日常㉔
以前、妹がひとみにお願いしていたジグソーパズルを作る為に、今日は俺の家に行くことになっている。
昨日、ひとみに少しでも長く妹と一緒にいたいかもって思い、すぐに帰るっていう提案をすると『ううん、部活の方をちゃんとやってから行こう』って言ってくれたので俺は、部活の方を終わらせてから行くことにしたのだ。
けど、それ以外は至っていつも通りの流れだった。
朝の時点で五人が揃っており洋太or秀子のどちらが座って打っていた。
俺から見れば、二人の麻雀の知識はそりなりに上がって来てるので、俺は二人にある提案をしてみた。
「なぁ、たまには二人ともアドバイス無しで打ってみたらどうだ?ちゃんと見るし軽い手助けはするから」
「それだと、俺らはのろのろと打つことになるぞ?」
「それのどこに問題があるんだ?考えて打つのは普通なんだ」
「そうなのか?」
「多分、洋太は俺のを見てるのもあるけど俺のは考えてないからな」
「ふふ、旦那様は勝つ負けるとかは度外視ですから♪」
ひとみの言う通りで、俺は勝ち負けでやってはいない。
楽しむという意味では、何回もやれるほうが何倍も楽しいので点数は殆ど度外視してるのは否めないのだ。
場合によっては当然だけど、例外もあるが。
それに、卓が増えるということはそれなりに個々で打てる人がいてくれた方が助かる部分は大きい。
今の俺は一緒に打つよりも手助けをして打てるようになって欲しいという願いの方が圧倒的に強い。
なので、俺は洋太と秀子の間に座って流れを確認することにした。
そして、ひとみと松木にちょっとしたプレッシャーを掛けてみる。
「そうきたか、このまま行けば面白くなりそうだな。そのまま行こうぜ洋太」
「お、おう」
「秀子は……なるほどな。これはもしかしたら化けるかもな」
「そうなんですか!頑張ります」
「志村が言うとどっちか分からないから困るんだよな……奥さんは?」
「意地悪な旦那様ですからね、私も読めないです……けど、負けないもん!」
「ちょ、先輩?なんか、奥様が燃えてますけど!?」
「ああ、焚きつけたからな。さぁ、三人とも頑張れ!」
「「「鬼か!」」」
おい………誰が鬼じゃ!
ただ、闘争心を剥き出しにさせてただけで流れがそんなに変わる訳ではないけど、こうゆう場面も大事な事で体験しておけば後々楽になるから煽っただけ。
だって、冬休みには最強のプレイヤーが乱入してくるんだから。
それに少しでも対抗するなら、今の内にちょっとした緊張感もあってもいいと思えたから。
それが、運を手繰り寄せることもある。
時間が迫る中、秀子が俺に質問をしてきた。
「先輩、この状況ってリーチは出来ないんですよね?」
「ああ、もう終わりに近いからな。それでも点数は取れるし、役もあるから諦めずに待つんだ」
「りょーかいです」
「なんか、志村のおかげ?でいい緊張感で出来たな」
松木が差し出した牌、それはまさに天の恵みというべき牌だった。
「松木先輩、すいません。それロンです」
松木が切った牌は、索子の九索だった。
捨て場に一個だけ捨ててあったのと、これが必要だとは思ってなかったようで。
……ついでに言えば油断でもあった。
「純チャンにドラが乗ってるから満貫……じゃないな対々和も三暗刻も入ってたから倍満だ」
「マジかよ………冗談じゃ」
「だから面白いって言ったろ?お前は女子のビキナーズラックを食らってるはずぞ?そこの奥様に」
「あ」
「まさか、こんなことが三度も続くなんて思わなかったけどな」
丁度いいタイミングでチャイムがなり、今回の勝負は秀子の勝ちで幕を閉じた。
二人を教室に送り届けて、教室から出ようとするとひとみが俺にこんなお願いをしてきた。
「ねぇ、今日は甘えたいから生徒会室でご飯食べてもいい?」
「ああ、今日は二人に構ってたからな。お互いに補充しようか」
「うん、私生徒会室で待ってるから」
「一人なら俺が来るまで鍵を掛けておいてな」
「もう、過保護なんだから……はい、そうするね♪」
「それじゃ、いってくるな」
「いってらっしゃい、あなた」
俺と洋太も教室に戻るときの一幕で。
「なぁ、一彦?」
「なんだ?」
「さっきの煽りって必要だったのか?」
「半々って所かな?俺や松木の打ち方は北山先輩の足元にも及ばない。それに他の先輩の方もそれなりに打ち方を知ってるはずだからさ」
「予行練習ってことか?」
「そうゆうこと。ひとみと美優も北山先輩と打ってるから」
「それで、松木とひとみが本気を出してもらうと?」
「麻雀に本気も適当もないが、思いが強ければ引き寄せる力も強くなると思ってるから、意識だけ高めた感じかな」
「一彦は、冬休みは打たないつもりか?」
「ああ、ひとみにはバレてると思うけど。使える時間を使って教える方に充てるつもりだ」
「いいのかそれで?」
今更だよなそんなこと……
俺が求めているのは楽しいと思える空間とひとみが笑っていられる空間であって、俺はそれが叶うなら打てなくてもいいと思っている。
まぁ、教わってる人が申し訳なくなってしまう気持ちも分かるけど、成長するためにはここで打つ必要もあるし、先輩達が直に打たないとさらなる成長もない。
だったら、先輩達が来る前に二人を少しでもメンタル面を強化してあげれば大丈夫って確信している。
「みんなが楽しいって思ってくれれば、あっという間に俺らの所に辿り着く。そうしたら、俺だって嫌でも打たないといけないから今だけだよ」
「それならいいんだが……」
「気にし過ぎだ。打ちたくなればひとみと代わればいいだけで問題はないよ」
「一彦から見て、俺らの打ち方とはどうだった?」
「打ち方に関しては俺が言うことではないが、それ以外は問題ないと思ってる。さっきもそうだけど、俺が口出すことは無かったから」
「独り立ちしろってことか?」
「あれだけ、アドバイス無しで打てるならその方がいいと思うよ」
「分かった、今日は一人でやってみるよ」
「朝は俺がコーチだったから、放課後は美優がすると思うから分からなくなったらドラえもんもどきを呼べばいい」
別に、すべてを一人でやらせる訳ではない。誰か近くにいるのが判れば安心するだろうし、それを乗り越えられれば十分一人前なんだ。
それが、作った人間のやるべき仕事であり、責任でもある訳だから。
「相変わらずだな、サンキュー。今だけはお言葉に甘えてるよ」
「このまま行けば冬休みまでには十分にやれるから頑張ろうなんて言わない、精一杯楽しめ」
「ああ」
洋太の教室の前でお互いの拳を軽くぶつけ合い、俺は自分の教室へと戻った。
戻ると当然だが、俺に懐いている子豚が俺の所へやってくる。
実際は、懐いてる訳ではなく俺に文句を言いたいだけだろうけどな。
「なぁ、さっきはなんであんなこと言ったんだ?」
「それか、簡単だよ。冬休みに先輩達が来るのに不甲斐ない麻雀は見せられらないだろう?」
「いや、先輩達にそれを見せる必要は無いと思うんだが?」
「正直そんなことする必要な無いのは分かっているんだけどな、少しでも先輩達を退屈させたくないと思ってるだけだ」
「それで、俺達に発破を掛けた訳だ」
「ああ、予想外の焚きつけも出来たからな」
「そのおかげで俺は飛びそうになったけどな」
「いいじゃないか、紅の豚なんだから」
「お前に口で勝とうとした俺がバカだったよ……」
「ようやく分かったか、そろそろ先生が来るから席戻れ」
ペット?にハウスを言いつけるとなぜか素直に戻って行った。
松木の言う通りで、本来なら楽しくやっているので朝のような緊張感のある麻雀は無いと思ってるが、先輩達が本気を出してくれた方がやりがいがあると個人的に思ったから、今回の発破を掛ける行動に出た。
俺は、先輩達の存在が大きいので先輩達をがっかりさせたくないという、自分の勝手なエゴに、みんなを突き合わせてしまっているのだから。
四限目の授業が終わると、俺はすぐに立ち上がりひとみの待つ生徒会室に早足で向かうのであった。
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