんだけど、それで恩返しってことでいいんじゃない?」

「ひ、秀子?」

「あんたの一番酷い顔を見てるんだから、今何を考えてるかなんて丸分かりよ」

「そんなことでいいの?」

「いいもなにも、私達は見返りなんて望んでないからね。先輩だってそうでしょう?松木先輩や洋太に見返りを求めた?」


 その言葉を聞いて、私はつまらない観念に捕らわれていたことに気づかされるになる。


「私達は、二人から十分すぎるほどにもらってるの。だから、恩返しなんて思う必要なんてない。だって、私達は”親友”でそんな間柄に遠慮なんて無意味よ」

「あ、ありが……とう」

「あー、泣かないの。大丈夫、私達は二人のそばに出来る限りいるからね」


 私は、秀子の言葉に涙腺が崩壊してしまい泣いてしまった。


 けど、この時私は改めて思うことにした。秀子に自信をもって親友と呼んでもらえるように頑張ろうと。


 ※


 放課後になり、俺は準備をしてひとみの教室に向かうと秀子がひとみを攫って生徒会室に行ったと聞いて、俺も生徒会室に向かうことにしたのだった。

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